渋谷に降り立って 「あっ・・・」 って言うだけの物語(脚本)
〇黒
☆ ☆ ☆
渋谷に降り立って
「あっ・・・・・・」
って言うだけの物語
☆ ☆ ☆
〇西洋風の駅前広場
マミ「あっ・・・」
ユウヤ「あっ・・・」
マミ「なつかしい・・・」
ユウヤ「たい焼きな」
マミ「そう! ふふふっ・・・」
〇電車の座席
20年前・・・
私たちは
渋谷でデートした
それまで、一度も
行ったことのなかった渋谷で・・・
マミ「やめない? 渋谷行くの」
ユウヤ「なんで? もうすぐ着くのに?」
マミ「こわいよ、なんか」
マミ「渋谷って行ったことないんだ、私」
ユウヤ「大丈夫 取って食われたりしないから」
ユウヤ「若者の街なんだし」
マミ「そうなんだけど・・・」
ユウヤ「俺ら若者じゃん?」
〇渋谷駅前
ユウヤ「あっ・・・!」
マミ「あっ・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
〇ハチ公前
〇渋谷駅前
マミ「ねぇ・・・ 帰ろうよ」
ユウヤ「せっかく来たのに?」
マミ「私たちが来ていい所じゃなかったんだよ 渋谷とか」
ユウヤ「わかった! 謎はすべて解けた!」
ダダダッ!
マミ「えっ?」
マミ「ちょっと待って! ユウヤくーん!」
〇高架下
ダダダッ!
〇西洋風の駅前広場
ユウヤ「くそっ! こっち側もか!」
マミ「なに? どうしたの?」
ユウヤ「東口の方には いないって思って来たんだけど・・・」
マミ「いるね、ふつうに」
〇宮益坂
〇西洋風の駅前広場
ユウヤ「・・・」
マミ「・・・」
ユウヤ「・・・」
マミ「・・・」
ユウヤ「どうしよう・・・」
マミ「だから 帰ろうよ!」
ユウヤ「じゃあ1か所だけ!」
マミ「えーっ!?」
ユウヤ「本当に1か所だけだから」
マミ「そこ行ったら帰る?」
ユウヤ「帰る帰る」
マミ「うん じゃあ、わかった・・・」
〇SHIBUYA109
ユウヤ「おおーっ! 渋谷109!」
ユウヤ「ザ・渋谷って感じだな!」
ユウヤ「ねっ、マミちゃん?」
マミ「そうだけど・・・」
ユウヤ「あれ?」
ユウヤ「もしかしてマミちゃん オシャレとか嫌いだった?」
マミ「嫌いじゃない 嫌いじゃないよ」
マミ「でも・・・」
マミ(ユウヤくんが私のために・・・)
マミ(でもここ モンスター率高過ぎ・・・)
ユウヤ「この109って 最先端のファッションビルなんだって?」
マミ「知ってる」
ユウヤ「入ろうか」
マミ「うん・・・」
マミ「あっ ユウヤくん・・・」
〇デパートのサービスカウンター
でもユウヤくんとのデートだもん
頑張れ! わたし!!!
いざっ!!!
突撃っ!!!
ぬぬっ・・・
〇SHIBUYA109
マミ「ぬぬぬ・・・」
ユウヤ「どうした?」
マミ「やっぱ無理!」
マミ「私、最先端のオシャレなんて要らない!」
ダダダッ!
〇黒
〇道玄坂
おばちゃん「痛っ! いたたたた・・・」
マミ「す、すみませんっ!」
おばちゃん「あん?」
マミ「はわっ!」
マミ(ユ、ユウヤくーん・・・)
ユウヤ「マミちゃんっ!」
〇黒
ジーッ・・・
ははぁん
なるほどね
〇道玄坂
おばちゃん「来な!」
「・・・」
おばちゃん「いいからついてきな!」
ユウヤ「はい・・・」
マミ(もう、やだ・・・)
マミ(ぐすん・・・ デートなんて断ればよかった・・・)
〇公園のベンチ
おばちゃん「東京の人間じゃないね」
「・・・」
おばちゃん「まあいいや お食べ」
おばちゃん「渋谷名物 たい焼きだよ」
ユウヤ「そうなんですか?」
おばちゃん「ウソさ」
おばちゃん「あーっははははっ!」
おばちゃん「さっき のれん街で買ってきたんだよ ほらっ」
ユウヤ「ありがとうございます」
マミ「ありがとうございます」
おばちゃん「で、どうしたんだい?」
マミ「おばさま、渋谷の人ですか?」
おばちゃん「そうだけど?」
マミ「怖くないんですか? 身近にモンスターがいて」
おばちゃん「モンスター?」
マミ「いるじゃないですか? 渋谷中そこかしこに」
おばちゃん「ああ!」
おばちゃん「いるね、そう言われれば」
おばちゃん「いちゃダメなのかい?」
マミ「ダメってことはないですけど・・・」
おばちゃん「引き寄せられてきたんだろうさ 渋谷って街の魅力に」
おばちゃん「ちょうどデートしに渋谷来た あんたたちみたいにさ」
マミ「でも、渋谷来て 1コもいいことありませんでした」
おばちゃん「おや?」
マミ「私、相性良くないのかも・・・」
おばちゃん「渋谷とかい?」
マミ「はい」
マミ「もしかしたら・・・」
マミ「・・・ユウヤくんとも」
ユウヤ(っ!!!)
