〇温泉旅館
トシ「やってきたぜ、修学旅行！」
ナツ「独り言、こわ」

〇旅館の和室
トシ「泊まりと言ったらやるしかないだろう？」
ナツ「いっちょやるか〜！」
トシ「執筆〜！」
ナツ「なんで!?」
トシ「実は同人誌の締切が迫っていて・・・」
ナツ「缶詰！」
ナツ「『泊まり』に対する意気込みが違う！」
トシ「じ〜」
ナツ「イヤな予感」
トシ「よし！　ネームは任せた！」
ナツ「よりにもよって!?」
ナツ「オレ、マンガとか描いたことねーし！」
トシ「簡単だからダイジョーブ！」
ナツ「マンガ家目指してるとは思えねーセリフ」

〇旅館の和室
トシ「どんな感じ？」
ナツ「オレ、意外と才能あるかも！」
トシ「マジか！」
トシ「どれどれ・・・」
トシ「・・・・・・」
ナツ「どうだ？」
トシ「よし、清書するか」

〇野球のグラウンド
　　涙と汗とアルデヒド
ナツ「何このタイトル？」
トシ「昨日授業で習った！」
ナツ「『アセトアルデヒド』の出所を訊いた ワケじゃないよ？」
トシヒコ「オーライオーライ！」
ナツ「バケモノォ！」
トシ「ナツの絵を忠実に再現した！」
ナツ「こんなヒドくねーよ！」
トシ「・・・・・・」
トシ「ま、まぁ、誇張しちまったかも」
ナツ「フォローさせちまった〜！」
ナツナリ「ナイスキャーッチ！」
ナツ「お前は・・・何だ!?」
トシ「俺が聞きたいよ」
ナツ「迷宮入り」
他校の選手「くっそー！」
他校の選手「強すぎんだろ！」
ナツ「もはや人型じゃなくなっちまったよ」
トシ「え!?　人間だったのか!?」
ナツ「・・・・・・」
トシ「すまん！　修正する！」

〇野球のグラウンド
　　カイジン⚾ベースボール
ナツ「タイトルじゃねーよ！」
他校の選手「強すぎんだろ！」
ナツ「悪化してるし！」
他校の選手「あいつら人間やめてやがる！」
ナツ「ココ笑いどころ？」
ナツ「イヤな奴ら！」
トシ「やれやれ、ワガママな原作者様だな」
ナツ「ネームのまま描いてくれよ」
トシ「・・・・・・」
トシ「・・・え？　いいの？」

〇学校の部室
トシヒコ「オレたち最強のバッテリーだな！」
ナツ「マジでオレの絵、こんなんだった？」
トシ「うん」
ナツ「・・・・・・」
ナツナリ「目指せ甲子園、ってな！」
ナツ「マジでほんとにこんなんだった!?」
トシ「ほい」
ナツ「あ、ほんと」
ナツ「よく描けてる〜！」
ナツ「泣きて〜！」
トシヒコ「甲子園は・・・ムリだよ」
ナツナリ「ビビってんの？」
ナツナリ「トシヒコらしくねーな！」
ナツナリ「夢はでっかく持とーぜ？」
トシヒコ「そうじゃない」
トシヒコ「オレ、野球辞めるから」
ナツナリ「は・・・？」
ナツナリ「その冗談、つまんねーんだけど」
トシヒコ「今日、退部届出した」
ナツナリ「どういうことだよ!!」
ナツ「何これ？」
トシ「これこれ」
ナツ「壁ドンです〜！」
ナツ「『バンッ』って書いてんじゃん！」
トシ「すまん！　波動出してるのかと・・・！」
ナツ「そんな高校生いるか！」
トシ「高校生・・・？」
ナツ「横顔ちょっと失敗しちゃったけど！」
ナツ「す、少し・・・いや、だいぶ・・・？」
ナツ「・・・ふん！」
トシ（ヘソ曲げちまった）
トシヒコ「・・・後悔、したくねぇんだよ」
ナツナリ「トシヒコ！」
トシ「ビギナーってシリアス展開にしがちだよな」
ナツ「正面からぶっ刺すのやめて」
ナツ「オレに恨みでもある？」
トシ「ははは！」
トシ「恨みなんてあったら、こんなネーム 焼き捨ててるよ」
ナツ「そんなに!?」
ヒナコ先輩「またケンカぁ？」
ナツナリ「先輩・・・！」
ナツ「先輩浮いちゃってるよ」
トシ「足なかったから、そういうことかと」
ナツ「知ってる？　そんな人間いないよ？」
ナツ「いた～！」
ヒナコ先輩「仲いいね」
ナツナリ「・・・そんなこと、ないです」
ヒナコ先輩「理解するだけが友達じゃないでしょ？」
ヒナコ先輩「わからないなら訊かなくちゃ！」
ナツナリ「・・・はい！」
ヒナコ先輩「ふふ」
ヒナコ先輩「若人よ、大志を抱け」
ナツ「知らねーセリフあるんだけど？」
トシ「アドリブだよ」
ナツ「意味違うと思う」

