誠実な人になりたくて(脚本)
〇新橋駅前
裕那「今日はどんな人にお客さんに出逢えるかな」
前日まで雨が続いていた為、この日は3日ぶりの仕事
裕那は多くの人と出逢いたく、毎日場所を変え仕事をしていた
〇新橋駅前
三島「テメェ、もういっぺん言ってみろ」
急な大声にビックリしたが、裕那は何がおこっているのかを、こっそり隠れて見ることにした
清水「仕方ねぇだろ、もう十年もやってんのに、全然テレビにも出れねぇし、アルバイトをしねぇと生活もできねぇんだから」
三島「だからってここまで頑張ってきて解散かよ。それこそ今さらサラリーマンなんて出来ねぇよ」
どうやら二人は芸人のようだが、伸び悩んでいて、解散しようとしているようだった
三島「俺は絶対、解散なんてしねぇ」
清水「俺だって本当は解散なんてしたくねぇよ。でもよ、彼女の父親から言われちまったんだよ」
清水「いつまでも遊びみたいな事なんてしてないで、真面目に働けって」
三島「ふざけんなよ、俺ら遊びでなんてやってねぇ、真剣にやってるじゃねぇか。おまえ、それで何も言い返さなかったのかよ」
〇新橋駅前
清水「言えねぇよ。俺の彼女、父子家庭で育ったから。その父親から言われたら、言い返せねぇよ」
二人とも黙ってしまった。おそらく思いは同じなのに、抱えている背景の違いから意見が食い違い、口論になってしまったようだった
裕那「あのーすみません。ちょっといいですか」
気まずい雰囲気なのは理解していたが、つい割って入ってしまった
裕那「私は似顔絵師の裕那と言います。この子はペルー、おとなしいから大丈夫です」
裕那「本当は声をかけるのは、ちょっと怖かったんだけど。こっそりお話を聞いていたら、似顔絵師の私とも少し似ている悩みかと思って」
〇新橋駅前
三島「いやー恥ずかしいところを。実は俺たち「アブラゼミ生産工場」っていう名前でお笑い芸人をやっていて」
三島「俺の名前は三島、相方の名前は清水です」
清水「ども、なんかスミマセン」
裕那「いえ、いいんです。私こそいきなりスミマセンでした」
三島と清水から、ビリついた雰囲気は消え、少し雰囲気は和んできた
三島「さっきはごめんな清水。おまえと彼女やその父親のことまで知らなくて、ついカッとなってしまって」
清水「いや、いいんだ。俺だって同じ思いだから。ただ、俺の彼女は本当に良い人で」
清水「こんなに売れていないのに、ずっと一緒にいてくれた人だから、自分が幸せにしたいって思って」
清水「これまでは、売れればお金もたくさん儲けて、彼女を裕福に出来ると思っていたんだけど。それが出来ない状態が続いていて」
裕那「私も生活は裕福ではないかな。でも一人だからか、あんまり悩まないかなぁ。あっ一人じゃなくて、ペルーもいるけど」
裕那は何かを考えついた
裕那「ねぇ、私にネタ見せて。かわりに私は二人をテーマにした絵を描くから」
二人は軽く笑いながら、提案を受け入れた
〇新橋駅前
三島「どうも〜アブラゼミ生産工場の三島でぇす」
清水「清水でぇす。宜しくお願い致します」
三島「あのさーちょっとこの場で話し合いたい事があるんだけど」
清水「この場になる前に話せよ。今漫才の舞台に立ってるんだぜ。コンビニの仕事で例えたら、レジ打ちの時くらい大事な場面なんだから」
三島「いや、コンビニにとって一番大事な場面は発注だよ。それこそコンビニ仕事の美学だろー」
清水「知らねーよ、コンビニの美学なんて。例えた俺が悪いっていうなら後でちゃんと謝るよ」
三島「じゃあとりあえず今1回謝ってくれ。そうしたら次に進もう」
清水「お前がこの場で相談があるって言ったんだろう。今本番なんだから話を進めようぜ」
三島「でもせっかく謝ってくれるんなら、素直に受け止めたいじゃん。まずは」
清水「チッ、うぜー」
清水「ごめんなマジで。では、」
三島「では・・・って」
清水「いや、謝ったんだから本題に入れよ」
三島「そうだった。コンビニの美学の話だけど」
清水「いや、その前の相談話」
三島「あっそっちか。この場で話し合いたい事だったっけ」
三島「あのさー好きな人には告白されたい派、それとも告白したい派」
清水「それもこの場で話し合う事ではないよなぁ。お前は大丈夫なの、人前でそんな話をして」