おばちゃん「まぁ まずは食べて落ち着きな」
おばちゃん「たい焼きは 見て楽しむものじゃないんだよ」
おばちゃん「ほら」
「いただきます・・・」
おばちゃん「んっ?」
おばちゃん「ふふっ・・・」
おばちゃん「あはははははっ!」
マミ「なにがおかしいんですか?」
おばちゃん「「2人の相性がよくない」って? あんたさっきそう言ったね?」
マミ「はい」
おばちゃん「手元見てみな」
おばちゃん「たい焼きを 胴体で真っ二つにしてから食べる人なんて そうそういないよ」
おばちゃん「あんたも!」
ユウヤ「あっ・・・」
おばちゃん「そしてあんたもだ お嬢ちゃん」
マミ「あ・・・」
おばちゃん「アベックそろってそんな食べ方してさ」
おばちゃん「相性ってのはね そういう些細なことの積み重ねさ」
おばちゃん「そういう巡り合わせの2人なんだよ あんたたちは」
〇星座
巡り合わせ・・・
運命の人・・・
ユウヤくんが・・・
私の・・・
〇公園のベンチ
おばちゃん「そうさ」
おばちゃん「これも渋谷の為せる技さ」
おばちゃん「渋谷名物 恋愛マジックだよ」
マミ「そうなんですか?」
おばちゃん「ウソさ」
おばちゃん「あーっははははっ!」
「・・・」
〇空
〇西洋風の駅前広場
ユウヤ「帰ろうか」
マミ「なんか・・・ 楽しかったね!」
マミ「ちょっとだけ 好きになったかも」
ユウヤ「俺のこと?」
マミ「バカ!」
マミ「・・・渋谷のこと!」
ユウヤ「あのさ・・・」
マミ「んっ?」
ユウヤ「手・・・ つないでいいかな?」
マミ「・・・うん」
〇西洋風の駅前広場
マミ「あの時 渋谷駅に降り立って」
マミ「この場所で途方にくれてたよね 私たち」
ユウヤ「くれてたな」
ユウヤ「どうしたらいいのか全くわからなかった」
〇西洋風の駅前広場
ユウヤ「・・・」
マミ「・・・」
〇西洋風の駅前広場
マミ「ユウヤが ハチ公口から わーって走ってきて」
ユウヤ「そうだっけ?」
マミ「そうだよ!」
マミ「私たち 渋谷的に部外者だったよね」
ユウヤ「部外者だった」
ユウヤ「でもさ・・・」
ユウヤ「あれがあったから 今の俺たちがあるんだよな」
マミ「ふふふっ・・・」
マミ「そうかもね」
娘「パパー?」
ユウヤ「んっ?」
娘「渋谷だったら 私のほうが詳しいんだからね?」
娘「どこ行きたい?」
ユウヤ「ここかな?」
娘「ここって・・・ 駅の東口だよ?」
マミ「そうよ」
娘「えっ? なんで??」
娘「こんなとこ、なにもなくない?」
マミ「ここがいいのよ」
娘「イミわかんないよ」
ユウヤ「うん、満足した」
ユウヤ「さ、帰ろうか」
マミ「そうね」
ユウヤ「あのさ・・・」
マミ「んっ?」
ユウヤ「手、つないでいいかな?」
マミ「もう・・・」
マミ「はい」
「ふふっ」
娘「え、ちょ、ちょっと?!」
娘「なにしに来たの?」
娘「もう・・・」
娘「パパーっ! ママーっ! 待ってーっ!」
〇電車の座席
〇黒
ユウヤ「私たちは この街の主役だったことは一度もない」
ユウヤ「これまでも そして、きっとこれからも」
ユウヤ「それでも 私たちに2人とっては」
ユウヤ「渋谷という街は とてとても大切な街なんだ」
ユウヤ「渋谷の主役の君たちよ」
〇黒
〇黒
ユウヤ「また来させてもらうから」
ユウヤ「その日まで 渋谷を頼んだよ」
〇ハチ公前
〇センター街
〇渋谷の雑踏
おばちゃんがいい味出してる!
恋愛カテゴリと思ってますが、なぜかゴリゴリに際立つキャラクター。
面白かったです。
あ、甘ぁい、糖尿病なのに。爽やかな風が吹きました。渋谷って色んな人から成り立ってるんですね。感謝。
甘酸っぱい青春にキュンキュンしました💕
たい焼きくれたおばちゃんの人情にも感動です。一度読んでからもう一度読んで思わず「あっ」って言ってしまいました。