渋谷に溶けたきみへ

岸音りよ

渋谷に溶けた幽霊(脚本)

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岸音りよ

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〇男の子の一人部屋
  友人の独乃(ひとの)那海(なみ)が亡くなりました
SNSの呟き「友人の独乃那海が亡くなりました」
つたう「・・・」
  那海とは、SNSの病みアカウントを通じて知り合った
  トプ画の彼女の写真は、相変わらず笑っていない
つたう(好きって伝えられなかったな)
つたう「これからどうすればいいんだろう」
  そんな時、一件のメッセージが届いた
つたう「なんだ?」
  つたうくん、僕、幽霊になった
  ──那海から、だった

〇明るいリビング
那海「無賃乗車した!  みんな、僕のこと見えないみたい」
つたう「幽霊ってそんな感じなんだ」
  結論から言おう
  ──那海は死んでいた
  でも、その記憶が曖昧になっているらしい
つたう「死ぬ前、那海は”いじめっ子と話をしに行く”って言ってたよね」
那海「うん。たしか、渋谷で」
つたう「渋谷か」
  俺と彼女はいじめられっ子だった
つたう(お互い引きこもりだったけど、那海は明るくて、いつも俺を励ましてくれた)
つたう(だから、彼女は俺にとって特別だ)
那海「記憶探しも兼ねて、遊ぼうよ」
つたう「会う約束もしてたしね 何があったかも知りたい」
つたう(そうだ、俺はまだ彼女に会ったことすらないんだ)

〇男の子の一人部屋
つたう「みんな無視するけど、やめてって言ったら何されるか」
つたう「うまく周りに溶け込めたらなぁ」
那海「学校、行かなくてもいいよ」
那海「無理に立ち向かうことは、偉いわけじゃないもん」
つたう「いつもありがと」
つたう「俺、那海のこと──」
那海「うん?」
つたう「ううん、なんでもない」
つたう(・・・伝えても、嫌われるかもしれないし)

〇明るいリビング
  俺は、彼女に──
  少しの間をおいて、通知音が鳴る
那海「じゃ、ハチ公前で会おう」
つたう「わかった」

〇ハチ公前
那海「来たよ」
  彼女の姿は見えない
  誰かにじっと見られているような視線は感じるけれど
つたう「本当にいるの?」
那海「うん。だから返信じゃなくて声でいいよ でも、つたうくんも見えないか」
つたう「・・・」
つたう「とりあえずここら辺を回ってみよう」
つたう「何か手がかりがあるかもしれないし」
???「・・・」

〇モヤイ像

〇東急ハンズ渋谷店

〇SHIBUYA109

〇地下街
那海「ね、ここ寄ろうよ」
  真顔で写る那海のトプ画を見て、俺は小さくため息をつく
  彼女が謎を解きたいように思えなかった
つたう(自分の死に興味がないのかな)
  それとも──本当は覚えてるのか?
那海「楽しいね」
つたう「あ、うん」
那海「ね、連れて行きたい場所があるんだ」
つたう「どこ?」
  渋谷に溶ける場所
つたう「なにそれ?」
那海「まだ秘密」
???「・・・」

〇渋谷の雑踏

〇SHIBUYA SKY
つたう「すごい」
  やって来たのは、あの有名な渋谷のスクランブル交差点
  その景色を一望できる、SHIBUYA SKYだった
  溢れんばかりの人が、波を打つように移動している
那海「つたうくんは、この景色に何を感じる?」
つたう「うーん」
つたう「人間関係みたいだ」
那海「?」
つたう「ここを歩く人は、周りの人を知らない なのに、ぶつかりもしてない こんなに近い距離を歩いているのに」
那海「うまく歩いてるよね」
つたう「こんなうまく生きられないよ いっそのこと、俺も死んで那海と──」
つたう「・・・」
那海「つたうくん?」

〇黒
  スマホが、俺の手からスルリとその場に落ちていった

〇SHIBUYA SKY
  那海はここで死んだんじゃないか?
つたう(ここで死ぬ──それが”渋谷に溶ける”ことなら)
  俺は歩みを進める
  なら
  ここから飛び降りたら
  ずっと那海と一緒に──
???「待って!」
  背後から誰かに抱き寄せられて、俺の体はその場で停止した
つたう(──誰だ?)

