三つの結末(脚本)
〇城
高科朗久「あの男が」
高科朗久「ずっとこの場所で封印されていたという、飼の兄」
高科朗久「っていうか、昔と服装違い過ぎてるし」
夏仲教師「興亜(こあ)様」
夏仲教師「私、貴方様を陰ながら支えておりました」
夏仲教師「ずっとお会いしとう御座いましたわ」
「フフフ」
「我も陰ながらお前を遠隔操作で操っていたよ」
「やっと一つになれるのう」
夏仲教師「えっ!?」
高科朗久「な‥夏仲先生」
夏仲先生「フフフ」
夏仲先生「この女に殿の悪霊をちらつかせていたら」
夏仲先生「すっかり惚れ込んでしまったわ」
夏仲先生「何時でも乗っ取れるように、美しい情報を何年も見せ続けていたんだよ」
夏仲先生「‥‥この女もそうなるであろうな」
高科朗久「司!」
喜佐夫「すまない、ろく君」
喜佐夫「司も捕まってしまったんだ」
戸田司「‥‥先輩」
戸田司「あはは、待ってよ」
喜佐夫「辞めろ、司を元に戻せ」
夏仲先生「フフフ、人質はそれだけじゃ無いって事」
夏仲先生「という訳で、お前達は身動き出来ないのだ」
高科朗久「‥‥お前」
高科朗久「俺に何をして欲しいんだ」
夏仲先生「‥‥それは」
夏仲先生「お前も妖になる事」
夏仲先生「取り敢えずその数珠を下に置け」
夏仲先生「そしてその力を解除しろ」
高科朗久「‥‥」
夏仲先生「さあ、可愛い僕よ」
夏仲先生「その数珠を奪いなさい」
あい「はい」
高科朗久「ううっ」
高科朗久「隣に居るだけでどんどん力が抜けていく」
高科朗久「‥‥まるで抗っても襲い来る身体の衰えのようだ」
楠 小阿「まだそんな事を言える余裕があるのか」
高科朗久「‥‥はぁ、はぁ」
喜佐夫「ろく君!」
楠 小阿「貴様、さっきから善人顔しているが」
楠 小阿「元々は我等と同じであろう」
楠 小阿「我らが城の栄華を極めようとしていたのを邪魔しおって」
楠 小阿「全ては我に手をかけた六歳、お前のせいだ」
高科朗久「‥‥‥‥」
水上飼「兄貴、いや、兄上」
水上飼「私は当事者ではないので過去の事は解りませんが」
水上飼「俺は代々伝わる迷走の古書を読んでいるので」
水上飼「何があったのかは存じている」
水上飼「‥‥その妖の事も」
水上飼「楠城主亡き後、国に妖が攻めて来たり」
水上飼「余の死の寸前、妖から退がれし年端も行かぬ少年、六歳の幼子を抱き数珠を手に現れし候」
水上飼「彼によれば、殿の前に妖巫女と呼ばれる女子が屍の兄上と共に現れたり」
水上飼「各地の城主に取り憑き妖と変えていく妖であると、事細かく話したり、と」
水上飼「兄上はその戦で討たれた筈であった」
水上飼「なのに、今此処にこうして姿を現している」
水上飼「‥‥夏仲先生に取り憑いている妖によって」
水上飼「つまり」
水上飼「今の貴方は、この世に表れた妖だ」
水上飼「俺の知っている兄上では無い」
〇城
六歳(こ‥‥これはどういう事だ)
六歳(死んだと聞いていた殿が居られるでないか)
六歳(‥‥それにあの女)
「六歳様、六歳様」
六歳「おっ、お主は確か」
六歳「女忍、琴の弟喜三郎だな」
六歳「お主の姉に、皆を戦火から逃げるように手配させたのじゃったが」
六歳「何故此処に来た」
喜三郎「うっうっ」
喜三郎「六歳様、お許し下さい」
