エピソード14 また来世(脚本)
〇病院の廊下
常世 零(クソッ、歩きづらい)
常世 零(しかし運がないな、俺も。仕事中に怪我とは)
常世 零(おかげで松葉杖での生活を余儀なくされた)
常世 零(後ちょっとで退院だが、すぐに仕事に復帰は難しそうだな)
常世 零「うぉっと!」
常世 零「はぁ・・・」
常世 零(ほんと、ついてないな)
???「大丈夫?」
常世 零「え?」
牡丹一華「よければ、手を貸そうか?」
常世 零「え、いや、大丈夫です」
牡丹一華「本当? どこか痛むんじゃあ?」
常世 零「いや、ただ起き上がる気力がわかないだけでして」
牡丹一華「あはは、何それ」
牡丹一華「もしかして、入院は初めて?」
常世 零「ええ、はい」
常世 零「えっと・・・」
牡丹一華「あ、私は一華って言うの」
常世 零「一華さん」
常世 零「俺は零です。常世零」
牡丹一華「ふぅん、不思議な名前」
常世 零「あの、一華さんは入院生活長いんですか?」
牡丹一華「ええ。とってもね」
常世 零「とっても・・・」
牡丹一華「うん。だからわからないことが合ったら何でも聞くといい」
牡丹一華「お姉さんが教えて進ぜよう」
常世 零「お姉さんって・・・」
常世 零(どう見ても年下に見えるけど)
これが、牡丹一華との初めての出会いだった。
〇病室のベッド
後日
常世 零(腹が減ったな)
常世 零(売店でも行くか)
〇病院の廊下
牡丹一華「お!」
牡丹一華「またあったねぇ、常世少年」
常世 零「少年って・・・」
常世 零「そんな歳じゃないですよ」
牡丹一華「そう? 全然、若く見えるけどなぁ」
常世 零(そりゃこっちのセリフだ)
牡丹一華「で、どこ行くの?」
常世 零「売店で何か買ってこようかと」
牡丹一華「いいねぇ」
牡丹一華「よし、お姉さんがついて行ってあげよう」
常世 零「な、なんでですか」
牡丹一華「知ってる? ここの売店は肉まんがうまいんだよ」
常世 零「そうなんですか?」
牡丹一華「ああ、噛んだ瞬間に肉汁がジュワッと溢れ出してね」
牡丹一華「それが生地の饅頭と合わさると、ちょうどいい味加減なんだよ」
常世 零「いいですね、食べたくなってきました」
牡丹一華「だろうだろう?」
牡丹一華「他にもねぇ、ホットスナックだと意外とポテトも絶品なんだよ」
牡丹一華「肉厚のポテトの歯ごたえと、塩加減が絶妙なんだ」
牡丹一華「どう? 連れて行きたい気持ちになった?」
牡丹一華「いい返事だな」
牡丹一華「やはりお腹は正直が一番だ」
〇病室
以来、俺たちの交流は頻繁に行われた。
そして、いつしかお互いの病室を行き来するような仲になった。
牡丹一華「あはは、なんだよそれ」
常世 零「いや、本当に見たんだよ。犬が飛ばされた帽子を咥えて行ってさ」
常世 零「その持ち主と思われる人が追いかけてさ、さらにその人がハイヒールを放り出すから」
常世 零「後ろから彼氏を思しき人も追いかけていて、さらに犬の飼い主も追いかけていたから」
常世 零「すごい列だったよ」
牡丹一華「や、やめてぇ」
牡丹一華「笑い過ぎて死ぬ、だめぇ」
彼女はよく笑う人だった。どんな些細なことでも笑ってくれる。
俺はそれが嬉しくて、よくいろんなことを話した。
牡丹一華「いやぁ、面白いねぇ」
牡丹一華「そんな光景を生で見てみたいよ」
常世 零「そうお目にかかれるもんじゃないけどな」
牡丹一華「だろうねぇ」
牡丹一華「羨ましい限りだよ」
常世 零「そうか? 話のネタにはなるが」
牡丹一華「私にはそれすらないからねぇ」
でも彼女は時々笑えないことを言う。
無意識なのかもしれない。だけど俺は、そういう時決まって返答に困った。
