ORESTORYのPROLOGUE(脚本)
〇児童養護施設
『では次のページをクリックして下さい』
〇説明会場
『ネット販売で重要な事はいかにディスプレイ上の画像に実存感を持たせるかです』
茂木「・・・」
『サービスの方法論はこれまで通り思って構いませんが、お客様がパソコンの向こうにいる事を考え丁寧な対応を心掛けて下さい』
〇ホテルの駐車場
秋山「う~い。お疲れ~」
茂木「お疲れ」
秋山「今日こそは付き合ってもらうぜ」
茂木「どこに?」
秋山「決まってるだろ」
秋山「はあああああッ!」
茂木「二度と来ない田舎町だからって、よくそこまで自分を捨てられるな」
秋山「お前こそ研修所とホテルの往復だから腐っちまうんだよ」
茂木「腐ってなんて・・・」
秋山「腐ってるわー」
秋山「顔、Z(ゾンビ)ってるわー」
茂木「遊ぶなら一人で遊びゃいいだろ」
秋山「当て馬がいないと寂しいじゃないか!」
秋山「大学時代から君はずっと僕の引き立て役」
秋山「それが僕より先に結婚するとは何たる事」
秋山「職場放棄も甚だしい」
秋山「役者なら最後まで役を全うしたまえ!」
茂木「お前無茶苦茶言ってるな!」
秋山「君がいないと、僕の顔面偏差値が下がっちゃうじゃないか~引き立ててくれよ~傍に座ってるだけでいいんだよ~」
茂木「知るか!」
茂木「・・・」
〇菜の花畑
〇ホテルの駐車場
茂木「・・・」
秋山「恐怖!着信ナシ!」
茂木「み、見るなよ。人のスマホ!」
茂木「人としてよくないぞ、そういうの!」
秋山「わ、悪かったよ。そんなに怒るなよ」
秋山「でもまあ、主婦だって暇じゃないって事だ」
秋山「長い結婚生活になるんだ。お互い羽伸ばし合うのも大事だぞ」
秋山「まあ俺、独身だけどな!」
茂木「・・・」
〇狭い裏通り
〇スナック
「~♪」
MINA「ねえ、アッキー。もっと歌って~」
秋山「休憩、5分休憩ね」
茂木「・・・」
YOSHIKO「可愛い。奥さんですか?」
茂木「はい」
茂木「あ、すみません。こういう場所で・・・」
YOSHIKO「いえ、私も。気のきいた話できなくて」
茂木「いえいえ・・・」
「・・・」
茂木「は、初めてでしたっけ?夜のお仕事」
YOSHIKO「はい」
YOSHIKO「もう見るからに素人って感じでしょ?」
YOSHIKO「年も年だし・・・」
茂木「いえいえ。そこがまた、いいんじゃないでしょうかね」
茂木「あ、すいません。ぜ、全然お若いですよ」
YOSHIKO「ふふ。冗談もおっしゃるんですね」
YOSHIKO「どうぞ」
茂木「どうも」
「・・・」
YOSHIKO「でもこんな田舎の町でネット販売の研修所があるなんて面白いですね」
茂木「まあ、やってる方はたいして面白くないですけど」
YOSHIKO「茂木さんって、営業って感じじゃないですよね」
茂木「は?」
YOSHIKO「あ、いい意味でですよ」
YOSHIKO「いい意味で素朴って感じ」
茂木「今はガソリンスタンド経営も、こういう事やんなきゃいけない時代なんですよ」
茂木「ネットネットで、うんざりです」
YOSHIKO「頑張って下さい」
「・・・」
YOSHIKO「ごめんなさいね。こんなオバサンが相手で」
YOSHIKO「もうすぐしたら若い子が出勤するんで」
茂木「いえ。変わらないでいいですよ」
YOSHIKO「え?」
茂木「落ち着くんで、この席」
YOSHIKO「・・・ありがとう。嬉しい」
「・・・」
〇大きいマンション
〇本棚のある部屋
茂木「・・・」
〇綺麗なダイニング
茂木「・・・」
茂木「・・・」
茂木「・・・!」
茂木「・・・」
〇本棚のある部屋
茂木「もしもし・・・」
茂木「あ、うん。電話した」
茂木「いや別に何もないけど。そっちはどう?」
茂木「そう。ならいい」
茂木「あ、お土産何がいい?」
茂木「うん」
茂木「うん」
茂木「分かったよ」
茂木「じゃあ」
〇モヤモヤ
茂木「テニスサークル、頑張ってね」
〇本棚のある部屋
茂木「・・・」
茂木「・・・クソ女」
〇明るい廊下
秋山「え~なんで~?」
秋山「もしかしてホームシック~?」