喜三郎「姉ちゃんも‥‥六歳様の奥方様も」
喜三郎「みんな化け物に殺されてしまったんだ」
六歳「なんと」
喜三郎「おいら、この子だけ抱いてここまで来たんです」
六歳「喜三郎」
六歳「お主らをこんな目にあわせすまなかった」
喜三郎「いいえ、六歳様」
喜三郎「おいらも、姉ちゃんと皆の仇を取ります」
喜三郎「どうか手伝わせて下さい」
六歳「いや」
六歳「それは俺がやる」
六歳「‥‥その変わり」
六歳「頼みたいことがある」
六歳「殿、」
六歳「お亡くなりになられたと聞いていたので驚きましたぞ」
楠 小阿「はっはっはっ」
楠 小阿「我はこの世を納める迄は死ねぬのでな」
六歳「それは、その女の仕業ですか」
六歳「見た目は美しいが、敵国から来た妖と噂されておりまする」
六歳「‥‥皆は敵を妖魔に変えた、その妖巫女に滅ぼされたのに」
六歳「殿は何故、そんな妖怪と一緒におられるのです?」
楠 小阿「六歳」
楠 小阿「この巫女は我の手助けをしてくれる頼もしい娘御」
楠 小阿「我にこの世の全てを与えると申すのだ」
楠 小阿「‥‥もう一刻も猶予は無い」
楠 小阿「再びこの世を手に入れる為には、手段を選ばぬぞ」
六歳「そんな暴虐をなされば」
六歳「残された者に全ての仕打ちが来まする」
六歳「どうか若の事をお考え下さい」
楠 小阿「六歳、余に口答えするのか?」
六歳「いえ」
六歳「この六歳めも、その力に肖りとう御座いまする」
楠 小阿「だったら望み通りにしてやろう!」
六歳「えやッ!」
六歳「う‥‥やはり刀が効かぬか」
六歳「うう」
六歳「殿、道連れ致します」
「グッ!?」
楠 小阿「ろ、六歳‥‥やるでないか」
楠 小阿「これからは」
楠 小阿「余と共に歯向かう者を倒し、この世を納めようぞ」
楠 小阿「ふっ、醜い化け物め」
いいえ
倒すのは貴方様です
楠 小阿「なっ!?」
〇城
妖巫女「起きろ」
妖巫女「‥‥まだ生きたいであろう?」
楠 小阿「う‥‥私は」
妖巫女「貴方様の望みはこの世を納める事」
楠 小阿「そ‥‥そうだ」
楠 小阿「我はまだ、この世を手に入れる迄は生きなければならぬ」
妖巫女「良いわ良いわ、その心意気」
妖巫女「そして、皆の溢れる邪心」
妖巫女「わらわの妖力となるぞ、おほほほほ!」
〇城
夏仲先生「結果的に」
夏仲先生「お前達だけが子孫となって残りおったわ」
夏仲先生「私達はその間、迷走の世界で彷徨っていたのに」
夏仲先生「‥‥だがようやく、迷界の扉は開き、抜け出す事が出来たのさ!」
夏仲先生「お前のその力で妖を甦らせれば、我らはこの世に出る事が出来るであろうが」
夏仲先生「‥‥その数珠はお前にしか使えない」
夏仲先生「お前が一瞬で我らを倒したその力、我らの為に使って貰うからな!」
高科朗久「うぅっ、はぁ、はぁ」
夏仲先生「そろそろ力が無くなってきたかえ?」
夏仲先生「とどめを刺してあげなさい」
夏仲先生「やれ!」
「うっ‥‥あいちゃんの心が」
「妖となって冷たく感じる」
「俺のせいであいちゃんをこんな姿に変えてしまった」
あい「だけど、ろく君がこうやって勝ったのでしょう?」
あい「私はもう守られるだけじゃ嫌、力になりたいの」
「‥‥確かに俺は妖となって妖を倒した」
「‥‥だけど、今はこんな力は要らない」
