異世界から転移してきた勇者、渋谷の街を観光する。

絢郷水沙

勇者は街を観察する。(脚本)

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〇渋谷のスクランブル交差点
  俺の名はアレックス・シブヤー。勇者だ。気がつくと、俺は知らない街の中にいた。
アレックス・シブヤー「ここは・・・どこだ?」
  見たこともない高い建物。ものすごい速さで動く金属の乗り物。
アレックス・シブヤー「敵の転移魔法か・・・」
アレックス・シブヤー(さて、どうしたものか・・・)
アレックス・シブヤー「そこの者!」
「・・・」
アレックス・シブヤー「なあ、そこの君!」
「・・・」
アレックス・シブヤー「誰か、返事してくれ!!」
「・・・」
アレックス・シブヤー(くそッ! 誰も反応しない。なんだこの街の人間は・・・)
渋谷のチャラ男「おにーさん」
  突然、誰かが話しかけてきた。
アレックス・シブヤー「な、なんだ!」
渋谷のチャラ男「いやー俺ここら辺に住んでるんスけど、すげーっすねその格好。なんかのコスプレっスか?」
アレックス・シブヤー「コ、コス・・・?」
渋谷のチャラ男「おにーさん観光客っしょ。どっスか俺この街の事、結構詳しいんで、よかったら一緒に遊びませんか?」
アレックス・シブヤー(なんだこいつは)
  俺は一瞬、この男を敵の刺客だと思った。が、どうもそのようには見えない。
  街を案内してくれるというのは、俺にとっては好都合だった。
アレックス・シブヤー「わかった。頼む。案内してくれ」
渋谷のチャラ男「そうこなくちゃね」
  俺はこの男について行くことにした。

〇ハチ公前
渋谷のチャラ男「まずは渋谷と言えばここっしょ!」
アレックス・シブヤー(シブヤ・・・この街の名か? それにしても人の数が多い)
  ──ドンッ──
アレックス・シブヤー「おい! 貴様、人にぶつかって置いてどこへ行く!」
街の人「・・・」
アレックス・シブヤー「なんなんだまったく」
渋谷のチャラ男「まあ、人多いっすからね・・・」
渋谷のチャラ男「ところで見てくださいっスよ」
アレックス・シブヤー「なんだこの犬の像は?」
渋谷のチャラ男「これは忠犬ハチ公つって、主人の帰りをずっと待ちつづけた健気な犬なんすよ」
アレックス・シブヤー「ふん・・・」
渋谷のチャラ男「主人が死んで十年経っても待ち続けたらしいっすよ」
アレックス・シブヤー「なに!?」
  なんと忠義に厚き犬か。
アレックス・シブヤー「だからこんなにも人が集まるのか・・・」
アレックス・シブヤー「ご立派!」

〇センター街
渋谷のチャラ男「おにーさん腹減ってません? どっすか、ここらでタピらないっスか?」
アレックス・シブヤー「タピるとはなんだ?」
渋谷のチャラ男「えー知らないんスか? じゃあちょっと待っててくださいっス」
  そういうと男はどこかへと走っていった。
渋谷のチャラ男「お待たせっスーっ!」
渋谷のチャラ男「はいこれが、俺のおすすめの店のタピオカミルクティー」
アレックス・シブヤー「なんだこの泥水に沈む黒い粒は・・・」
渋谷のチャラ男「ははは、やだなぁ。これがミルクティーで中の粒がタピオカっすよ。美味しいんスよ」
  男は自分の分を啜ってみせた。俺は、半信半疑、飲んでみることにした。
アレックス・シブヤー「な、なんだこの美味さは!」
アレックス・シブヤー「甘く濃厚、そして良い香りが鼻を抜ける! そして何よりこのモチモチとした弾力! 美味い!」
渋谷のチャラ男「いやー、気に入ってもらって嬉しいっスわ」
アレックス・シブヤー「こんなに美味いものがこの世にあったとは・・・」
アレックス・シブヤー「礼を言う。ありがとう」
渋谷のチャラ男「ははは。こちらこそ。じゃあ飲み終わったみたいなんで、ゴミ捨ててくるっスね」

