運命のスクランブル(脚本)
〇渋谷駅前
澄み渡る青い空
風はまだ少し冷たいけれど、春の匂いがする。
綾は渋谷駅の改札を出て少し歩き、交差点の前に立つ。
肩には大きなショルダーバッグを掛けている。
高山 綾(たかやま あや)「ああ久しぶり。ここに来るのって、3年ぶりかな?」
高山 綾(たかやま あや)「そうだ。ここが始まりだったんだ」
大きく深呼吸して、青になった交差点を歩き出す。
〇渋谷駅前
── 三年前 2022年春 ──
大きなため息をついて歩き出す綾。
紺のリクルートスーツに紺のカバン、黒のローファーを履いている。
うつむき気味で足取りが重い。
〇渋谷のスクランブル交差点
バーン!!
〇渋谷駅前
気付いた時にはコンクリートの上に尻もちをついてしまっていた。
そして目の前には、同じように尻もちをついた若い男性がいる。
木田 雅人 (きだ まさと)「っってえー!!」
木田 雅人 (きだ まさと)「やっベー、大丈夫かよ」
と言いながら、薄手のトートバッグからパソコンを取り出す。
高山 綾 (たかやま あや)「あのっ、ごめんなさい!! 私、ボーッとしちゃってて」
高山 綾 (たかやま あや)「パソコン壊しちゃってたらどうしよう。 弁償しますから!!」
二人は近くのファーストフード店に移動した。
〇ファストフード店の席
ちょうどお昼時でもあったのでお互いに注文し、向かい合って座った。
木田 雅人 (きだ まさと)「俺、木田 雅人です。お姉さんは?」
高山 綾 (たかやま あや)「高山 綾です」
彼はパソコンを取り出す。
それからパソコンを開いてタップする。
木田 雅人 (きだ まさと)「ああ、よかった。大丈夫。なんともないよ」
高山 綾 (たかやま あや)「よかったです!!ほんっと、すみませんでした」
高山 綾 (たかやま あや)「就職活動、うまく行ってなくて、自分が何したいんだか分からなくなってしまって」
高山 綾 (たかやま あや)「たまたま受かった大学の教育学部に入ったんだけど、先生になりたいとか思えなくて」
高山 綾 (たかやま あや)「かといって、どういう仕事につきたいっていうのもなくて」
高山 綾 (たかやま あや)「こんなんじゃ、どこにも雇ってもらえないですよね」
高山 綾 (たかやま あや)「親とか親戚には、どうなってる?って心配されるし」
綾は深くため息をつく。
木田 雅人 (きだ まさと)「・・・」
木田 雅人 (きだ まさと)「親とか親戚とか、関係ないよ」
木田 雅人 (きだ まさと)「人って、そんなに人の人生のこと考えてないから」
木田 雅人 (きだ まさと)「それより、」
木田 雅人 (きだ まさと)「自分のやりたいこと考えてみたら?」
木田 雅人 (きだ まさと)「好きでもないことをやり続けるのって、難しいよ」
木田 雅人 (きだ まさと)「俺ね、親の期待しょって大学入ったんだけどね。ホントつまらなくてさ」
木田 雅人 (きだ まさと)「プログラミングが出来るとカッコイイかなって理由でバイトした金でパソコン買ったのよ」
木田 雅人 (きだ まさと)「でね、オンラインサロンに入ってプログラミングを始めたらさ」
木田 雅人 (きだ まさと)「どんどん面白くなっちゃって」
木田 雅人 (きだ まさと)「そっちの世界で頑張ろうって決めて、大学辞めて、今、見習いみたいな感じでやってるんだ」
木田 雅人 (きだ まさと)「よーく考えてみなよ。きっとあるから」
木田 雅人 (きだ まさと)「考えるだけでワクワクするような何かがあるはずだよ」
高山 綾 (たかやま あや)「そうかな・・・」