三島「いや、俺は聴く側だから」
清水「俺、話す側になる気ないんだよね」
三島「何で」
清水「いや、俺からも「何で」を送りたい。お前に」
三島「うーん、じゃあ、俺からの「何で」は 少し切ない感じにしてみるよ」
清水「じゃあ俺からの「何で」は、怒りを込めてのもので!」
三島「切なさと怒りかぁ。ロックだな」
清水「お前への怒り、それと漫才の話が進まない怒り。確かにロックかも。もしくはパンクかな」
三島「いいねぇ、俺らロック&パンクじゃん」
清水「俺はお前への怒りオンリーなんだけど」
三島「OK、受け止めるよ、お前からのオンリーラブ。そしてお前に伝えたい」
三島「コンビニの美学を」
清水「告白したい派か、されたい派かの話を進めろよ」
三島「レシートは入りますか、不要ですか?的な事?」
清水「お前にとっての「的な事」を教えてくれ」
三島「なんだかんだコンビニの仕事は、品出しが一番裏方的な事?」
清水「わかった。俺ら売れなさすぎて副業に洗脳されまくってるんだよ」
三島「悲しいなぁ、お前の生き方」
三島「シフトが合ってないんだよ。店長に相談してみるべきだよ」
清水「いや、まずはお前が一旦コンビニのアルバイトを辞めて、まったく別の職種のアルバイトからやり直せよ」
三島「いや、まずは本業で生活できるように頑張ろうぜ」
清水「それはその通りだ」
三島「わかってくれてありがとう。俺もお前の言う通りコンビニのアルバイトは辞めるよ」
清水「で、どうするの」
三島「とりあえずドラッグストアーのアルバイトでもしてみるよ」
清水「それ、パチンコやめてスロットにハマるようなものだから」
清水「そもそも年齢制限のある遊びも、大抵は洗脳系だけどな」
三島「それ、ツッコミのお前が言ったら、マジでしかなくなるけど大丈夫?」
清水「やべーな。お互い世間的にヤバくなってきたから、そろそろやめさせていただきましょうか」
三島「では、また近々。どうもありがとうございましたぁ」
〇新橋駅前
裕那「おもしろいよ二人とも」
裕那「ねぇ、私からもプレゼントさせて。私は似顔絵師だから、二人の絵を描いてプレゼントしたいの」
裕那「明日、またこの場所で会ってくれないかなぁ。それまでに完成させるから」
三島と清水は一旦仲直りをし、翌日の夕方にまた3人で会う事となった
〇新橋駅前
裕那「あっ、こんにちは」
二人はすでに待ち合わせ場所に来ていたが、どこかぎこちない感じだった
裕那「はい、約束通り、私が描いた二人の似顔絵だよ」
そう言って裕那は二人それぞれに、簡単に包んであるだけの絵を手渡した
中の絵を取り出した二人はとても驚いた。2枚の絵は勿論手描きだったが、まったく同じ絵だったから
〇黄色(ディープ)
背景は真っ黄色。その真ん中から下側に写実的に描かれたマイクがある
マイクを挟んで両側には、二人の横顔らしき絵。二人の顔は、複数のパステルカラーを使って荒く太い線で描かれている
後方には三本の電線のような細い線が描かれ、その線には少し写実的に描かれたたくさんのスズメがとまっている
何故かカラスやツバメも数羽混じっている
二人の顔は、近づいたり角度を変えると、口論しているみたいだが、離れてみると、笑って大きな声で喋り合っているように見えた
〇新橋駅前
裕那「ゴメンナサイね、雰囲気で描いていいるので、あまり似ていないと思いますけど」
裕那「ちなみに観客のつもりで描いた鳥達。本当はセミにしようと思ったのですが、人によっては気色悪くなるかと思いまして」
三島「そりゃそうだよ」
清水「たくさんのセミはさすがに・・・」
裕那の絵をネタに、三人はしばらく談笑していた
裕那「清水さん、彼女さんのお父さんに舞台を観に来てもらった事はありますか」
清水「いや・・・」
〇小劇場の舞台
裕那「仕事だよね。だったら!」
三島「俺もそう思う。観てもらいたくない仕事じゃないだろう、俺らの仕事って」
清水「そうだな、最も大切な人から怖がって逃げていたよ」
清水「俺、なんとしても彼女のお父さん舞台に呼ぶから、三島も協力してくれ」
三島は少し顔を赤らめた
三島「協力はしねぇ。最高の仕事にする事だけ考える。それでいいだろう」
清水は照れくさそうにうなづいていた