秋山「そんなに童顔の奥さんが恋しいのか?」
茂木「いや別にそういうわけじゃないけど・・・」
秋山「だったら、この田舎の空気を楽しもうぜ」
秋山「一期一会、来週にはサヨナラなんだから」
茂木「一人身は気楽だな」
秋山「まあ、そうだな。お前が俺と同じ事したらいかんでしょう」
茂木「え?もうそこまで行ったの?」
茂木「ミーナちゃん。だっけ?」
秋山「ちょっかい出すなよ。もう、予約済みだからな」
茂木「はいはい」
〇児童養護施設
秋山「悪い!今日パス!」
秋山「ボクちゃん、今夜ミーナちゃんとサシなのだ!」
秋山「同伴だと思ってるだろう?」
秋山「否!」
秋山「・・・お」
秋山「ミーナちゃんからだ」
秋山「はーい。今から行きますよー」
秋山「(≧▽≦)」
秋山「というわけでサラバじゃ」
茂木「・・・」
茂木「いいな。いつも幸せそうで・・・」
〇狭い裏通り
茂木「・・・」
茂木「何やってんだろ、俺・・・」
『茂木さん?』
茂木「・・・あ」
〇スナック
YOSHIKO「手酌でごめんなさいね」
茂木「いえ。開店前に来たのはこっちなんで」
茂木「気にせず準備してて下さい」
茂木「・・・」
YOSHIKO「何かありました?」
茂木「え?」
YOSHIKO「思いつめてる顔してますよ。研修のお勉強が捗らないとか、ですか?」
茂木「ははは。そんなんじゃ・・・」
茂木「・・・」
YOSHIKO「・・・」
茂木「・・・妻に」
茂木「妻に裏切られました」
YOSHIKO「・・・え?」
茂木「でもそれを確かめるため、僕は妻を裏切りました」
〇綺麗なダイニング
茂木「・・・」
〇訓練場内
〇シックなバー
〇菜の花畑
〇綺麗なダイニング
『覗き見たスマホに映ってたのは』
〇スナック
茂木「・・・」
茂木「映ってたのは・・・」
YOSHIKO「・・・」
茂木「どうなるんだろ。これから」
茂木「俺はこれから・・・」
YOSHIKO「・・・」
YOSHIKO「あなたは悪くないです」
YOSHIKO「奥様が不用心なだけ」
茂木「不用心・・・か」
YOSHIKO「不用心ですよ」
YOSHIKO「だってそんな画像消しもしないでわざわざ茂木さんの手の届く場所に置いてたりして」
YOSHIKO「まるで茂木さんに見てほしかったみたい」
茂木「・・・え?」
YOSHIKO「なんてね。そんなわけないですよね」
YOSHIKO「ごめんなさい」
茂木「・・・いえ」
茂木「今のあなたの言葉で目が覚めましたよ」
YOSHIKO「・・・そうですか」
茂木「ありがとう」
YOSHIKO「大丈夫」
茂木「え?」
YOSHIKO「これからきっと幸せになる」
YOSHIKO?「あなたの人生はきっと、幸せになるわ」
茂木「ヨシコ・・・さん」
YOSHIKO?「乾杯」
茂木「・・・乾杯」
秋山?「サ~セン。やっぱ同伴でした~」
MINA?「当り前でしょ~」
秋山?「でも、そんなミーナにアイラブユー!」
秋山?「お、どうした茂木。今日は楽しそうだな」
秋山?「『俺が主役』って顔してるぜ」
YOSHIKO?「そうよ。笑って、茂木さん」
茂木「ああ・・・そうだな」
茂木「気のいい仲間」
茂木「素敵な出会い」
茂木「これは俺の人生」
茂木「俺の物語」
〇菜の花畑
『クソ女なんて、もうどうでもいい』
〇スナック
茂木「ここからが俺の人生」
茂木「俺の物語」
茂木?「そうだろう?」
ORESTORYのPROLOGUE
妻の不貞は夫のそれより罪が重いと言われがちですが、彼女が無用心でいたのはきっと茂木さんにもそれなりに落ち度があったのではと思いました。お互いに歪みあって前に進むより、きっぱりとした決断も人生には必要ですね。
茂木とYOSHIKOがシルエットである理由が気になっていたら、「幸せになる」という言葉をきっかけに鮮やかに反転する両カップルの容姿に驚愕。自分に自信を持てず人を羨み恨む人生から、自分の物語の主人公として生き始める決意をした茂木。その瞬間から目に映る全てのもが反転して見えるという心象風景の表現手法に脱帽です。不思議なカタルシスが得られる不思議な味わいのストーリーでした。