月下美人

ホマ

エピソード11最終回(脚本)

月下美人

ホマ

今すぐ読む

月下美人
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇渋谷のスクランブル交差点
  PM19:00
寺島「花さん・・・遅いなぁ」
寺島「一体、どうしたんだろう・・・」
  寺島は、一時間近く
  待ち合わせ場所で花を待った。
  だが、花は現れない。
寺島「もしかしたら、気が変わって 別の場所で待ってるのかも・・・」
  寺島は、花と最初に行った喫茶店──
  レストラン、
  イルミネーションのある通りを訪れた。
  しかし花は、どの場所にも居なかった。
寺島「花さん、一体どこへ・・・」
  寺島は以前、花と撮った写真を見詰め呟いた
  すると──
  長谷川から着信が鳴った。
「もしもし・・・」
  元気のない声で返事をする。
「寺島。例の女には会えたか?」
寺島「いえ、まだ会えてません」
「・・・だろうな」
寺島「どういうことですか!?」
「寺島、今からあの殺害現場に来い。 お前に見せたいもんがある」
寺島「見せたいもの?一体何ですか?」
「来たら分かる。待ってるからな・・・」
  長谷川は、一方的に電話を切った。
寺島(ハセさんが俺に見せたいもの?何だろう──)
寺島(もしかして、花さんに関するものなのか?)
  寺島は、急いで殺害現場に向かった。

〇森の中
  PM20:00
寺島「長谷川刑事!!」
長谷川「寺島・・・」
寺島「あの、俺に見せたいものって──」
  寺島は、ハッとした。
寺島「どうして・・・」
寺島「どうして花さんがここに?」
長谷川「寺島。落ち着いて聞け──」
長谷川「こいつは、『月下美人』だ」
長谷川「それから、この山林で起きた 連続殺人の犯人でもある」
寺島「何言ってるんですか?」
寺島「花さんが、 ”月下美人”なわけないじゃないですか!!」
寺島「それに、連続殺人の犯人だなんて・・・」
寺島「花さん、違いますよね?」
  花は寺島の問いに、何一つ答えなかった。
長谷川「とりあえず、詳しいことは これから署でじっくり聞くつもりだ」
寺島「花さん・・・」
長谷川「さぁ、行くぞ」
  長谷川は花に手錠を掛けた。
  その時
長谷川「うっ・・・」
  長谷川は、そのまま倒れ込んだ。
寺島「長谷川刑事──!!」
  長谷川は、腹部から血を流していた。
寺島「花さん、長谷川刑事に何を?」
寺島「どうして何も答えない?」
  問い詰めた花の目には、涙が浮かんでいた。
寺島「花さん。本当にあなたがこれまでの殺人を?」
寺島「やっぱりそうなんですね」
花「警察の方に素性を知られてしまった以上、 あなたも生かしておくわけにはいきません」
花「なので、寺島さんには ここで死んでもらいます」
  花は寺島に歩み寄り、
  寺島の首を絞めようとする。
  花の手には、何の温もりも感じなかった。
「花さんっ、俺は本気であなたのことを・・・」
  寺島は苦痛な表情を見せながら
  花の手を無理矢理、離そうとする。
  だが、花は力を緩めようとはしない。
「・・・花さんと・・・」
「・・・こんな形で終わりたくなかった・・・」
  寺島は力尽き、涙を溢しながら花に言った。
  寺島の溢した涙が、花の手に落ちる。
  ──すると、花は寺島の前から
  一瞬にして姿を消し、月下美人へと戻った。
「・・・花さん・・・」
  薄れ行く意識の中、寺島は花の名前を呼んだ

