#8 最終話 ニューホライズン(脚本)
〇大衆居酒屋(物無し)
営業が終わった居酒屋「渋谷愛」。
タケ「先輩、唐揚げあと一個貰っていいっスか 弁当箱にすきまできちゃって」
ノン「おぉ」
タケ「あざーっす。じゃ、お先しまーす」
ノン「この後コンビニいくの?」
タケ((ドキッ))
ノン「いや、ダブルワークが悪いって言ってんじゃねぇから」
タケ(当然です、ここもバイトなんで)
タケ「知ってたんスか?」
ノン「ん、ちょっとな」
〇寂れた雑居ビル
(ノンの回想)
ノン「タケ、あいつ最近元気なくてさ この前なんか立ったまま寝てた」
少年「疲れてるんじゃないですか コンビニで深夜バイトしてました」
ノン「マジ? どこで?」
少年「線路の向こう側 あ、これ、言ったらまずかったですか?」
〇大衆居酒屋(物無し)
ノン「カラダ、キツくねぇか? いや、最近ちょっとトークに切れがないっつぅか」
タケ(そこか!?)
ノン「借金とか、あんの?」
タケ「いや、まぁナンつぅか・・貯金始めて・・」
ノン「ナンか買うの?」
タケ「ちょっと、まぁ・・ 買うっていうより、夢っていうか」
ノン「夢?」
タケ「チェコに行こうかなー、なんて」
ノン「チェコ?」
タケ「レオがいつでも来いって ウチに泊れって言ってくれてんスよ」
ノン「チェコって、お前、外国行ったことあんの?」
タケ「ないっす。初海外がチェコって、ちょっとハードル上げすぎっすかね」
ノン「てか、そもそもどの辺にあんの? どうやっていくわけ?」
タケ「キツいっすよねぇ。まずは空港までどうやって行くか、そっからです」
ノン「おぉ、・・だな」
タケ「あ、バイト遅れるんで、じゃ、お先!」
ノン「夢かぁ」
〇渋谷ヒカリエ
渋谷ヒカリエのラジ公スタジオに向かうノンとマイ。
ノン「放送中、ヤバくなったら手ぇあげろ、挙手な 俺が飛び込む合図だから、OK?」
マイ「挙手って、歯医者か」
ノン「とにかく自分と逆キャラでいけ」
ノン「笑顔・元気・カワイイ。これ忘れるな これで誰もお前だとは思わない」
マイ「なにそれ。自分、根暗で病んでてかわいくないってこと?」
ノン「またぁ、クールビューティーは封印しろって言ってんの。お、あれか?」
マイ(話変えんな)
〇ラジオの収録ブース
区長「あ、ノンさん。この前はどうも 今日はマイちゃんの付き添い?」
ノン「こっちで待機させてもらいます (マイに向かって挙手のポーズ)」
区長「皆さん、こんにちは。今日もヒカリエ・ラジ公スタジオから生放送でお届けします」
タケ「店長、始まりました!」
区長「今日は、デジタル社会の今とこれから、というテーマで、マイさんに来て頂きました」
タケ「キター、マイちゃん! 店長、マイちゃんですよ!」
区長「マイさんは今専門学校生ということですが、今日は学校は?」
マイ「今日はオンラインで。あ、ウチらの学校、リアルでもオンラインでも選べるんで」
区長「じゃあ、全国どこに住んでいても通えますね」
区長「マイさんはリアルとオンライン授業、どっちが多いですか?」
マイ「最近はオンラインかな、交通費うくし」
区長「ずっとオンラインだと運動不足になりませんか?」
マイ「動かないとアプリから「動け」ってメッセージくるんで」
区長「そしたらどうするんですか? ウォーキングとかデパートでお買物とか?」
マイ(ウォーキングやデパートって、シニアか?)