〇通学路
ナツナリ「トシヒコ！」
トシヒコ「オレ、決めたから」
ナツナリ「止めたりしねーよ」
ナツナリ「お前、昔から頑固じゃん」
トシヒコ「ナツナリ・・・」
ナツナリ「なぁ、いつもの場所行かね？」

〇旅館の和室
トシ（トシヒコとナツナリ）
トシ（いつもの場所ってことは・・・あそこか）
トシ（入水？）
トシ「ナツ、これって──」
トシ「・・・仕方ねぇ」

〇風流な庭園
ナツ「起こせよ」
トシ「幸せそうだったから、つい」
ナツ「寝顔見られんの恥ずいな！」
トシ「完成したよ」
トシ「読んでみてくれ」
ナツ「あれ？　でもオレ、まだ途中──」
トシ「アドリブで埋めた！」
ナツ「だから意味ちげーって！」

〇川沿いの原っぱ
　　１ヶ月後
トシヒコ「次期部長、おめでとう」
ナツ「誰!?」
ナツナリ「気がはえーよ」
ナツ「おいコラふざけんなよ？」
ナツ「モチーフわかった上でやってんだろ？」
トシ「うん」
ナツ「『うん』!?」
ナツナリ「トシヒコはどんな調子？」
トシヒコ「ぼちぼち」
ナツナリ「なぁ、野球部戻ってこねーの？」
トシヒコ「今さらだろう？」
ナツナリ「センスいいから問題ねーって！」
トシヒコ「・・・苦しいな」
ナツナリ「え？」
トシヒコ「今も野球を続けていたら・・・って 考えることがある」
トシヒコ「そしたら野球部のメンバーとバカやったり」
トシヒコ「キツい練習を励まし合ったり」
トシヒコ「もっと楽しかったのかな、って」
ナツナリ「トシヒコ・・・」
ナツナリ「なんでマンガ家なんだよ」
ナツナリ「趣味でも描けたじゃん」
トシヒコ「今と同じこと考えちまったんだよ」
トシヒコ「中学からマンガ家目指してたら 今頃もっと楽しかったのかな、って」
トシヒコ「昔から好きだったからさ」
トシヒコ「マンガ」
ナツナリ「・・・ちゃんと描いてんの？」
トシヒコ「まあな」
ナツナリ「じゃあ読者第１号予約な」
ナツナリ「サボるなよ？」
トシヒコ「次期部長に言われちゃ断われねぇな」

〇野球のグラウンド
　　オレは必ずマンガ家になるよ
　　今、この瞬間を後悔したくないから

〇風流な庭園
ナツ「トシナリ、これ──」
教師の声「こら！　就寝時間だぞ!?」
「サーセン！」

〇新幹線の座席
トシ「楽しかった修学旅行！」
ナツ「ひとり卒業式こわっ！」
ナツ「トシナリ、これ」
ナツ「続きのネーム」
ナツ「めっちゃ時間かかったしマジで疲れた」
ナツ「悔やんでなんかいられねーな」
トシ「・・・ナツヒコ」
トシ「これは──」
トシ「見るに耐えん」
トシ「誰が描いたんだ？」
ナツ「察しろぉぉぉ!!」
ナツ「ふん！」
トシ「はは」