〇SHIBUYA SKY
少女「待って」
  潤んだ瞳でこちらを見つめる少女に、俺は状況を理解できず困惑する
つたう「きみは?」
少女「私が、きみに返信してたの 今日も後をつけてた」
つたう「え?」
  少女はゆっくりと息を吐いて、口を開いた
少女「私が、那海ちゃんをいじめてた」
つたう「・・・」
少女「あの子が私と話をした日、ここで会って──」

〇SHIBUYA SKY
那海「うまく溶け込めなくて、いじめられて」
那海「辛くて、死のうと思った」
少女「っ!」
那海「どうせなら、いろんな人に見せつけてやろうって」
那海「ひとりで、ここに来た けど──」
少女「?」
那海「この人の波を目にして、僕は思った」
  みんな、自分を生きてるんだって
少女「・・・」
那海「みんな、歩幅も歩く速さも違う」
那海「なのに、何の問題もなくこの場所は形成されていて」
那海「みんな、自分で歩いてる」
那海「自分のペースで生きてる」
那海「周りに溶け込まなくていいんだ」
那海「いじめられても、僕は僕でいいんだ」
  ──あの日、僕は渋谷に溶けたんだ

〇SHIBUYA SKY
少女「やめなきゃってわかってた」
少女「でも、いじめをやめたいって言ったら、次は私がいじめられるかもしれない」
少女「だからずっと言えなくて、苦しくて」
つたう「うん」
少女「那海ちゃんが話したいって言ってくれたの そして、私を許してくれた」
少女「あの子のおかげで、自分の気持ちを伝えられた」
少女「だけど、その帰り道であの子が急に倒れて」
つたう「・・・」
少女「病気で、体が弱かったんだって」
少女「急いで救急車呼んだけど、あの子はそのまま──」
つたう「そうだったのか でも、なんできみが那海のスマホを?」
少女「最後に那海ちゃんに頼まれたの 救ってあげてほしい人がいるって」
つたう「それって、まさか──」
少女「この景色を見せて、ある言葉を伝えてほしいって」

〇白
  ”自分”で生きて

〇SHIBUYA SKY
  涙が止まらなかった
つたう(俺は、何を勘違いしていたんだろう)
  那海──
少女「いじめっ子の私は許さなくていい」
少女「でも、幽霊のフリしてって頼んだあの子は許してあげて」
少女「本当に、ごめんなさい」

〇渋谷のスクランブル交差点
  那海の選択が、那海の言葉が──
  他の何かを気にしなくていいと、教えてくれた
つたう(言いたいことは、しっかり言うんだ)
つたう(まずは、独乃那海に気持ちを伝えたい)
  周囲に溶け込むのでなく
  渋谷を歩く人のように生きることを選んだ
  ──そう、渋谷に溶けたきみへ
つたう「那海! 大好きだ! ありがとう!」
  この人波に、ありったけの気持ちを叫んだ
  誰に変な目で見られようと関係ない
  俺は、俺だ
???「・・・」
那海「伝愛(つたう)くん、僕も好きだったよ」
那海「ありがとう」

コメント

  • 切ない、キュン、吸い込まれ、叫びそうになる。
    このお話に出会えて感謝。
    あ、ばけつ様も気になります。

  • 「渋谷に溶ける」というキーワードの意味がわからなくて気になって読み進めたんですが、後半まで引っ張って飛び降りて溶けたのかとつたうと読者に思わせてからの溶け込むのような意味での溶けるだと明らかになるのがすごく印象的です。都会の人混みにまぎれることを、埋没というかどこかマイナスに見ていた自分もいたんですが、一人ひとり自分で生きられているという見方が素敵で都会っぽいと感じました。

  • 謎の人影はなんだろうとか
    どんな終わりを迎えるんだろうとか
    ハラハラしながら見ておりました😌
    自分で生きること、簡単なようで難しいけど
    大切なことですね🥲

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