ニュー・シブヤ・パラダイス(脚本)
〇SHIBUYA109
沙耶「どうしてよ! 結婚記念日は一緒に映画を見るって、約束でしょ!」
沙耶「いつも仕事のせいにして、ウチのことだって、何もやってくれないじゃない。 もういい!」
沙耶「あー、むかつく!」
基樹「あの・・・・・・すみません。 ちょっとインタビュー、よろしいでしょうか?」
沙耶「あれ? 基樹じゃない?」
基樹「沙耶?」
沙耶「久しぶり! 何やってるの、こんなところで?」
基樹「ネット番組のディレクター、やっててさ。 街頭インタビューの収録の最中。 スタッフ、俺ひとりだけど」
沙耶「へえ~、映像関係の仕事、やっているんだ?」
基樹「まあね。 ちょうどいい、渋谷の思い出というテーマで聞いているんだ。 沙耶もいい?」
沙耶「えっ、今、ここで?」
基樹「用事あるの? あ、誰かと待ち合わせ?」
沙耶「全然、ひとりひとり。 いいよ、インタビュー」
基樹「じゃあ、撮影、始めるね。 よーい、スタート!」
基樹「今日は渋谷に、何しに来られたんでしょうか?」
沙耶「えーっと、このシネコンで映画でも見ようかなと」
基樹「映画、お好きなんですか?」
沙耶「最近は全然見れてないんですけど」
基樹「渋谷には、よくいらっしゃるんですか?」
沙耶「今は一年に一回くらいで。 学生時代は学校の帰りに、よく来ていました」
基樹「渋谷の思い出といったら、何かありますか?」
沙耶「ミニシアターですね。 ハシゴして、一日に何本も見て回って」
沙耶「イメージフォーラムからル・シネマとか、 ヒューマントラストシネマからユーロスペースとか」
基樹「それ、すごく歩きますよね。 宮益坂側から円山町方面ですから」
沙耶「あと、よく行っていたのが、シネマライズやアップリンク、シネセゾンも」
基樹「今はもうない映画館もありますね。 いろいろと思い出を語っていただき、ありが・・・・・・」
沙耶「もうひとつだけ言わせてください! 自分の原点なんです、渋谷が!」
沙耶「小学生の時に、親に連れてきてもらったのが、プラネタリウムのあった映画館で」
基樹「パンテオンですね」
沙耶「そのビルが解体される前に、たくさんのリバイバル上映を最後にやっていて、 それがきっかけで映画に夢中になって」
基樹「そうだったんですか・・・・・・」
沙耶「その時、映画女優になりたいって、途方もない夢を見て」
基樹「その夢は叶ったんですか?」
沙耶「ちょっとだけ・・・・・・。 でも、辞めちゃいました」
沙耶「いい夢、見させてもらったんです。 映画みたいな夢。 どうもありがとうございました!」
沙耶「・・・・・・あれ? 基樹、どうしたの? カットかけてよ」
基樹「沙耶・・・・・・ もう一度、一緒に映画をやらないか?」
沙耶「えっ?」
基樹「君の話を聞いていたら、思いだしちゃって。 一緒に映画を見たこと、 一緒に映画を作ったこと」
基樹「今、いろいろ行き詰まっていてね。 このままでいいのかなって」
基樹「だから、また映画を監督したいと思ったんだ。 沙耶の主演で」
沙耶「私、もう、女優じゃないよ」
基樹「今の映像、女優顔に戻ってたよ」
沙耶「えー、素人っぽくなかったのか」
基樹「なあ、もう一度やり直そうよ」
沙耶「それはどっちの意味? 監督と女優? それとも・・・・・・」
基樹「・・・・・・」
沙耶「・・・・・・」
基樹「スマホ、鳴っているよ」
沙耶「ううん、いいの」
基樹「ごめん。 もう、学生の頃みたいには戻れないのに」
沙耶「・・・・・・」
基樹「インタビュー、ありがとう。 でも、この素材、もったいなくて、使えないな」
沙耶「別にいいよ。 こっちこそ、少しの間だけでもカメラの前に立てて、楽しかった」
基樹「僕も楽しかった。 今日も、あの頃も」
沙耶「じゃあね」
基樹「じゃあな」
〇渋谷ヒカリエ
沙耶「ゆうくん、どうしてる? おばあちゃんは? えっ、パパがご飯作っているの? すぐ帰るから、ママの分も取っといてよ!」
〇Bunkamura
基樹「・・・・・・うん、今、撮影が終わって、これから編集。 あしたなら、大丈夫」
基樹「ちゃんと、式には間に合うよ。 幸せな家庭を築こうね」
(終)
途中まで、エモい!✨エモいお話!と思いながら読んでいたら、最後のまさかの展開に驚きつつも、わぁー!ってなりました!面白かったです!✨☺️
あ、ホラー、現実感が苦味を残して、サラッとしたところが、大人な感じで、こういう感じか渋谷なんか、都会なんかなぁ…あこがれる雰囲気をまとってました。
色々な意味で人は変わっていくんだなと
考えさせられるお話でした🥲
後悔のない選択って難しい🤦♀️