エピソード1(脚本)
〇廃ビルのフロア
高木誘作「くっそ! 何でこうなった!」
平川盗愛「それは後にしましょ」
平川盗愛「はいこれ」
高木誘作「え? なにこれ?」
平川盗愛「あなたの分。こんなこともあろうかと」
高木誘作「どういう想定?」
高木誘作「っていうか本物?」
平川盗愛「イエスかノー。答えはどちらがお好み?」
高木誘作「えっと、じゃあノーで」
平川盗愛「なら、安全だから人に向けて撃って」
高木誘作(その行動が安全とは言えないんじゃあ・・・)
高木誘作「じゃあ、イエスだったら?」
平川盗愛「安全のために人に向けて撃って」
高木誘作「んな無茶苦茶な」
〇ファストフード店の席
数日前・・・
平川盗愛「あなたが、誘拐屋さん?」
高木誘作「まさかとは思うけど、それ誰彼構わず聞いて回ってるわけじゃないよね?」
平川盗愛「いいえ。ちょっと驚いただけ」
高木誘作「それはこっちのセリフだけどね」
高木誘作「一応確認するけど、依頼者の平川盗愛(ひらかわ とあ)さんで間違いないね」
平川盗愛「そう。その通り」
高木誘作「じゃあ、こっちも念のため自己紹介しておこうかな」
高木誘作「俺は高木誘作(たかぎ ゆうさく)」
平川盗愛「知ってる。誘拐屋さんでしょ」
高木誘作「誘拐プランナーね」
平川盗愛「どう違うの?」
高木誘作「皆様に快適な誘拐ライフを送ってもらうため、様々な誘拐を企画・立案し、遂行まで行うのが仕事なの」
高木誘作「ただの雇われとは訳が違うよ」
平川盗愛「ふーん」
平川盗愛「どうでもいいけど、要は誘拐してくれるってことでしょ?」
高木誘作(どうでもいいって・・・)
高木誘作「まぁ、要約するとそうだね」
平川盗愛「じゃあ、お願い。私を誘拐して」
高木誘作「・・・・・・」
平川盗愛「何? できないの?」
高木誘作「できなくはないよ。でもお断り」
平川盗愛「なんで!?」
高木誘作「あのね盗愛ちゃん。君がいくつかは知らないけどさ、うちは託児所じゃあないんだよ」
高木誘作「依頼料は高いよ。君のお小遣いで到底足りないほどにね」
平川盗愛「そのくらいわかるよ」
平川盗愛「非合法な仕事だもん。高額なことぐらい小学生でもわかるよ」
高木誘作「なら、君はいくら払えるの?」
平川盗愛「私は払わない」
高木誘作「なら、話はここまでだね」
平川盗愛「でも親が払ってくれる」
高木誘作「・・・家族ぐるみなの?」
高木誘作「なら、初めから君の両親が依頼に来なよ」
平川盗愛「違う。言ったでしょ、誘拐されるのは私」
平川盗愛「そして、払うのは親」
高木誘作「あー、もしかして」
高木誘作「親相手に身代金を請求しろって?」
平川盗愛「その通り。全額、あなたの報酬でいいわ」
高木誘作「目的は?」
平川盗愛「・・・・・・」
高木誘作(まぁ、おおかたわかるけど)
高木誘作「家出のつもり?」
平川盗愛「・・・そういうわけじゃないけど」
平川盗愛「ただ知りたいの」
平川盗愛「私がもし誘拐されたら、親はお金を出してくれるのかなって」
高木誘作「愛情を測ろうって、そういう魂胆か」
平川盗愛「いけない?」
高木誘作(そんなことだろうと思った)
高木誘作「俺はご両親と話し合うことをお勧めするけどな」
平川盗愛「案外まともなのね」
平川盗愛「でも、パパは私の話なんか聞いてくれないから」
高木誘作「お母さんは?」
平川盗愛「いつもいない」
高木誘作「離婚?」
平川盗愛「ううん。朝には帰ってくる」
平川盗愛「それから寝て、夜になったらまたでかけてる」
平川盗愛「よくわからないけど、友達と会ってるとかって」
高木誘作(遊び人か・・・)
平川盗愛「時々、私は実はこの世に存在してないんじゃないかなって感じるの」
平川盗愛「誰にも私の姿は見えないんじゃないかって、そんな不安に襲われる」
高木誘作(典型的な愛情不足だな・・・)
高木誘作「そっか、事情は分かったよ」
平川盗愛「じゃあ」
高木誘作「うん、お断り」
平川盗愛「だから、なんで!」
平川盗愛「今の明らかに受ける流れだったじゃない」
高木誘作「理由は単純だよ」
高木誘作「君の親が払うという保証がないから」
平川盗愛「・・・・・・」
高木誘作「悪いけど、ただ働きは御免だよ」
平川盗愛「そう。そうだよね・・・」
平川盗愛「わざわざ呼び出してごめんなさい」
高木誘作「別にいいさ。このくらい」
平川盗愛「・・・・・・」
高木誘作「・・・はぁ」
高木誘作「・・・コーヒーでも一杯奢ろうか?」
平川盗愛「いらない」
高木誘作「苦いのは苦手? なら、好きなジュースとかでも──」
平川盗愛「いいよ。慰めはいらない」
高木誘作「そんなんじゃないさ」
高木誘作「ただ必要になるから言ったまでだ」
平川盗愛「え?」
高木誘作「これから話は長くなる。喉乾くよ」
平川盗愛「どういうこと?」
高木誘作「引き受けるって言ってるの。君の依頼」
平川盗愛「え? え?」
高木誘作「そうと決まれば、まずは値段を決めなくちゃね」
平川盗愛「値段? 身代金の?」
高木誘作「そ。そして、それはそのまま君自身の値段だ」
平川盗愛「わ、わたしの・・・」
平川盗愛「いくらなの?」
高木誘作「それは自分で決めるんだ」
高木誘作「君は自分をいくらだと見積もる?」
平川盗愛「え、えと、それは・・・」
平川盗愛「ひゃ、百万円くらい?」
高木誘作「やっす!」
平川盗愛「ええ!」
高木誘作「自分の値段なんだよ? 二千万くらい言い切りなよ」
平川盗愛「に、二千万・・・」
高木誘作「はい決まり。二千万ね」
平川盗愛「いや、あの、ちょっと・・・」
高木誘作「じゃあ、細かいところ決めて行こうか。まず──」
平川盗愛「あの、その前に聞いてもいい?」
高木誘作「なに?」
平川盗愛「なんで急に引き受けてくれる気になったの?」
高木誘作「あー・・・」
高木誘作「白状しよう。俺はガキと女には弱いんだ」
平川盗愛「それってつまり、私の色香に惑わされたってこと?」
高木誘作「残念。君は前者だ」
〇タワーマンション
高木誘作(なーんてね)
高木誘作(ただ言われたことやってるだけじゃ、誘拐プランナーは務まらないんだよ)
高木誘作(それにしても・・・)
高木誘作「かー、でっけぇ」
高木誘作(通りで奥さん遊び惚けさせられるほどの財力あるわけだ)
高木誘作(ま、そう来なくっちゃここまで出向いた甲斐もない)
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)