読切(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
渋谷スクランブル交差点
天野時夜具「はぁ・・・」
彼の名前は天野時 夜具(あまのじ やく)。
名前の通りの天邪鬼。
その性格から、
30分前に彼女に振られたばかりである。
天野時夜具(なんでいつもこうなるんだ・・・)
〇レストランの個室
──1時間前、某レストラン。
夜具の彼女「ここのお料理おいしいね♪」
天野時の仕事が多忙を極めていたので、
本日は久しぶりのデート。
天野時は念入りにリサーチをしたお店に彼女を誘った。
天野時夜具(ほんと、美味しい・・・ めちゃくちゃリサーチしてよかった)
天野時夜具「僕が選んだんだから、 美味しくないと困るよ(笑)」
天野時夜具(っ・・・! しまった・・・!)
凍りつく空気。
天邪鬼な性格のせいで、思ったことが素直に口から出てこない。
夜具の彼女「ええと・・・」
夜具の彼女「最近忙しいって言ってたのに、素敵なお店に連れてきてくれてありがとう♪」
優しい彼女。
お陰で天野時の性格でも関係が続いていた。
天野時夜具(僕の失言を許してくれるなんて・・・ 本当に素敵な子だ!!! ありがとう!!)
いつもの天野時ならここで照れて終わっていた。
──だが、今日の天野時は一味違った。
天野時夜具「連れてきた訳じゃなくて一緒に歩いてきたじゃん。 わざわざありがとうまでは要らないよ」
感謝を伝えようとして、照れてしまったのだ。
夜具の彼女「・・・」
オシャレな有線が一瞬止まった気がした。
天野時夜具(さすがにやばい・・・ 何か言わなきゃ──)
気の利いたセリフなど、
すぐに出てくるはずもなく・・・
夜具の彼女「夜具くん・・・ 私と一緒にいるの・・・楽しい?」
〇ハチ公前
レストランから2時間後──
天野時夜具「なんでなんだよぉぉぉぉ・・・・・・」
天野時夜具「あんないい子ぉ・・・ もう二度と会えないだろうに・・・」
天野時は振られたショックにより酒が進み、酔っていた。
すっかり雨は止んでいる。
そのままフラフラと
ハチ公前広場にたどり着いていた。
天野時夜具「・・・あれ? いつの間にこんな所に・・・」
深夜になり、いつも賑わっているハチ公前に誰もいない。
別の世界に迷い込んだ感覚があった。
その感覚に、少しだけ酔いが覚める。
天野時夜具(──そう言えば、ハチ公ってなんかジンクス? あったよな・・・?)
〇ハチ公前
ハチ公像の前に自分一人の時、
1度だけハチ公像が動く。
その瞬間を見た人は幸せになれる。
一時期、SNSで話題になっていた物だ。
天野時夜具(銅像が動くとか・・・ ・・・ないだろ)
天野時夜具「・・・」
天野時はゆっくりハチ公像に近づく。
不幸のどん底にいる天野時は、
少しだけ何かに縋りたかったのかもしれない。
ぺたっ──とハチ公像に触れる。
寒空の下でお座りしている銅像は、
思ったよりも冷たい。
──もちろん動く気配もない。
〇ハチ公前
天野時夜具「──ははっ」
天野時夜具「何やってるんだろう・・・」
銅像の冷たさが、
さらに酔いを覚まさせてくれる。
そのまま銅像を撫でながら、
天野時は今までの自分を振り返った。
天野時夜具「思ったことが上手く口に出ないって、 自分は分かってて、悩んでても──」
天野時夜具「そんなの相手は知ったこっちゃないんだよなぁ」
天野時夜具「──忙しくしてても、 いつも優しく労ってくれて・・・」
天野時夜具「可愛いだけじゃなくて、 気もきいて、柔らかい雰囲気の彼女が好きなんだ」
天野時夜具「今日だって、彼女に喜んで欲しくて・・・ せっかく喜んでくれたのに酷いことしか言えない・・・!」
天野時夜具「どうやったら・・・ ちゃんと伝えらたんだろう・・・」
「もうやり直せないのかな・・・」
彼女との別れを思い出し、
再び涙が出る。
涙を拭おうと顔をうつむかせた。
その時──
〇ハチ公前
チャリッ──
ドッグタグが擦れた時になる様な、
かわいた金属音がかすかに響く。
天野時夜具「・・・今の?」
天野時がハチ公像を見ようと顔を上げた時、
ポケットの中のスマホが振動する。
天野時夜具「こんな時間に・・・誰だ?」
〇ハチ公前
天野時夜具「──なんで?」
スマホ画面には、先程別れた彼女の名前。
一瞬躊躇した後、天野時は電話に出る。
天野時夜具「──もしもし」
何を言われるのか想像が出来なさすぎて、
天野時の声が僅かに震える。
夜具の彼女「──夜具くん? もしかして・・・今ハチ公前にいない?」
天野時夜具「・・・え?」
夜具の彼女「夜具くんが・・・その、 Twitteyで拡散されてて・・・」
天野時夜具「・・・えっ!?」
〇ハチ公前
彼女によると、
某呟き系SNSで天野時が拡散されているとの事だった。
見てみると、
天野時が先程呟いていた彼女への気持ちが丸々動画で撮影されていた。
斜め上からの画角で白黒の動画。
音声だけはやたらクリアで、
知り合いには分かるギリギリのラインで撮影されていた。
天野時夜具「・・・恥ずかしすぎる!!!!」
夜具の彼女「知らなかったんだね・・・」
天野時夜具「知らないよ・・・! 何これ・・・どこで撮られたんだ・・・・・・」
ここで天野時は、
あることに気がついた。
天野時夜具「・・・え、もしかして」
天野時夜具「・・・みたの?」
夜具の彼女「・・・」
夜具の彼女「うん・・・」
その後Twitteyで
「深夜のハチ公前で奇声を上げる男性がいる」
と言うコメントが何件か投稿された。
〇ハチ公前
あの後無事に彼女とよりを戻すことが出来た。
本音を拡散されたせいか、
前よりもひねくれた発言は減ってきている。
あれから動画投稿者のアカウントを探してみたが、
既に削除されていて特定できなかった。
撮影の角度。
白黒の動画にクリアな音声。
天野時夜具(犬の視界は白黒って聞いたことがあるけど・・・)
天野時夜具「まさか・・・な」
とても不器用な彼ですが、ハチ公が願いを叶えてくれてよかったです。
根は本当に優しいのに、言葉で損をしてる人は多いと思うんですよね。
あれからは彼も少し直してるみたいで、二人は上手くいってるのかなって思います。
一緒にお食事をしているところの男性のセリフが
リアルにありそうだなと思いました🤦♀️笑
やり直すことができて何よりです😊
わたしもなかなか素直に話せなくて、思ってないことを言ってしまうことがあるので、天野時くんの気持ちがよくわかります。
でも、ハチ公のおかげで少しずつ素直になれてるみたいでよかった。