本物の世界と感じることは(脚本)
〇未来の都会
一部の国や地域以外の国々は、広大で透明なドームのなかにあった。青空も透けてみえる。
私が二十四歳の頃に、太陽のフレアが世界を襲った。
〇渋谷のスクランブル交差点
〇商店街
〇システムキッチン
その後各国がお互いに協力し、自然からの脅威から守るために、ドームのなかで都市作りがなされてきたのだ。
人との交流といえば、買い物もすべてインターネットでの購入で、リモートでお互いの姿をみながらのやりとりだった。
配送は、円盤の形をした配送機で行われていた。
〇レストランの個室
飲食店なども、店の従業員たちは、見た目では人間にみえるロボットばかりなのだ。
〇魔法陣のある研究室
人口調整として、AIによる受精システムにより、人口の増減ですら管理されていた。
結婚制度も廃止され、恋愛も、オンラインによる疑似恋愛ばかりになっていた。
仕事も自宅での業務だ。仕事は元日から十日間休みだった。
今は年賀状そのものがなく、新年のあいさつをすることもなくなっていた。
〇システムキッチン
私は自動調理器で、料理をしようとキッチンに向かった。そのとき、玄関のあたりでコトンと音が聞こえた。
〇マンションの共用廊下
私は玄関にいき、すでに使わなくなっていたポストを覗いた。すると、今はもうないはずの葉書がみえた。
満彦「いつの時代のものだろう? ん、太陽のフレア禍のまえのハガキだな」
今はすべて、室内の空間に文字が浮かぶ交信方法だった。葉書の差出人の名前はなかった。
だけど、見覚えのある筆跡だった。そう、二十一歳の頃に出会い、愛しあった里穂の文字だと思った。
濃い栗色の髪の色をした、清楚な感じの女性だった。
まわりをみわたすと、どこからか、かすかに、里穂の好きだったメロディが流れてきた。
〇イルミネーションのある通り
そのメロディの聞こえてくる方向に目をやると、円球で虹色の形をした、自動走行する乗り物の近くに立っている女性がみえた。
その女性が里穂ではないかと思い、私はその女性に駆け寄った。やはり里穂だった。
里穂は静かにふり向いて、私の手を握った。
里穂「久しぶりね。だけどおたがいにあんまり見た目はかわっていないのね」
満彦「そうだね。それよりもどうしていたんだい? あの天変地異以来、まったく音信不通になって、ほんとうに心配していたよ」
〇イルミネーションのある通り
〇イルミネーションのある通り
〇イルミネーションのある通り
里穂「私、あの天災のショックで、記憶が無くなってしまったんだもの」
里穂「でも、一ヶ月前に、突然停電したでしょう? そのときのショックですべてを思いだしたの」
里穂「まわりがすっかり変わってしまっていても、記憶が無いせいで、かえって順応できていたみたい」
里穂「でも、記憶を取り戻してからは、この味気ない世界がたまらなく寂しく感じられて、とても辛くなったの」
里穂「それであなたのことをいろいろと調べて、会いに来たのよ」
〇イルミネーションのある通り
と、里穂が心細さそうに言った。
私は里穂をそっと、抱き寄せた。
「里穂、わかったよ。それにしても、久しぶりに命のぬくもりを感じたよ」
「本物っていいよね。どこか切なくて、そしてとってもあったかくてさ。里穂、そう思わないか?」
「そうだよね。満彦。会いたかった・・・。とってもとっても会いたかった」
「ぼくもさ。ほんとうに生きていてよかったよ。里穂・・・。ありがとう。生きていてくれて」
〇イルミネーションのある通り
〇イルミネーションのある通り
fin
会いに来てくれた彼女の気持ちが好きです。
全てを機械に任せるってことは、全てを管理されるってことでもあるんだなぁと思いました。
現在のコロナ禍が終息を迎えても、次は何が起こるかわからないですよね。
でも今回を機に、リモートや遠隔、AIの活躍、人間である必要性の見直しが行われた気もしますが、人と人の繋がりというのも改めて実感しました。
コロナのだいぶ前に書かれた作品だったんですね!世界は『本物の日』に少しずつ近づいてきてる感じがします。懐かしい里穂ちゃんに再会できて温もりを感じることができてよかったですね。