第1話 恋は人を殺す(脚本)
〇教室
恋は人を殺す
そして、”彼女”も
恋に殺される
藤田賢雄「お前も俺を裏切るのか!?」
三雲しほ「私、浮気なんて・・・・・・」
藤田賢雄「とぼけるなよ!!」
藤田賢雄「昨日の夜も、あの男といっしょだった!」
三雲しほ「違う!」
三雲しほ「話を聞いて!!」
藤田賢雄「うるさい!」
藤田賢雄「浮気された人間の気持ち」
藤田賢雄「考えたことあんのかよ!!」
藤田賢雄「もう、終わりだ」
藤田賢雄「終わりなんだよ!!」
三雲しほ「え・・・・・・」
三雲しほ「うぅ・・・・・・」
藤田賢雄「はぁ、はぁ」
藤田賢雄「違う、これは・・・・・・」
藤田賢雄「うわーーーーーー」
〇教室
内田監督「カット──」
内田監督「いやぁ、良いよ!」
内田監督「二人とも」
内田監督「めっちゃいい!!」
「ありがとうございます!!」
内田監督「さすが、今をときめく若手役者だね」
内田監督「次も頼むね!」
内田監督「お疲れさん」
「お疲れさまです!」
三雲しほ「ねぇ?」
藤田賢雄「なんですか?」
三雲しほ「藤田君って、彼女いるの?」
藤田賢雄「いっ、いないですよ!」
三雲しほ「ホントに?」
藤田賢雄「ホントです!」
三雲しほ「ふーん」
三雲しほ「怪しい・・・・・・」
三雲しほ「ま、いっか!」
三雲しほ「ちなみに、私は彼氏持ちで~す」
藤田賢雄「こんなとこで、よく言うよ・・・・・・」
藤田賢雄「人気女優なんだから、もっと自重してください」
三雲しほ「アハハハハ」
三雲しほ「藤田君も、頑張って恋人つくるんだよ!」
三雲しほ「じゃね!」
藤田賢雄「お疲れさまです!」
〇入り組んだ路地裏
撮影が終了した数時間後
夜の裏路地
鈴鹿カスミ「遅いよぉ!」
藤田賢雄「ご、ごめん」
藤田賢雄「撮影長引いちゃって」
鈴鹿カスミ「もー!」
鈴鹿カスミ「彼女と仕事どっちが大事なんですか?」
藤田賢雄「そういう選択させる彼女は嫌いです」
鈴鹿カスミ「もー!」
鈴鹿カスミ「遅れてきたクセに生意気」
鈴鹿カスミ「そんなん言ったら別れるからね」
藤田賢雄「ご、ごめんて」
鈴鹿カスミ「はぁ」
鈴鹿カスミ「わかりました」
鈴鹿カスミ「”今回だけ”は特別に許したげる」
藤田賢雄「ありがとさん」
藤田賢雄「まぁ、このやりとり、今回で3回目だけどな」
鈴鹿カスミ「もー!」
〇線路沿いの道
鈴鹿カスミ「うへへ!」
鈴鹿カスミ「楽しみだね!遊園地!」
藤田賢雄「まぁ、ずっと行きたがってたもんな」
鈴鹿カスミ「うん!!」
鈴鹿カスミ「ほんとは、朝から行きたかったんだけどね」
鈴鹿カスミ「どっかの誰かさんが、仕事で空いてる日がないとか言うからね」
藤田賢雄「す、すみません」
鈴鹿カスミ「ま!それはいいんだけどね」
鈴鹿カスミ「ねぇ?」
藤田賢雄「なんだよ」
鈴鹿カスミ「共演してる女優さん・・・・・・可愛い?」
藤田賢雄「い、いきなり、なに言ってんだよ!」
鈴鹿カスミ「いやぁ、またヘンな女に鼻の下伸ばしてるのかなって」
藤田賢雄「”また”ってなんだよ!俺は一回も浮気なんてしてないぞ!」
鈴鹿カスミ「ふーん」
鈴鹿カスミ「なら・・・・・・いいんだけどね」
藤田賢雄「ていうか、約束しただろ」
藤田賢雄「絶対浮気しないって」
鈴鹿カスミ「そう・・・・・・だったね」
カスミの声音は、遺言を発する老人のように弱々しかった。
藤田賢雄「もう、そういうの!やめてくれよな!」
藤田賢雄「なんか、困るっていうか」
鈴鹿カスミ「う、うぅ」
鈴鹿カスミ「うぅぅぅぅぅ」
鈴鹿カスミは、魂が抜けたように、崩れ落ちた。
鈴鹿カスミ「・・・・・・」
藤田賢雄「え・・・・・・」
藤田賢雄「カスミ・・・・・・?」
藤田賢雄「カスミ!!!!」
それは、突然訪れた
幸せの終わりで地獄の始まり
〇病院の診察室
とある病院の一室
藤田賢雄「せ、先生!カスミは大丈夫なんでしょうか」
医者「まぁ、そう焦るな」
医者「気持ちは分かるが、冷静に話を聞いてもらいたい」
医者「ふむ」
医者「君、この子の恋人かね?」
藤田賢雄「はい!!」
医者「・・・・・・」