〇大学病院
  気が付くと、寺島は病室にいた。
  綺麗に出ていた新月は雨雲に隠れ、
  外は雨が降りだしていた。

〇病室
  翌朝、寺島は目を覚ます。
佐藤はるひ「寺島刑事、大丈夫ですか?」
  声のする方に顔を向けると、交通課の佐藤が心配そうに寺島を見ていた。
「佐藤さん・・・」
佐藤はるひ「すぐ、お医者さん呼びますね?」
  佐藤はナースコールを押した。
医師「寺島さん、体調はどうですか?」
「特に何ともないです」
医師「でしたら、よかったです」
医師「傷の具合いも軽いので、異常がなければ 明日には退院して構いませんよ」
「そうですか。 あの、長谷川刑事は?」
医師「命に別状はありませんが、 まだ意識が戻ってません」
医師「なので、今はICUで治療を受けています」
医師「意識が戻りましたら、 こちらからご連絡致しますので・・・」
「分かりました。 ありがとうございます」
医師「では、私はこれで。 寺島さんも無理だけはしないで下さいね」
医師「それでは、お大事に」
「佐藤さん、心配かけてすみません」
佐藤はるひ「いえ、気にしないで下さい。 それより、何があったんですか?」
  寺島は佐藤に、
  『月下美人』であった花のことを話し──
  また山林で起きた連続殺人の
  犯人であることを明かした。
佐藤はるひ「そういうことでしたか・・・」
「笑っちゃいますよね?」
「片想いしてた人が、まさかの”月下美人”で」
「おまけに、連続殺人の犯人だったなんて──」
  寺島は下を向いたまま呟く。
佐藤はるひ「笑ったりなんかしません」
「えっ?」
佐藤はるひ「だって、寺島刑事は 知らなかったんですよね?」
佐藤はるひ「気になってた人が、月下美人だったことも 殺人犯だったことも・・・」
「・・・はい」
佐藤はるひ「寺島刑事は、一人の女性として その人を見てた・・・」
佐藤はるひ「笑うと言うより、切なくて苦しいです。 私は・・・」
「そう言って頂けると、有り難いです」
「けど、長谷川刑事には笑われるかもな・・・」

〇病室の前
  一週間後、病院から
  長谷川の意識が戻ったとの連絡を受け
  寺島は長谷川の病室を訪れていた。

〇病室
寺島「ハセさん」
「寺島、あの女はどうなった?」
寺島「分かりません」
寺島「実は俺、彼女に殺されかけたんです」
寺島「ですが、その後の記憶が全くなくて・・・」
「・・・そうか。体はもういいのか?」
寺島「はい。傷は軽症で済みましたので」
「そうか。ならよかったな・・・」
寺島「ハセさん、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?何だ?」
寺島「何故、彼女が”月下美人”で 犯人だと分かったんですか?」
「見たんだよ」
「あの女が 月下美人から、人間になる瞬間をな・・・」
寺島「ハセさん、あの現場にいたんですか?」
「あぁ、お前より一足先に 月下美人が咲くとこを見たくてな」
「そしたら驚いたよ」
「お前のスマホに写ってた女が、まさか花から人間になろうとしてたんだからな」
寺島「だからと言って、どうして彼女が犯人だと?」
寺島「彼女が自供したんですか?」
「いや、殺害した日付けと時間だよ」
寺島「日付けと時間?」
「あぁ。女があの場所で殺害する理由には、 日付けと時間にあった」
「あの女は月下美人の誕生花の日に殺人を犯し」
「死亡推定時刻を 月下美人が萎む時間帯にしてたんだ」
「月下美人が萎む時間帯は、 朝方の3時から4時だからな」
「被害者の体内に残ってたトゲは、間違いなくあの女からのものに違いない」
「現に俺も、あのトゲに刺されてるからな」
寺島「ですが、動機は?」
寺島「花さんが、 男だけを殺害する理由が分かりません」
「寺島。月下美人の花言葉知ってるか?」
寺島「いえ、知りません」
「あの花には、危険な快楽と言う意味がある」
「それから、儚い恋と言う意味もな・・・」
寺島「・・・儚い恋」
「これはあくまでも俺の推理だが、」
「あの女は儚い恋がしたくて、人間になり──」
「その相手を街中で探してたんじゃねーか?」
寺島「相手をですか?」
「そうだ。甘い香りで引き寄せてな」
「お前、気付かなかったか? あの女の香りに・・・」
寺島「確かに、彼女からは甘い香りがしてました」
「だろ?あの花はな、ジャスミンと言う 強い香りを放つ特性もあんだよ」
寺島「そんな・・・」
「それに”月下美人”の命は、本の一夜限りだ」
「だから『儚い恋』を目的とするあの女は 男に声を掛けたり、掛けられたりしたが」
「結局はその程度の男しかいなかった」
「だが、お前だけは違ったんじゃねーか?」
「あの女は、お前となら”儚い恋”が出来る」
「そう思って、お前に近付いた」
寺島「花さん・・・」
「キレイな花にはトゲがあるとは、 正にこの通りだな」
  長谷川はそう言い、鼻で笑った。
寺島「しかしハセさん、この事件 上にはどう報告するんです?」
「被疑者死亡で、書類送検として 処理されるだろうなぁ」
「まぁ、遺族は納得しねーだろう」
「何せ、犯人は植物だからな」