彼女の病室は俺のいる大部屋と違い個室で、静かな場所にある。
二人で話をするにはこれほど最適な場所はないが、一人でいる時はどんな気持ちなのだろうか。
そんなことを時々、考える。
〇病室
牡丹一華「ねぇ、零は生まれ変わりとか信じる?」
常世 零「生まれ変わり?」
牡丹一華「そ。生まれ変わったら、何になりたいとかそういうのあるじゃん」
常世 零「貝とかか?」
牡丹一華「いや、それいうのもあるけど、夢がないよ」
常世 零「夢、あるのか? 生まれ変わり」
牡丹一華「あるでしょ。もし、生まれ変わったらアイドルになりたいとかさ」
牡丹一華「考えるだけでもワクワクしない?」
常世 零「でも、その時には今の記憶ないんだろ?」
常世 零「なら、もはや他人じゃないか。それでどうして生まれ変わりって思えるんだ?」
牡丹一華「もぅ、零ってほんと夢ない」
牡丹一華「つまんない大人」
常世 零「わ、悪かったな」
〇病室
牡丹一華「お、今日はいつもと雰囲気が違うね」
常世 零「もう退院だからな」
牡丹一華「そっかそっか、もうそんな時期か」
牡丹一華「時が経つのは早いなぁ」
常世 零「お年寄りみたいなこと言うなよ」
牡丹一華「それにしてもお姉さんは心配だよ」
牡丹一華「常世少年は一人で大丈夫かい?」
常世 零「心配しなくても、俺は元々一人でやってたよ」
牡丹一華「でも、もう私のいない生活に戻れないかも」
常世 零「よく言うよ」
常世 零「一華の方こそ、どうなんだよ」
牡丹一華「・・・・・・」
牡丹一華「そうかもね・・・」
常世 零「え?」
牡丹一華「・・・・・・」
常世 零「・・・・・・」
常世 零「・・・まぁ、たまに見舞いに来るよ」
牡丹一華「うん」
牡丹一華「やっぱりお姉さんがいないと寂しんだね!」
常世 零「・・・そういうことにしておくよ」
〇病室
それから季節は巡る中で、俺は幾度も彼女の病室を訪れた。
牡丹一華「やっほ。今日も来たね」
常世 零「ああ」
牡丹一華「最近、よく来るね。どしたの?」
常世 零「いや、深い意味はないんだが、その・・・」
牡丹一華「その?」
常世 零「何と言うのかな・・・」
この時、俺は既に彼女のことが好きになっていた。
でも、この気持ちを伝えるべきかどうか迷う。
彼女はずっと病室にいたままで、一向に退院の気配を見せない。
これからも先ずっとそのままなのかもしれないと考えると、
それを背負うだけの覚悟が俺にあるのかどうかが、まだわからなかったのだ。
常世 零「一華はさ」
牡丹一華「ん?」
常世 零「どこか行きたいところあるか?」
牡丹一華「なにそれ。急にどうしたのさ」
常世 零「いや、なんとなく」
常世 零「ないなら、その、やりたいことでもいい」
牡丹一華「・・・そっか」
牡丹一華「いっぱいあるよ」
牡丹一華「夏の日差しにあたりながら、海に漂いたいし」
牡丹一華「朝靄のかかる山頂で、朝日も拝みたい」
牡丹一華「秋には紅葉の舞い散る街路樹で思いっきり走り回りたいし、」
牡丹一華「冬は雪景色に染まった夜を静かに歩きたい」
牡丹一華「そして、雪が解けたら芽吹く春を見つけるの。そうやって一年を感じていたい」
常世 零「やろう・・・」
牡丹一華「無理だよ」
牡丹一華「もう零も気づいてるでしょ? 私にはそれができないの」
常世 零「やろうよ。俺も協力するから」
牡丹一華「ありがとう。その気持ちだけで十分だよ」
そう言い切られると、何も言えなかった。
彼女はどうにもならないことと既に折り合いはつけていて、
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