医者「彼女のご家族に連絡は?」
藤田賢雄「いえ、その・・・・・・」
藤田賢雄「連絡先をまだ知らなくて」
医者「なるほどな」
医者「なら、こちらから連絡しておこう」
医者「ふむ」
医者「それとだな」
医者「君には”本当”のことを言っておこうと思う」
藤田賢雄「本当のこと?」
医者「単刀直入に言うと」
医者「彼女は”恋(レン)病”に罹患している」
藤田賢雄「え・・・・・・」
藤田賢雄「それは、一体」
医者「簡単に言うと、恋愛感情が体を蝕む病だ」
藤田賢雄「そ、そんなの初めて聞きました」
医者「うむ」
医者「一般に広く認知されているものではないから無理もない」
医者「この病は、恋心をもった者が発症する」
医者「症状としては、意識消失、痙攣、五感の機能不全などだ」
医者「そして、進行すると”死”に至る」
藤田賢雄「なんだよ、それ」
藤田賢雄「おかしいだろ、恋心が病気に発展するなんて」
藤田賢雄は、半信半疑だった。
藤田は、恋心から病が発症するなんて馬鹿げた話だと、そう思っていた。
医者「冗談ではないよ」
医者「私は、大真面目だ」
藤田賢雄「そ、そんな・・・・・・」
藤田賢雄「くっ・・・・・・」
藤田賢雄「カスミは・・・・・・」
藤田賢雄「大丈夫なんでしょうか?」
医者「残念だが」
医者「彼女の寿命は、もって”三ヶ月”」
藤田賢雄「え・・・・・・」
三ヶ月
その言葉だけが、藤田の脳内を支配した。
医者「ただし」
医者「何もしなければの話だ」
藤田賢雄「え・・・・・・」
医者「今現在、この病の治療法はたった”一つ”」
医者「それは」
医者「患者と好意を持っている対象が同じ人間の”血液”での中和だ」
藤田賢雄「え」
医者「つまり、君に恋愛感情をもつ”第三者の血液”が必要ということだ」
藤田賢雄「そんな人間、いませんよ・・・・・・」
医者「いないなら、つくるしかあるまい」
藤田賢雄「え・・・・・・」
医者「誰かの好意を獲得すればいいのだよ」
医者「つまり、”浮気をしろ”ということだ」
藤田賢雄「・・・・・・」
藤田賢雄「なんだよ、それ・・・・・・」
藤田賢雄「おかしいだろ・・・・・・」
医者「それとな」
医者「この病気のことは」
医者「患者本人には言わないという不文律がある」
藤田賢雄「なんで・・・・・・」
医者「患者が意識することで、悪化する蓋然性があると指摘されているからだ」
藤田賢雄「・・・・・・」
医者「だから、彼女には他の病気として伝える」
藤田賢雄「・・・・・・」
医者「悪いが、私がしてやれることはほぼない」
医者「この病気と向き合うときは、いつも、医者として無力感を思い知らされる」
医者「本当に、申し訳ない」
藤田賢雄「・・・・・・」
藤田賢雄(浮気なんて)
藤田賢雄(そんな、彼女を裏切ることなんて)
藤田賢雄(できるわけないだろ)
〇病室
鈴鹿カスミの病室
鈴鹿カスミ「ご、ごめんね」
鈴鹿カスミ「せっかくのデートだったのに」
藤田賢雄「気にすんな」
藤田賢雄「それより、体の方は大丈夫か?」
鈴鹿カスミ「うん!元気いっぱいだよ!!」
鈴鹿カスミ「えへへ」
藤田賢雄「あんま無理すんなよ」
鈴鹿カスミ「大丈夫だよ!」
病室のテレビには、『不倫をしたイケメン俳優の謝罪会見』が映し出されていた。
鈴鹿カスミ「・・・・・・」
鈴鹿カスミ「世間からの評価を捨てても、自分の気持ちを貫くなんて」
鈴鹿カスミ「そんなの、ホントにいいのかな・・・・・・」
鈴鹿カスミ「ダメ、だよね・・・・・・」
藤田賢雄「・・・・・・」
鈴鹿カスミ「この人、もう終わりだね」
藤田賢雄「まぁな」
藤田賢雄「俳優が不倫なんてしたら、”社会的に死ぬ”」
藤田賢雄「それからの人生、全部ドブに捨てるようなモンだ」
鈴鹿カスミ「どうせ、賢雄は、私が病室で寝てるときに、他の女とイチャイチャしちゃうんでしょ」
藤田賢雄「だから!」
藤田賢雄「やらねぇって!」
藤田賢雄「いちよう、俺も俳優だし」
藤田賢雄「そんなことしたら、作品に迷惑かかる」
藤田賢雄「それに、俺は社会的に終わる」
鈴鹿カスミ「チーキーン!チーキーン!!」