木田 雅人 (きだ まさと)「一回、今までのことリセットしてみなよ」
木田 雅人 (きだ まさと)「お金とか、名誉とか、世間体とか関係なしに、好きなことが出来るとしたら、何がしたいか」
木田 雅人 (きだ まさと)「うちの母ちゃんが言ってたんだけどさ、」
木田 雅人 (きだ まさと)「身の回りにある余計なものを処分してくと頭の中もスッキリするってよ」
木田 雅人 (きだ まさと)「いろんなことをやらなくちゃって思っていると、」
木田 雅人 (きだ まさと)「自分にとって大事なものがなんなのか見えなくなってきちゃうんだって」
木田 雅人 (きだ まさと)「ワクワクするものが見つかったら、それをやるって決めちゃうんだよ」
木田 雅人 (きだ まさと)「そしたら、諦めない限り、 いつか叶うから!!」
木田 雅人 (きだ まさと)「っって俺の好きなユーチューバーさんが言ってた」
木田 雅人 (きだ まさと)「じゃ、俺行くわ。頑張って!! 俺もだけど」
高山 綾 (たかやま あや)「はい!!ありがとうございました。 なんかやる気出てきました」
〇路面電車の車内
電車から、まっすぐ外を眺める綾。
高山 綾 (たかやま あや)「連絡先、聞けばよかったな・・・」
自宅に戻り、綾は部屋の片付けを始めた。
〇女の子の部屋
もう着ない服、紙袋、雑誌、
たくさんのぬいぐるみたち。
処分するものたちは、45リットルのゴミ袋20袋にもなった。
高山 綾 (たかやま あや)「こんなに余計なものに囲まれてたんだね、私」
高山 綾 (たかやま あや)「スッキリした!!なんだか気分も軽くなったみたい」
〇女の子の部屋(グッズ無し)
綾は、スッキリと綺麗に片付いた部屋の棚にあるアルバムに手を伸ばす。
アルバムをめくっていくと、ある写真に目が止まる。
それは、保育園の頃の自分。
自分の描いた絵の脇で、嬉しそうに背筋を伸ばして立っている。
母の日の絵が大賞を取って記念写真を撮った時の写真だ。
高山 綾 (たかやま あや)「この頃、絵を描くのが大好きだったんだよね」
高山 綾 (たかやま あや)「小さい頃は、絵ばっかり描いてた」
高山 綾 (たかやま あや)「絵を描くと、褒められたり、喜んでもらえたりして嬉しかったんだ」
高山 綾 (たかやま あや)「どういう絵を描こうか、どういう色にしようかって考えるだけでワクワクしたんだっけ・・・」
高山 綾 (たかやま あや)「中学生になってから、勉強についていけなくなって、絵を描くのを辞めちゃったんだ」
高山 綾 (たかやま あや)「あ、そうか・・」
それから三年
〇渋谷駅前
大きなショルダーバッグを肩に掛けた綾。
バッグの中には、たくさんの画材が入っている。
今日は渋谷のファッションビルで似顔絵を描く仕事に向かう。
信号が青になり綾は歩き出す。
高山 綾(たかやま あや)「あっ!!」
運命のスクランブル交差点
たくさんのことに囲まれて、自分がどうしたいのか分からなくなった時
そんな時は思い出してください
自分の中にあるワクワクを。
必ずあるから!!
終わり方がとても運命的で素敵でした✨
「連絡先聞いておけばよかったな」というセリフが
彼女の可愛らしさを表していて好きだなと思いました😌
彼との運命の出会いが、女性の未来を導き出した。小さい頃の夢が叶うっていいな。二人のみらいに幸あれ。私も身の回りのものを片付けてみるか。
大人になると、やりたいことにちゃんと向き合っている人はほとんどいなくなりますよね。時間がないのか、忘れてしまっているのか、何か無理やり理由をつけて。自分に素直になってみようと思える作品ですね。