〇SHIBUYA SKY
渋谷のチャラ男「見てくださいよ。この渋谷スカイの展望台から見える景色。ちょー綺麗っしょ」
アレックス・シブヤー「ああ、確かにな」
  その後色々な所を巡り、気づけばもう夕方になっていた。
渋谷のチャラ男「どっすかお兄さん。渋谷で一日遊んでみた感想は」
アレックス・シブヤー「実に楽しかったぞ」
アレックス・シブヤー「皆に慕われる犬の像、美味い飲み物、壮大な景色。俺の元いた世界とは大違いだ」
アレックス・シブヤー「改めて礼を言う。ありがとう」
渋谷のチャラ男「へへ、どうもっス」
渋谷のチャラ男「実は俺、夢があるんスよ」
アレックス・シブヤー「なんだ」
渋谷のチャラ男「渋谷を世界で一番の街にすることっス」
渋谷のチャラ男「そのためには多くの人に渋谷の魅力を伝えて行きたいんス」
渋谷のチャラ男「どっすかね・・・」
アレックス・シブヤー「無理だな」
渋谷のチャラ男「はあ!?」
渋谷のチャラ男「え、ちょ、おにーさんあんなに褒めてくれたじゃないっスか」
渋谷のチャラ男「どうして・・・」
アレックス・シブヤー「確かに素晴らしい街だった」
アレックス・シブヤー「だが何もかもが多すぎる」
アレックス・シブヤー「人。食べ物。建物。乗り物。何もかもが必要以上にある」
アレックス・シブヤー「それに比べて草木や鳥の数は異常に少ない。俺の元いた所とは比べ物にならないほどに」
アレックス・シブヤー「それに一度使っただけで捨ててしまったコップ。あれは何故捨ててしまった。まだ使えたはずだ」
渋谷のチャラ男「それは・・・」
アレックス・シブヤー「豊かなのはいい。だが、豊かさは時に人の心を貧しくさせる」
渋谷のチャラ男「そんな・・・」
アレックス・シブヤー「だがな──」
  俺はこの男の目をしかと見て言った。
アレックス・シブヤー「お前なら、変えられるかもしれない」
渋谷のチャラ男「え?」
渋谷のチャラ男「いや、さっき無理って言ったじゃないっスか」
アレックス・シブヤー「ああ、確かに言った」
アレックス・シブヤー「だがそれは「お前一人でなら」という話だ」
アレックス・シブヤー「街は多くの人が集まって出来ている。お前一人何かしたところで出来ることなど限られている」
アレックス・シブヤー「人と人の繋がりが街をつくるんだ」
  街を魔族から守って来た俺だからこそ痛いほどわかる。人々の笑顔無くして街は決して豊かにはならないことを
アレックス・シブヤー「この街は物で溢れた反面、心が貧しくなっていると俺は感じた」
アレックス・シブヤー「もしもこのままなら、世界一には到底なれない」
アレックス・シブヤー「だが俺は思う。お前なら人々を変えられると。この街で困っている時、お前だけが話しかけてくれた」
アレックス・シブヤー「お前が街の皆を変え、皆で協力して目指すんだ。そうすればなれるかもしれない。世界一の街に」
  男は少しの間、黙ってしまった。異世界人の俺の言葉に気を悪くしたのかもしれない。
アレックス・シブヤー(それならそれで仕方ない。俺は正直に言ったまでだ)
  すると──
渋谷のチャラ男「ありがとうございます!!」
渋谷のチャラ男「俺、そんなこと言われたの初めてだったんで正直戸惑ったんスけど、でもおにーさんの言う通りだなって・・・」
渋谷のチャラ男「今はまだ何をすればいいかよくわかんないスけど、でも俺、決めました」
渋谷のチャラ男「街の中だけじゃない、人の心も豊かにするような渋谷を作るって」
アレックス・シブヤー「そうか・・・頑張れよ」
アレックス・シブヤー「名乗ってなかったな、俺の名はアレックス・シブヤーだ」
渋谷のチャラ男「俺の名前も渋谷アレックスって言います・・・」
アレックス・シブヤー「なるほど・・・この世界でお前に出会ったのは運命だったのかもな」

コメント

  • む、これって噂のBLか、とか、ぐへへ…とかばかり想像する腹黒い私。渋谷は、色んな世界を引き寄せる引力があるのだと、思わせる街なんですね。

  • チャラい男性最後は何かあるのでは…?
    とハラハラしながら読んでいたのですが
    普通に良い方で疑ってごめんねとなりました😂笑
    確かに知らない方からしたらタピオカはなんだこれって
    思うかもしれません🤔笑

  • 所々クスッと笑えるところがあって、面白かったです!
    特にタピオカミルクティーのくだりは、個人的に笑いましたw

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