体重計に文句言うデブ -Europa-

ラム25

エウロパにて(脚本)

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〇壁
  あるところにデブがいました。
  身体中の至る所についた贅肉は彼の自堕落な生活の産物です。
  デブは、ふと体重計に乗ると、たちまち顔を真っ赤にし、叫びます。
デブ「俺が130kgのわけがねぇ! この体重計壊れてやがる!」
  果たして壊れているのは体重計なのか・・・
  これはそんなデブのような物語である。

〇宇宙船の部屋
  今は東暦213年。西暦に直すと2513年。
  人々は月や火星へ進出し、やがて大量の水が存在する木星の衛星エウロパに関心を寄せた。
  生命の存在、それと新たな移住先に期待して人々は今まさにエウロパへ進出しようとしている。
リョウ「エウロパか・・・しかしもし宇宙人がいるとしてあんな挨拶でいいのだろうか・・・」
リョウ「知能を持ってるとも限らんが初の異文化交流なんてそんな物だろうか・・・」
  その挨拶は、手のひら大サイズのマイクロコンピュータのホログラム映像から流れる地球の文明を見せるというもの。
リョウ「まあいい。そろそろ着くし調査の準備をしなければ」

〇海岸の岩場
リョウ「海・・・? やはり人型の生命体はいないか・・・」
ユーリア「そこの方」
リョウ「!? なぜ日本語で?」
ユーリア「戸惑わせたならすみません。 私はユーリア。 あなたの心に直接話しかけています」
  脳内に直接アクセス出来るというのか・・・!
  知能は? 敵意は? 戦闘力は?
  リョウはマイクロコンピューターと繋がっている、コンタクトレンズに移るモニターに計算式を表示し、高速で分析を試みる。
ユーリア「あなたも私に伝えたいことがあったら頭に浮かべてください。それを汲み取ります」
  ユーリアの言うことなど当てにならない、コンピューターの分析が先だ。
  どうやら敵意はないとコンピューターは判断し、モニターに緑色で安全と浮かぶ。
  リョウはホログラムを見せる。
リョウ「これは我が星の文明です、素晴らしいでしょう」
  そこに移るのは空を飛び交う車。
  ロボットが代わりに労働をしている横で、豪勢な料理を食べる人々。
  人間は食事が終わるとベッドに横たわり、ロボットにマッサージさせている。
リョウ「どうです?我が星の文明は」
ユーリア「一瞬、太い棒に緑色の何かが覆い被さっているのが見えましたがあれはなんですか?」
リョウ「あぁ、あれは木ですよ。取るに足らない生命です。 それより我々の文明、気に入って頂けましたか?」
ユーリア「その木はとても気に入りました。この世のものとは思えない美しさだった・・・」
  木? あれが素晴らしいというのか? 我々の文明より?
  この女は感性が死んでいる。
  気の毒に・・・
リョウ「この星も我々の星に何らかのメリットをもたらしてくれるなら我々の素晴らしい文明を共有致しますが」
  リョウはすっかり見下し、高圧的な態度を取るようになった。
ユーリア「いえ、いりません。木はこの星では育たないでしょうし」
  まだ木がどうこう言うのか。あまりに文明のレベルが低すぎて素晴らしさが理解できなかったのかもしれない。
  リョウが次に考えたのはこの星の利用だった。労働力はロボットがあるから十分だが、それは地球内のみ。
  これから外の惑星へ進出するにあたって不足が懸念される。
  つまりこいつらを飼い慣らし、繁殖させ、服従させたい。
ユーリア「あなたは、何故そこまで対外進出に躍起になっているのですか?」
  あぁ、そういえばこいつは思考が読めるんだった、面倒臭い。
リョウ「決まってるでしょう、我が星の文明を伝えるため、そしてより発展させるためです」
ユーリア「おもちゃが代わりに労働しているくらいで満足してる文明が?」
  それを聞き耳を疑う。おもちゃ? 我々の偉大な成果が?
ユーリア「星の豊かさが個人の豊かさに繋がるとは限りません。木・・・素晴らしい生命に感動する心がない時点でその精神性の飢えが見えます」
ユーリア「あなたたちは驕っているだけです」
リョウ「ふ、ふざけるな!」
  リョウはたまらずユーリアに殴りかかるも、空振りする。
  実体がなかった。
ユーリア「私達は水中に住んでおり、陸地にバーチャルアバターを送る仮想生活をしています」
  それは今の地球でも到底実現不可能な技術だった。
ユーリア「はっきり言ってあなた方の星の文明は私が見てきた中でも最低レベルです」
  そう言えばユーリアは異星人と出会ったと言うのに落ち着き払っていた。
  慣れているのだろう。
  リョウはエウロパを、ユーリアを低レベルな劣った存在だと見下していたが、実際に劣っているのは自分だった。
ユーリア「ただ、木は素晴らしいので大切になさる事をオススメします」
リョウ「なあ、俺たちが欠けてるのはなんなんだ?」
ユーリア「心の豊かさ、でしょう。 多くの異星人と関わり、それを満たすといいでしょう」

〇並木道
  それからユーリアの紹介で、地球には地球外生命が来るようになった。
  彼らは皆素晴らしい文明を持っていた。
  どんな病気も一瞬で治す薬、壊れたものを時間を戻して直す装置など。
  しかしそれ以上に素晴らしいのは、彼らの誰かのために文明を役立てるという精神の豊かさだった。
ユーリア「木、増えましたね。地球は素晴らしい星です」
リョウ「あなたのおかげです。我々は素直さや謙虚さまでも失っていました」
  人間は驕り高ぶっていたが、ここから本当の意味で成長する。

〇壁
  あるところに、デブがいました。
  デブは体重計に文句を言うも、誰か優しい人に言われました。
「体重計は間違っていない、間違っているのは君だよ」
デブ「そうか、俺は間違えていたのか・・・ ならダイエットしないとな」
  それからデブは素直に自分の過ちを認め、自分の体重と向き合い、少しだけスリムになりました。

コメント

  • デブへの鋭い指摘と、何とも豊かな内容のサイドストーリーの取り合わせがクセになりそうです!そういえば、我が家の体重計も壊れたと思っていたのですが…←反省中

  • 素晴らしいデブの物語をありがとうございました☺️
    やはりデブを語るうえで宇宙の存在は欠かせませんね、その重量が惑星の重力へ与える影響も無視できないですからね
    久しぶりに家系ラーメンが食べたくなりました🤤

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