「‥‥いつも通りの日常で」
「あいちゃんを支えたいんだ」
〇城
あい「ろく君」
高科朗久「あいちゃん」
高科朗久「あっ!」
夏仲先生「おのれ、妖が奴を救うなんて」
夏仲先生「逆に妖力が弱くなり迷界が壊れてしまったではないか!」
喜佐夫「お陰でようやく君たちを倒す事が出来るよ」
喜佐夫「これまでだ」
夏仲先生「きゃあぁ~!」
夏仲先生「な、何?助けて~!」
夏仲先生「な‥‥君は!」
夏仲先生「‥‥何故?どうして私を助けたの?」
水上飼「先生が居なくなると校長が悲しむからだ」
喜佐夫「ここはもう壊れる」
喜佐夫「その前に司を起こさないと」
喜佐夫「目を覚ませ司!」
〇海辺
小手川「司」
小手川「好きだよ」
小手川「これからもずっとここに居よう」
戸田司「‥‥先輩」
戸田司「え?何があったの?」
戸田司「何かヤバイんじゃない」
だったら
お前は早く家に帰れ
戸田司「はっ!」
〇モヤモヤ
〇モヤモヤ
戸田司(先輩)
戸田司(やっぱり)
戸田司(もう居ないのですね)
魔神「せっかくいい夢を見させてやったのに」
魔神「無駄にしおって」
戸田司「ふざけるな!」
戸田司「俺が見たいのはそんなものじゃない」
戸田司「本当の思い出が欲しかったんだ」
戸田司「それが叶えられなかった先輩の無念、今晴らす!」
魔神「だったら」
魔神「お前も同じ目に会うがいいぜ」
魔神「地獄に落ちろ!」
戸田司「はっ!」
魔神「グッ‥‥」
戸田司「悪いが俺は」
戸田司「そんなつもりは無い」
〇住宅街
司
戸田司「小手川先輩」
戸田司「戻って来たんですね」
〇モヤモヤ
戸田司「う‥‥‥‥」
喜佐夫「司」
高科朗久「無事で良かった」
戸田司「俺はもう大丈夫だから」
戸田司「心配しなくていい」
楠 小阿「もはやこれまでか」
楠 小阿「まさか家来に再び殺られてしまうとはな」
水上飼「兄上」
水上飼「貴方には解らないだろう」
水上飼「大切な者を失う気持ちが」
水上飼「六歳の数珠を受け取った介人は彼の望みを受け継いだ」
水上飼「だが、彼はそんな力より六歳に生きて欲しかったのだ」
楠 介斗「六歳」
楠 介斗「‥‥‥」
水上飼「あれからの彼は」
水上飼「取り残された悲しさと後悔しかなかった」
楠 小阿「バカな、家来に後悔など無用であろう」
水上飼「例えそうだとしても」
水上飼「俺にとっては失いたく無い存在だったのだ」
水上飼「それは貴方とて同じですよ」
水上飼「‥‥兄上」
水上飼「介人は自分より強かった兄上に憧れ、尊敬しておりました」
楠 小阿「‥‥‥‥」
楠 小阿「解った」
楠 小阿「今度生まれ変わる時があれば、良い兄として会おう」
水上飼「さあ、戻ろう」
水上飼「また何時も通りの学校が始まるぞ」
高科朗久「おう!」
〇教室
〇体育館の中
〇体育館裏
〇学校の廊下
〇学校の廊下
〇白い校舎
高科朗久「飼」
高科朗久「俺がこの数珠を手にしたのは」
高科朗久「俺とあいちゃんがくっつく為だったんだな」
水上飼「いや、違う」
水上飼「だが」
水上飼「お前がそう願うのなら叶えればいい」
高科朗久「そうか!」
〇渡り廊下
仮名相「あっ」
仮名相「お~い」
仮名相「ろく君!」
「あいちゃん!」
〇学校の廊下
「あっ!」
楠迷走学校
完