読切(脚本)
〇スペイン坂
浜瀬ミナミ「なんか、帰りたくない」
鳴沢次郎「わがまま言わないでよ」
突然、辺りが明るく光った。
それはカメラのフラッシュだった。
石田「お二人さん、仲がいいね」
浜瀬ミナミ「きゃっ!」
鳴沢次郎「お前、記者か」
石田「大スクープだ。新婚の若手イケメン俳優が、人気グラビアアイドルと不倫」
鳴沢次郎「人のプライベートさらして、何が楽しいんだ」
石田「人気者は需要があるんだよ。みんな憂さ晴らしの種を探してるんだ。 それに、不倫はよくないことだろ。 間違いは自ら償わないと」
鳴沢次郎「だったら、お前だってそうだろ」
石田「ま、来週をお楽しみに」
石田は、去って行った。
〇汚い一人部屋
石田「あーあ」
翌週、芸能ニュースは、あの二人の話題で持ち切りだった。
石田「自業自得だな。 さてと、ネタでも探しに行くか」
石田は家を出た。
〇渋谷駅前
石田が歩いていると、見知らぬ女子高生がよって来た。
女子高生「あの、サインください」
石田「はい?」
女子高生「ダメですか?」
石田「いや、いいけど」
石田は、書き慣れないサインをした。
女子高生「ありがとうございます」
嬉しそうに去って行った。
石田「なんなんだ」
だがそれ以来、不思議なことが続く。やたら、サインや写真を求められる。
理由は分からないが、別に嫌な気分はしなかった。
だが、しばらくすると、状況は変わり始める。石田を批判する人たちが出てきたのだ。
やがて、プライベートなことまでがネット上にさらされ出した。
石田「いったい誰の仕業なんだ」
石田は、ある記事を載せた会社に向かった。
〇応接スペース
石田「何でこんなプライベートな記事を載せたんだ」
担当の人「そう言われましても、読者の方が見たい情報を提供するのが私どもの使命でして」
石田「記事を書いたのは、どいつだ」
担当の人「うちの記者じゃありません。 フリーのライターです。 たまに来るだけで、普段は知らないですが」
石田は胸ぐらをつかんだ。
石田「そんなことで許されるか」
担当の人「わ、わかりました。住所なら分かりますから」
石田は住所を聞いて、後にした。
〇マンションの共用廊下
石田「ここか」
インターフォンを押したが反応はない。
石田「いないか」
帰ろうとすると、男が階段を上がってきた。
一瞬の沈黙があり、男が逃げた。
石田「待て」
石田は追いかける。
〇屋上の端(看板無し)
石田「もう逃げられないぞ」
男は屋上の縁に立った。
石田「おい、何やってるんだ」
屋上の縁に立った男は、
ゆっくりふり向いく。
石田は驚いた。
石田「お前は」
男は、自分にそっくりだったからだ。
石田「何するんだ、やめろ」
男は、そのままゆっくり後ろに倒れていく。そして、体が宙に浮いた。
石田は落ちて行きながら、記憶を辿った。
そうだ、思い出した。
俺だ。あの記事を書いたのは、俺だったんだ。
だったら、お前だってそうだろ。
あいつの言葉が頭の中に甦る。
間違いは自ら償わないと。
数秒後、石田は地面とぶつかった。
こんなに短いストーリーの中に作者投げかけた何かこちらによく伝わったのが、読後の爽快感でした。倫理、秩序、この世の中は色々なものが欠如し続けていますね。
「人様の悪事を暴く」という「自分の悪事」に足をすくわれた男の哀れな末路ですね。ミイラ取りがミイラになる落とし穴は、これを読んでいる読者の横にもポッカリと口を開けているんじゃないかとヒヤッとさせられました。