スクランブル

ろぜんげ

スクランブル(脚本)

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〇空
  『“渋谷”をひとことで表すなら、「交わり」だと思うんだ』
  交差点、電車の中、地下通路。あらゆるところで、様々な形で、いろいろなものが交わる風景が日常茶飯事となった場所。

〇渋谷駅前
  渋谷駅のすぐ先には道玄坂やセンター街。少し歩けば代々木公園。店の種類はひとことで表せないほど多様で多彩。
  あらゆるものが同居し、まるで異世界同士が混ざり合ったマーブル模様に見えてくる。
  ──だからこそ。
  時には、将来や人生さえも、思わぬ形で交わってしまうのかもしれない。

〇ハチ公前
「やぁ。元気だったか?」
「お、お前は・・・・・・」
  目の前にいたのは、死んだはずの親友。
  あれから4年経ったのに、あいつは、記憶に残ったままの姿で僕の前に現れた。

  年月を経てやっと癒えつつあった瘡蓋(かさぶた)を剥がし、記憶を辿る。

〇道玄坂
  忘れもしない、今から4年前の4月。最後の日曜日のこと。
  僕は、一番の親友を亡くした。
  交通事故死、だったそうだ。
  大通りが事故処理のため封鎖され、その日の渋谷はいつにも増して混雑していたことを覚えている。

〇ハチ公前
「どうして、」
  あまりの驚きに、それだけ言うのがやっとだった。
  それを知ってか知らずか、奴はこともなげに言い放った。
「そろそろ約束の時間だ。行くぞ」
  そう言って、さっさと一人歩き出していく。

  ・・・・・・ あいつが死んでからずっと、来る日も来る日も僕はあいつのことばかり考えていた。
  後から聞いたところによると、急に道路に飛び出た人を庇い、乗用車に轢かれたらしい。
  面倒見の良いあいつがやりそうなことだ、と笑ってから、嗚咽が止まらなかった。

〇渋谷駅前
  二人黙ったまま、前へ進んでいく。声もかけるのが憚られるほど、奴の足取りはしっかりと、ずんずん進む。
  一方、僕の足は、徐々に速度を落としていた。

  嫌だ、そっちには行きたくない。
  だけど、あいつから離れるのも嫌だった。
  恐怖を振り切り、置いていかれないよう必死についていく。

〇白
  どこへ向かうかは、なぜかはっきり想像がついた。
「着いた」
  暖かい声が聞こえた。それだけで、自分が安堵しているのがわかった。
  奴が、こっちを振り返る。穏やかな表情を浮かべていた。

〇道玄坂
「──────」
「さぁ、帰ろう」
「帰る? どこに?」
「君なら分かるだろ? 君がいるべき場所に、だよ」
  僕の表情を見てだろうか。ふふっ、と笑ったまま、僕に訊く。
「今は、いつだ? 分かるかい?」
  馬鹿にしてるのか。
「簡単だ」

「平成34年の5月。お前が死んで、ちょうど4年だ」
  その言葉を訊いて、奴の笑顔に影が差す。
「──そう、だね。そうとも言うかもしれないな」
「今は、な。令和4年の5月だ。お前が死んで、ちょうど4年だ」
  ・・・・・・え?
「お前が交差点で事故に遭ってから4年が経つ。元号も変わり、五輪も開催された。駅も、多分お前の知ってる構内とは変わってる」
「──何かが交わったんだ。そう感じて、俺はここに来た」
「交わったのが、”君”と”この世界”なのか、それとも”あの世”と”この世”なのか・・・・・・本当のところは分からないけど」
「とにかく、君を見つけられて良かった。思ったより元気そうで安心したよ」
「──もうじき、俺も”そっち”に行く。だから、先に行って、待っててくれよ」

〇白
「よろしくな。親友」
  最後の台詞が聞こえたときには、周囲は真っ暗になっていた。
  同時に、自分がどこにいるのか分からなくなる。浮いているのか、落ちているのか。自分がどこにいるのか分からなくなる感覚。
  段々と思考が追いついてきた。
  つまるところ、僕は永くて一瞬の夢を見ていたのか。
  時空を超えて最期に得た、奴との時間。その一瞬の交わりが、僕という存在を現実にしてくれた。
  僕は消えても、この街は、また交わる。交わり続ける。
  そうすればいつか、僕も、あいつともう一度交わることができるかもしれない。

〇渋谷駅前
「さよなら。 また会える日を夢見て」
  その呟きが消える頃、僕の意識は空と交わった。

コメント

  • 楽しみながら1日で作れるとは、オリンピック選手が本番を楽しみたいというコメントとかぶって、ただただ、すごいなぁと、その境地に交わってみたい。

  • 最初から最後まで「交わる」というキーワードが活きていて、頭にスッと入ってくる物語でした🥲
    4年と言う長い月日を考えると胸が痛くなりますが、彼がこれから元気に歩んでいけるといいなと思います😌

  • 一瞬ホラー…!?と身構えましたが温かい終わり方で安心しました。自分にとって何度でも出会いたい人や忘れられない出会いについて思い出しました。
    渋谷を舞台にお話を考えたときにこういう作品を思いつくこと自体に感動しています。発想の方向性が素敵です。

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