〇体育館の外

〇体育館の舞台
司会「ただいまより」
司会「第65回、東京美術大学卒業式を行います」
司会「卒業生代表答辞」
司会「美術学部絵画科油絵専攻」
司会「長江宗太」
長江 宗太「はい」
長江 宗太（あれから４年が経った）
長江 宗太（俺は美大を首席で卒業した）

〇大学
「宗太、この後打ち上げ行く？」
長江 宗太「あー、いや俺は・・・」
「宗太が飲み会行くわけねぇじゃん」
「どうせアトリエだろ」
長江 宗太「悪いな」
「ホントにお前は美術バカだな」
長江 宗太「ちょっと仕上げなきゃいけない絵があってさ」

〇美術室
長江 宗太「来てたのか、裕也」
阿部裕也「卒業おめでとう、宗太」
長江 宗太「お前こそ、絵本の出版決まったんだろ」
長江 宗太「おめでとう」
阿部裕也「この絵、いいね」

〇水中

〇美術室
長江 宗太「この後、最後の仕上げをしてくる」
阿部裕也「まだ完成じゃないの？」
長江 宗太「女の顔、のっぺらぼうだろ」
長江 宗太「本人の顔見ながら描きたいんだよ」
阿部裕也「ああ、この絵のモデルになったっていう・・・」
長江 宗太「もうしばらく会えなくなるからな」
阿部裕也「絵本出来たら送るから、向こうでの住所教えてよ」
長江 宗太「おう、頼む」
阿部裕也「ふふふ、小学生の時みたいに破いたらダメだよ」
長江 宗太「・・・反省してます」

〇綺麗な病室
金子 百合子「じゃあ、もう来週にはフランスに？」
長江 宗太「はい、なのでここに来るのも今日が最後になりそうです」
金子 百合子「フランスは美術をやるにはきっといい環境よね」
長江 宗太「向こうでもたくさん描きます」
金子 百合子「病院側には許可取ってあるから」
金子 百合子「朝までいて大丈夫よ」
長江 宗太「ありがとうございます」
長江 宗太「じっくり描き上げたかったので、助かります」
金子 百合子「・・・この子」
金子 百合子「心音が弱ってるみたいなの」
長江 宗太「え」
金子 百合子「ずいぶん頑張ってきたけど、もうダメかもって先生が」
長江 宗太「そんな・・・」
金子 百合子「ちゃんと、お別れしてあげてね」

〇綺麗な病室
長江 宗太「すごいだろ」
長江 宗太「俺が卒業生代表の挨拶って」
長江 宗太「４年前には考えらんなかったろ」
金子 蘭「・・・・・・」
長江 宗太「４年間病室に通いながら描いてきたけど」
長江 宗太「この絵も今日で完成だ」
金子 蘭「・・・・・・」
長江 宗太「顔を最後に残したのは、恥ずかしかったからなんだよ」
長江 宗太「金子の顔じっと見なきゃなんないだろ」
金子 蘭「・・・・・・」
長江 宗太「でも、よく見とくようにする」
金子 蘭「・・・・・・」
長江 宗太「もう会えないかもしれないから・・・」
長江 宗太「よく見て描くよ」

〇水中
長江 宗太「あれ」
長江 宗太「ここって・・・」
金子 蘭「よっ」
長江 宗太「うわっ、金子！」
長江 宗太「なんだ夢か」
金子 蘭「ちょっと、気づくの早すぎるでしょ」
長江 宗太「だってお前ずっと寝てんじゃん」

〇綺麗な病室

〇水中
金子 蘭「４年間ね」
長江 宗太「毎日通って絵を描いてたんだぞ」
金子 蘭「ずーっと人のことじろじろなめまわすように見て」
長江 宗太「人聞き悪いな」
金子 蘭「ありがとう」
長江 宗太「ええっ！」
金子 蘭「なによ」
長江 宗太「金子が、礼を言った・・・」
金子 蘭「私のことなんだと思ってんの」
長江 宗太「ずっと怒られてた記憶しかない」

〇綺麗な港町
金子 蘭「卒業したらフランスだっけ？」
金子 蘭「まったく優雅なもんよね」
長江 宗太「お前の代わりに行ってきてやる」
金子 蘭「え」
長江 宗太「ヨーロッパはフリーダイビングが盛んなんだろ」
長江 宗太「俺が先に行って見てきてやるよ」
金子 蘭「それでフランス？ 呆れた」
長江 宗太「ついでに海の絵も描いてくるから」
長江 宗太「病室を海の絵で埋め尽くしてやる」
金子 蘭「邪魔くさい」

〇保健室
長江 宗太「お前のせいだからな」
長江 宗太「あんなに絵を描けって言うから」
金子 蘭「なにそれ、言いがかりじゃないの」
長江 宗太「ホントに」