トンボガエリ

キリ

オリジナル(脚本)

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〇団地のベランダ
  そいつは、一人暮らしはじめてまもない頃
  突然やってきたんだ──
八朔日「んん〜♪」
八朔日「今日もいい天気じゃいっ!」
八朔日「ふんどしも気持ち良さそうになびいてて いいぜいいぜえ〜♪」
八朔日「帰る頃には、取り込めるなこりゃ」
  毎朝ふんどしを干してから出勤するまでが
  俺の朝のルーティン
  今のご時世、ふんどしなんてものを
  知らない人が多いから、
  干しててもタオルが何かと
  勘違いしてるのか、苦情は一切ない
  そして、季節は夏──
  この季節になると、どこにでもトンボが
  飛び回っているのをよく見かけた
八朔日「トンボだ・・・」
八朔日「・・・」
八朔日「あ?」
  八朔日がいるというのに、一匹のトンボが
  ふんどしを干している物干しに近づき
  スッと止まった
八朔日「あれ?よく見たらオニヤンマじゃん!」
八朔日「どおりで普通のトンボよりデカいわけだ あははっスゲーねこれ、かっけえ〜」
八朔日「あ、ついはしゃいじまった・・・」
八朔日「・・・お前、逃げないんだな」
八朔日「ってやっべ!そろそろ出ねえとっ!」
「いったああ!もーー朝から足の小指ぶつけ いったああ!」
  騒々しい八朔日だが、トンボはまだ
  物干しに止まったままだ

〇団地のベランダ
  次の日
八朔日「よしっ!今日も晴天!」
八朔日「干しますか!」
八朔日「あ?」
  物干しの近くに、八朔日が立っている
  というのに、オニヤンマが飛んできた
八朔日「またオニヤンマだ、ひょっとして昨日の?」
八朔日「アッハハハハ!」
八朔日「スゲーなおい」
八朔日「よ!トンボ太郎!この物干し 気に入ったか?」
八朔日「って、別に俺の物干しじゃなくても どの部屋もこの物干しだと 思うんだけどな〜」
八朔日「ま、いいや!気に入ったなら俺もなんか 気分良いしな♪アッハハハハ!」
八朔日「のぼせんなよ?トンボ太郎」

〇団地のベランダ
  それから一週間経過した
  それでもオニヤンマは、当たり前のように
  八朔日の部屋の物干しにやってきて
  同じ物干しの定位置に止まる
  それは、梅雨明け前の
  雨の日でもやってきた
八朔日「ああー、このままだとトンボ太郎の 羽濡れるんじゃね?」
八朔日「大丈夫なのか?トンボ太郎、 俺の部屋入るか?」
八朔日「けど、部屋に入れたら入れたで 後々面倒だしな〜」
八朔日「くそ・・・っ」
八朔日「愛着湧くじゃねえかよぉ〜まったく♪」

〇黒
  このトンボとのやり取りは、
  3年経ったいまでも、
  毎年夏になると、オニヤンマと同じく
  一匹のトンボが、あの物干しの定位置に
  止まりにやってくるのだ

〇団地のベランダ
八朔日「お!今年も来たなトンボ三太郎」
八朔日「へえ〜今年は黄色の尻尾なんだな」
八朔日「ほんと、毎年来てくれて律儀だな〜」
八朔日「なんとなくだけどさ、」
八朔日「あの日のオニヤンマが生まれ変わっても 俺の部屋に来てくれてるのかなって」
八朔日「それか、俺に懐いてるんだろうかってな」
八朔日「お、これぞ本当の"とんぼ返り"か? !」
八朔日「言葉の意味が直に伝わって覚えられる!」
八朔日「先生だな、トンボ三太郎は アッハハハハ♪」
  毎年ありがとね、オニヤンマ

コメント

  • 「一寸の虫にも五分の魂」と言いますから、トンボなりに理由があるトンボ返りなんでしょうね。八朔日の人柄と白いふんどしの清々しさがトンボのお眼鏡にかなったのかな〜。ほのぼの〜。

  • 物言わぬ動植物から感じとれるものって特別ですね。懐いているようだと愛着がわく、とってもよくわかります。そういう感受性を持っている人だからこそ、トンボも会いに来るのでしょうね。

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