藤田賢雄「うるせぇな・・・・・・」
藤田賢雄「でも、元気そうで良かったよ」
鈴鹿カスミ「えへへ」
鈴鹿カスミ「あ!」
鈴鹿カスミ「そういえばさぁ」
鈴鹿カスミ「私、超難関大学の医学部さぁ、A判定だったんだよ!」
藤田賢雄「え?」
藤田賢雄「高校二年生でそのレベルかよ」
藤田賢雄「すげぇな」
鈴鹿カスミ「でしょ!!」
鈴鹿カスミ「それでね!」
鈴鹿カスミ「ずっと、言ってなかったけど」
鈴鹿カスミ「私”お医者さん”になりたいんだ!!」
鈴鹿カスミ「夢なの!!」
鈴鹿カスミ「私の夢!!」
鈴鹿カスミ「誰かを救える、立派な女医さん!」
鈴鹿カスミ「なりたいんだぁ!」
鈴鹿カスミ「こんなとこで言うのもなんだけどね」
藤田賢雄「そっか・・・・・・」
そして、藤田賢雄の脳内は再度支配される。
彼女の寿命は
残り”三ヶ月”
藤田賢雄「・・・・・・」
鈴鹿カスミ「もし、私が女医になったら」
鈴鹿カスミ「賢雄が病気になったとき、治したげるよ!」
藤田賢雄「そっか・・・・・・」
鈴鹿カスミ「”約束”だかんね!!」
藤田賢雄「・・・・・・」
藤田賢雄「あぁ」
藤田賢雄「”約束”だ!!」
藤田賢雄「絶対、忘れんなよ!」
鈴鹿カスミ「もちろん!」
藤田賢雄「あ」
鈴鹿カスミ「え?何?」
藤田賢雄「なんか、食いたいもんとかあるか?」
鈴鹿カスミ「プリン食べたい!!」
藤田賢雄「おっけ」
藤田賢雄「まぁ、プリンぐらいだったら」
藤田賢雄「食っても大丈夫だろ」
藤田賢雄「ちょっくら、買いに行ってくるわ」
鈴鹿カスミ「売店?」
藤田賢雄「いや、売店閉まってるみたいだし」
藤田賢雄「外のコンビニ行ってくるわ」
鈴鹿カスミ「りょーかい!」
藤田賢雄「じゃ、すぐ戻ってくる」
鈴鹿カスミ「あ!」
藤田賢雄「なんだよ?」
鈴鹿カスミ「や、やっぱり」
鈴鹿カスミ「い、いかないで・・・・・・」
藤田賢雄「そんな、大袈裟な」
藤田賢雄「コンビニ行くだけだぞ」
鈴鹿カスミ「そ、そうだよね」
鈴鹿カスミ「えへへ」
鈴鹿カスミ「あのさぁ」
藤田賢雄「どうした?」
鈴鹿カスミ「他の女の子と、イチャイチャしないでね」
藤田賢雄「大丈夫だ」
鈴鹿カスミ「浮気・・・・・・しないでね」
藤田賢雄「しないよ」
鈴鹿カスミ「ホント?」
藤田賢雄「ホントだ」
藤田賢雄「心配性なやつだな」
藤田賢雄(さっきの話を聴いてたのか?と疑ってしまいそうにもなるが)
藤田賢雄(あの医者も、そこには最大限気を配っているはずだし、その線はないだろう)
藤田賢雄(さっきのニュースで不安になったんだろうか?)
藤田賢雄(まぁ、考えても詮無いことだな)
藤田賢雄「じゃ、行ってくるわ」
鈴鹿カスミ「うん」
鈴鹿カスミ「いってらっしゃい」
〇総合病院
藤田賢雄(カスミ・・・・・・)
藤田賢雄(ごめんな)
藤田賢雄(でも)
藤田賢雄(やっぱり)
藤田賢雄「道は決まった」
藤田賢雄(俺は、君との約束を守りたい)
藤田賢雄(俺は、君に約束を守ってもらいたい)
藤田賢雄(だから)
藤田賢雄(恋が君を殺そうとするなら、俺が救う)
藤田賢雄「たとえ、俺の人生をBETしたとしても!!」
〇黒
数ヶ月後
ニュースキャスター「速報をお伝えします」
ニュースキャスター「俳優の”藤田賢雄”氏が、複数の女性と関係を持っていたことが明らかになりました」
そう
俳優”藤田賢雄”の最後は
すぐそこまで迫っていたのだ
こんにちは!
このお話、心を掴まれました!
カスミちゃんの明るい未来への思いがどんどん主人公の足枷になっていくような気がしてはらはらしました!
これからどうなってしまうのかとても気になるし、恋人の為に浮気をするという逆転の発想が新鮮でした!
浮気は「しちゃダメだ」と思うとしたくなるけど「しなくちゃダメ」と言われるとかえって出来なくなるような気がします。賢雄は無事に(?)浮気に成功したみたいですが、カスミとの関係や俳優生命など、これからの展開が気になります…。
いいですね。
浮気したくないのにしなきゃいけない設定そそられます🤤どんなふうに盛り上がっていくのか楽しみです。