〇森の中
  病院を出た俺は、花のことを考える。
  そして、花と訪れた場所に再び行き──
  一人途方に暮れ、
  気が付くと殺害現場に来ていた。
  寺島の足元には、一輪の枯れ果てた
  月下美人があった。
寺島「花さん・・・」
  枯れた月下美人の横には、
  寺島がプレゼントした、
  クリスマスローズのイヤリングが落ちている
寺島「本当に月下美人だったんだ・・・」
  寺島は落ちていた
  クリスマスローズのイヤリングを
  そっと手に取り、ポケットに仕舞った。
「おや?刑事さんじゃないですか?」
  振り返ると、山林ボランティアの山田が
  寺島に声を掛けてきた。
寺島「山田さん、お久しぶりです」
寺島「捜査の時は、大変お世話になりました」
山林ボランティア「いえいえ、 何かお役に立てればと思ってましたからね」
山林ボランティア「それより、今日はどうされたんですか?」
寺島「実は、犯人捕まったんです」
山林ボランティア「えっ、そうなんですか?」
寺島「はい。 ですが、被疑者死亡で書類送検となりました」
山林ボランティア「そうですか・・・」
寺島「山田さんこそ、どうしてここに?」
山林ボランティア「しばらく来てなかったのもそうですが 月下美人の花弁の色が気になりましてね」
山林ボランティア「あれ?月下美人が枯れてる」
山林ボランティア「一体、これはどういうことだ?」
寺島「山田さん、 信じてもらえないかもしれませんが・・・」
寺島「この花が ここで起きた連続殺人の犯人だったんです」
山林ボランティア「えっ?この花が犯人?」
  寺島は山田に、事件の詳細を話した。
山林ボランティア「なるほど。 それで、被疑者死亡で書類送検なんですね」
寺島「はい。こればっかりは、 こうすることしか出来なくて」
寺島「遺族の方々にも、 申し訳ない気持ちでいっぱいです」
寺島「山田さん、この事は ごく一部の人にしか言ってません」
寺島「なので、内密にして頂きたいのですが・・・」
山林ボランティア「分かりました。 刑事さんも色々と辛かったですね」
寺島「はい。お恥ずかしい話しですが 俺、月下美人に恋してたんです」
寺島「まさか、その人が 花から生まれた人間だとも知らずに・・・」
山林ボランティア「その方は、艶やかな美人でしたか?」
寺島「艶やかな美人?」
山林ボランティア「はい。月下美人の花言葉には、艶やかな美人と言う意味があるみたいですよ?」
寺島「危険な快楽、儚い恋という 意味だけじゃないんですか?」
山林ボランティア「はい。それから、 『ただ一度だけ会いたくて』と言う意味もね」
寺島「ただ一度だけ会いたくて・・・」
山林ボランティア「刑事さん」
山林ボランティア「あなたの想いが今でもその方にあるのなら、」
山林ボランティア「またどこかで 出会える可能性があるかもしれませんよ?」
山林ボランティア「次は、殺人犯としてじゃなくてね」
寺島「山田さん、月下美人って 家でも育てることは出来ますか?」
山林ボランティア「えぇ、もちろん」

〇白
  それから時は流れ、寺島は警部補に昇進し
  長谷川は定年退職を前に、
  自ら辞職願を出し退職した。

〇シンプルな一人暮らしの部屋
  寺島は
  家で月下美人を育てる日々を送っていた。
  だが、花を咲かす気配は未だ訪れずにいる。

〇シンプルな一人暮らしの部屋
  7月19日
  AM7:45
「さっ、今日も仕事に行って来るか」
  月下美人に水をやりながら呟く。
「今日こそ、咲くといいなぁ」
  部屋の時計に目をやると、
  時刻は8時を回っていた。
寺島「やばっ、急いで行かないと・・・」
  カバンを手に取り、月下美人にそっと触れる
「行って来ます・・・」
  玄関のドアを開けた時
「・・・行ってらっしゃい」
寺島「ん?」
  振り返ると、そこには
  クリスマスローズのイヤリングを付けた
  花が、ぼんやりと目の前に現れた。
  寺島は驚きの表情を見せる。
  だが、その表情は笑顔へと変わり
寺島「行って来ます」
  花にそう告げ、再び玄関のドアを開けた。
  月下美人
  ──ただ一度だけ会いたくて──
  完

コメント

  • 完結おつかれさまでした!
    サスペンス感が濃厚の序盤から、ロマンス要素が少しずつ増してキレイなラストへ!読み応えのある作品をありがとうございました!

  • 非常に感動しました。
    寺島刑事は、再び出会えたのですね。
    目頭が熱くなりました。
    次回の作品も楽しみにしています。
    ホマさん、素晴らしい作品をありがとうございました🙂

成分キーワード

ページTOPへ