郵便配達三十年しげるが辿り着いた場所

イル・ポスティーノ

読切(脚本)

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〇街中の道路
  最近、手紙を届けることが極めて減った・・・
しげる「(私は高校を出てすぐこの仕事に就いた  郵便配達員になって30年になる)」
しげる「(30年間ほとんど仕事を休んだことはない。母が亡くなった時に3日間休んだだけだ)」
しげる「(今まで延べ何件配達したんだろう・・・  他人からしたら、『だから何?』って  ことかも知れない・・・)」
しげる「(でも私は郵便配達員の仕事を誇りに思っている)」
しげる「(人と人との架け橋になりたいと。自己  満足かもしれない。でも・・・)」
しげる「(その人にとって絶対に大事なモノだと  今日中に配達しなければ、その人の人生に支障をきたすと・・・)」
しげる「(何があっても郵便物は守り抜く・・・  その想い一心で、30年間生きてきた  ・・・)」

〇備品倉庫
しげる「午前中指定の配達完了しました」
すすお「お疲れさん。相変わらず仕事が早いねー。見習いたいよ」
しげる「いや、当たり前の事をこなしてるだけです」
さとし「しげさん、ちょっと・・・」
しげる「はい、課長」

〇小さい会議室
さとし「しげさん、配達員始めて何年だっけ?」
しげる「この4月で丸30年になります」
さとし「内勤に替わる気はないか?」
しげる「私がですか?」
さとし「手短に言おう」
しげる「・・・」
さとし「管理職の候補に挙がってる」
しげる「ハァ」
さとし「しかも局長だ!」
しげる「私がですか!」
さとし「悪い話しではないと思う」
しげる「私では役不足かと」
さとし「そんな事はないさ。我々の仕事は、しげさんのような配達員があっての仕事だ」
しげる「私は配達一筋できました。内勤の仕事なんてとても・・・」
さとし「しげさんはお客様の想いも、配達員の気持ちも両方分かる」
しげる「ハァ」
さとし「俺なんか外勤は研修の時しか経験ないし。それでも勤まってるんだから」
しげる「有り難いお話しですが、私は生涯配達員を全うしたいです・・・」
さとし「しげさんから配達の仕事を奪うとは一言も言ってないぞ」
しげる「はっ? どういう事ですか?」
さとし「小さな郵便局の局長だ。人手が足りない。今まで通り配達の仕事も出来るし、やってもらう」
しげる「えっ!」
さとし「プレイングマネージャーだよ」

〇黒背景
  私は配達員の仕事が続けられるなら、と局長の仕事を引き受けた・・・

〇小型船の上
  しかし・・・

〇島
  私の新しい職場は最果ての地だった・・・

〇田舎の役場
  最果ての島の郵便局・・・村役場と同じ建物に税務署と保健所が入った、手狭な事務所だった・・・
  まるで、都落ちみたいで、昔の落ち武者の気分だった・・・憂鬱な事は重なり、転勤初日は猛烈な嵐の一日だった・・・

〇事務所
しげる「どうも、東京から本日赴任しました」
作次郎「・・・」
澄子「あっ、ようこそ。とりあえずその辺座って」
しげる「郵便局はどの部屋でしょうか?」
作次郎「奥の個室。澄さん、案内してやり」
澄子「こっちです。どうぞ〜」

〇店の事務室
しげる「ここ、ですか?」
澄子「そうです。今、お茶持って来ますよって。お掛け下さい」
しげる「・・・」
しげる「俺は、追いやられたのか? 用無しだったのか?」
しげる「・・・」
しげる「何で・・・三十年間、真面目に休まず働いてきたのに・・・」
澄子「どうぞ」
しげる「・・・」
澄子「どうかしましたか? 元気ないですね」
しげる「いえ。さっきの年輩の男性の方は?」
澄子「村長さんです。役場の仕事も兼ねてます」
しげる「村長さんがですか?」
澄子「人手が足りないもんで。この島は」
しげる「私は郵便局長として辞令が出たんですが」
澄子「ええ、聞いてます。ずっと配達の仕事なさってたって。こん島には最適なお人です〜」
しげる「局員は他に、誰が・・・」
澄子「局長一人です」
しげる「・・・」
澄子「この島では皆一人3役、4役は当たり前です。村長は役場の仕事と防災係。私は税務署と村の金庫番です」
しげる「行政機関はみんな此処に?」
澄子「ええ、あと美咲ちゃんは今日はリモートで」
しげる「リモート?」
澄子「あっ、そうそう。一昨日からの嵐で保健と医療関係の書類が溜まってて。後で配達して下さい」
しげる「えっ? 今日ですか?」
澄子「今日美咲ちゃんに渡して、また明日取りに行って貰います。明日中に村長の決裁得て国と県に出さなならんので」
しげる「私、自転車しか乗れないんですが・・・」
澄子「ええ、伺ってます。村所有の自転車、用意してありますんで」
しげる「明日の天気は・・・」
澄子「明後日まで悪天候です」
しげる「その美咲さんとやらのお宅は・・・」
澄子「島の一番外れです。見晴らしのいいとこですよ」
しげる「配達員になって三十年、初めて配達員である自分を恨んだ・・・」

〇海辺
しげる「まともな道もなく、砂浜で自転車の車輪は砂にはまった」

〇海岸の岩場
しげる「岩場に出会し、自転車を担がなければならなかった」

〇森の中の沼
しげる「ここは熱帯の南国だ。得体のしれない生き物が、私の足を、ヌメッとタップしてきた・・・」

〇黒背景
  まだ、彼女の家は見つからない・・・本当にこの島に居るんだろうか?
  別の島まで配達させられてるんじゃ・・・いや、日本でないのかも・・・行き着く先は、パプアニューギニアなのかもしれない・・・

〇村に続くトンネル
しげる「トンネルの先に、建物らしきものが見える・・・」

〇森の中の小屋
しげる「あった! きっとあそこだ。やっと着いたぞ・・・」

〇荒廃した教室
しげる「郵便局です。配達に来ました」
  ・・・
しげる「誰か居ませんか・・・」
しげる「・・・」
しげる「美、咲・・・さん !?」
しげる「・・・」
しげる「これは事件か?」
しげる「えっ? 自殺?」
しげる「着信があった・・・私は、恐る恐る・・・電話に出た」
  郵便配達員の、しげるさんですか?
  美咲・・・です・・・
しげる「・・・えっ!・・・」
  私の・・・大切な遺書・・・届けてくれますか?
しげる「(私は、どうしていいか分からなかった)」
  配達してくれますよね?
しげる「誰に・・・どなたに、ですか?」
  一番大切な人に・・・
しげる「美咲さんの一番大切な人に?」
  そう。私の一番大切な・・・死ぬ前の私に・・・

〇黒背景
  私は三十年続けた郵便配達員の仕事を辞めた・・・

コメント

  • 誇りを持ってやってた仕事の結末がこれでは、なんだかかわいそうだなぁと思いました。
    そして最後は怖かったです!
    これは辞めたくなりますよ!

  • 長く誠実にそしてやりがいをもって続けてきたかけがえのないお仕事、、、結末に胸を痛めました。30年間続けてきたベテラン配達員さんでも時空を超えた配達はできませんね笑

  • 長く続けた末にこの結果、なんか切ないですよね。なにか初めから仕組まれていたのでしょうか、頑張ってきた人がこの結果って悲しいですね。

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