〇広い和室
タケハ「もう、兄ちゃん。 ここで仕事しなくてもいいだろ？ 自分の家でやってくれよ」
ツクヨミ「いいじゃないか。 俺は神社のために働いているんだぞ」
タケハ「ま、確かに、 神社を舞台にしたゲームを作ってくれたから、参拝客は倍増してるけど・・」
ツクヨミ「神社のリアリティを出すためにはここで作るのが一番だ。 どうせ、会社も辞めたんだからどこで作っても俺の勝手だろ？」
タケハ「確かに勝手なことしてくれたよね。 ゲームで獲得したポイントを ここの御朱印に代えられる、って」
タケハ「俺がめちゃくちゃ大変なの、わかる？ 腱鞘炎になりそうなんだよ、わかる？」
ツクヨミ「ごめんごめん。 そんなに人気が出ると思わなかったんだ」
ツクヨミ「でも、そのおかげで神様が帰ってくるんだろ？」
タケハ「淡雪は帰っちゃったけどね」
ツクヨミ「仕方ないじゃないか。 立派な神主になるんだろ？ ちゃんと神様がいないと」
タケハ「なんか、その言い方ムカつくな」
タケハ「もうこの家から出ていけ。 もしくは、御朱印が書けるようになれ」
ツクヨミ「ムリだって。 俺が書いたら御朱印のありがたみも薄れるよ」
コマ「失礼します。 神様が到着しました」
ツクヨミ「到着って・・ 勝手に上空に鎮座するものじゃないの？」
コマ「いろいろ謝りたいことがあるそうで、 普通は地上に来ないのですが、 今日は特別です」
タケハ「わかりました。 どうぞお入りください」
ツクヨミ「・・俺、居てもいいのかな・・」
淡雪「ど、どうも」
ツクヨミ「淡雪～」
タケハ「どうしたんですか？ ・・・いや、まさか・・」
淡雪「はい、私、ここの神様に任命されました。 ここを命がけで守っていたことが 評価されたようで・・」
ツクヨミ「すごいじゃないかぁ」
淡雪「あと、そんな格好で会社に来るな、 とも言われました」
タケハ「あぁぁ」
淡雪「私のような実力不足が来てごめんなさい。 ふつつか者ですが、 よろしくお願いします」
ツクヨミ「大歓迎だよ。 なぁ、タケハ」
タケハ「わ、私には何の異存もありませんよー」
ツクヨミ「でも、神様になったら、 結婚もできないな」
タケハ「・・・・・」
タケハ「み、みんなでこの場所を守れれば、 そ、それはもう家族みたいなものですから」
ツクヨミ「お、良いこと言うじゃないか。 頼んだぜ、淡雪」
淡雪「ありがとうございます。 頑張ります」
ツクヨミ「たまには降りてこいよ。 ここには『家族』がいるんだからさ」
淡雪「はい。 怒られない程度に降りてきます」
タケハ「楽しみに待っています」
淡雪「では失礼します」
ツクヨミ「・・・いやぁ、 まさか淡雪が神様になるなんて、 考えてなかったな」
タケハ「淡雪さんはずっと神様になるための会社で修行をしてたんでしょうね。 その一環でここにも来ていた」
ツクヨミ「・・・神様って、会社で言ったらどの役職なんだ？ 課長？部長？」
タケハ「いや、・・自営業者？ ・・・委託社員？ ・・・下請け？」
タケハ「何にせよ、大変そうですね・・」
コマ「ツクヨミ様、タケハ様、 私はここで失礼します。 しばらくお会いできないと思います」
ツクヨミ「なんで？」
コマ「新しい神様のとても良い気が この辺り一帯を包んでいます。 この状態なら悪い気も入ってくる余地がありません」
コマ「・・私の役目も終わりです」
ツクヨミ「そうか・・・」
コマ「マコからも、 この神社を守ってくれてありがとうございましたと言伝（ことづて）を頼まれています」
ツクヨミ「マコは来ないのか？」
コマ「極度の人見知りですから。 タケハ様にお会いするのが恥ずかしいのでしょう」
タケハ「一度ゆっくり話したかったなぁ」
コマ「では、ここでお別れです。 私は狛犬に戻り、あとは神様にお任せします」
ツクヨミ「・・・寂しくなるな」
コマ「きちんと狛犬の掃除を欠かさないようにお願いしておきますね」
タケハ「それは兄ちゃんの役目だな」
ツクヨミ「え？なんで俺が？」
コマ「次に困ったことが起こっても助けてあげませんよ。 あなたの運命が変わろうとする時、ほくそ笑んで眺めることもできるんですよ」
ツクヨミ「いや、それは困る」
コマ「では、しっかり磨き上げてくださいね」
ツクヨミ「くそー、 その時は絶対こき使ってやるからな」
コマ「そんな時が来ないことを祈っています」
タケハ「任せておけ。 今度は神様が逃げないように僕が捕まえておく」
ツクヨミ「・・・それはなんだか違う響きに聞こえるのだが・・」
コマ「お母様が来られました。 では失礼します」
ツクヨミ「またな」
母「ご飯できたわよ」
タケハ「ありがとう」
母「今日は淡雪さんが得意な甘めの卵焼きよ」
ツクヨミ「うっ、・・それは甘すぎないやつだよね・・」
　　ＨＡＰＰＹ　ＥＮＤ