マイ「自分、買い物はネットだし・・ そもそも財布ないんで」
区長「アルバイトされてるんですよね お財布ないなら、そのバイト代は?」
マイ「ネット銀行に振り込みです」
区長「貯金なんかは?」
マイ「AIに資産運用させてます」
区長「ご飯は? レンチン?」
マイ「カロリーメイトと青汁。あと、時々サプリ」
区長「栄養偏りません?」
マイ「その辺の弁当とか居酒屋飯より栄養バランスいいんで」
ノン(あ、居酒屋バカにした(挙手))
タケ((店長を気にして)ヤバい・・)
区長「デジタル化されて、不便なことって何かありますか?」
マイ「不便っていうか、サーバーダウンしたりWi-Fiしょぼいとアプリ決済できないし」
マイ「スマホで払ったのに、領収書紙でくるのはナンか違う」
区長「あぁ、なるほど」
タケ「いけ、マイちゃん! あ、店長、すんません・・」
ノン「はい!(スタジオのガラス越しに挙手)」
マイ「スマホで書類作っても、それ印刷してハンコ押して郵送とか、ヘン」
区長「まだシステムが追いついてないですね」
ノン「すいません!(激しく挙手)」
マイ「デジタル化ってスマホだけで全部完結するってことですよね」
区長「そうです。情報を一括管理・共有して、スマホ一台あれば・・」
ノン「すいません!(挙手しながらスタジオに乱入)ちょっといいですか」
区長「え?(慌てて)何?」
タケ「え、これ先輩? 店長、今日、先輩も出る予定だったんすか?」
ノン「スマホできない年寄りはどうすんですか」
区長「区がサポートします」
ノン「ネットいじめで自殺する子もいんだよ」
マイ「訴訟用にイジメの証拠集めといて下さい」
ノン「ゲームやりすぎで破産」
マイ「自己責任」
ノン「スマホっ首の近眼激増中」
区長「健康指導しましょう」
タケ(なんか、バトってんなー)
ノン「そもそも電話代払うの誰だよ! 携帯持たない自由はないんですか」
区長「どうしても無理な人には別途考えます」
ノン「じゃ、俺、どうしてもムリな人です」
マイ「選べばいいじゃん、どっちもありにして」
ノン「あ、お前、今いいこと言った」
区長「誰一人取り残さない社会、誰もが幸せに生きられる社会を・・」
ノン「幸せに生きる? よく言うよ。 男の純な気持ち、もて遊んでんじゃねぇよ!」
区長「何言ってるの?」
ノン「スマホ買ったんだよ、店長、あんたのせぇで。毎月高ぇ金だけ払って」
ノン「スマホに電話かかってきたって出れねぇんだぞ。いいのかよ、そんなんで」
区長「ちょっと、そういうの、ここで言うことじゃないでしょ」
ノン「役所関係のネット申請は全部俺がやってます」
ノン「店長、操作もできねぇし、老眼でパソコンの字もみえねぇから」
ノン「まじめに働いてる人間がネットできなくて、 役所のサービス受けられねぇってダメだろ」
ノン「いいんですか、皆さん、こんなんで」
タケ「これって、店長のことっすか?」
ノン「補助金情報だってネットにしか出てねぇし 申請もパソコンのみ」
ノン「わざとそれ狙ってんのか? パソコンできない年寄りの店は支援しませんってか⁈」
タケ(先輩、ちょっとヤバいっすよ 店長、固まってますって)
マイ(コメント激増、アクセス爆上がり中)
区長って実は男がいたのか?
店長って誰?
この乱入男ナニモノ?
・・・
ノン「自分を一番思ってる男の気持ちもわかんねぇで、何が区長だよ」
ノン「そんなんで区民の心、わかんのか! 俺も区民だぞ、俺の心わかんのか!」
区長「ちょっと止めて、このヒト止めて!」
〇寂れた雑居ビル
少年「ノンさんが店長を思ってる気持ちは伝わってました」
少年「日曜食堂の人たちは店長とノンさんの味方ですから」
ノン「俺、なかなか仕事続かなくてさ」
ノン「昔コンビニでバイトしてた時、廃棄する弁当をホームレスにあげてたのよ」
ノン「そしたらオーナーが激怒してさ。「期限切れは全廃棄だ」って捨てんだよ、全部」
ノン「食べれるよな、まだ」
少年「はい、問題ないです」
ノン「その後はこっそり渡してたんだけど、それがみつかって「首だー!」ってところを」
ノン「「渋谷愛」の店長がたまたま見てて、声かけてくれたんだ」
ノン「店で飯作ってくれて「ここでよければ働かないか」って・・なんか涙出てさ」
少年「いい人ですね」
ノン「俺、一生この人についていこうって思った わかるだろ」
少年「はい、BLとかではないってタケさんに言っておきます」
ノン「あいつ、マジふざけんな! 低レベルの異世界妄想」
少年「マイさんもそう思ってるって、タケさん言ってました」
ノン「あいつら・・ あ、この話は誰も知らないから、マイもタケも」
ノン「お前と俺だけの秘密な、OK?」
少年「OK」
〇渋谷ヒカリエ
それから半年。渋谷は今日も大勢の人が行き交っている。
手紙書くのなんて、人生初かもしれませんが、そっちはどうですか。
チェコで日本の居酒屋が流行るのか疑問ですが、まあ、レオと仲良くやって下さい。
こっちは店長と区長が田舎に引っ越して、渋谷愛も閉めました。
店長には店を続けて欲しいって言われたけど、俺が続けられるわけないし。あの生放送のせいで愛ちゃん立候補やめたんだから。
あ、マイが学祭でまたメイド立ち呑みやったから写真送ります。
本人写真拒否るからトモダチのだけど、アイツもこんな感じだから。
俺は絶賛職探し中です。面接の時はまずこれ確認させてもらってます。
ノン「携帯なくていいですか」
ラジオのスタジオではすったもんだがありつつも、各々がニューホライズンを目指して旅立つラストに感無量。物語を通して一番人生が激変したのがまさかのタケとは…。登場人物のキャラクターがみんな本当に生き生きとしていて読者としても愛着があったので名残惜しいです。最後のノンのセリフ、タイトルと重なってバッチリ決まりましたね。昭和マインドで令和を生き抜く男、ノンの生き様に乾杯!
なくていいです!って声を大にしてノンに言いたいです。マイちゃんがいってた、どちらも選べる状況をつくってこそが、政策というものですよね。電子マネーなんかも反対です!