第五話 「すき」と言ってはいけませんっ!【後編】(脚本)
〇ショッピングモールの一階
林示 伴(はやし ばん)(こ、この人が万理先輩のお父さん・・・!?)
万理の父「おいおい、久々に会ったってのになんだその態度は?」
科生 万理(しないき まり)「い、いや、来ないで・・・!」
林示 伴(はやし ばん)(感動の再会って感じじゃなさそうだな・・・)
万理の父「ふん、相変わらず取り付く島もないな・・・」
万理の父「で、そっちの男は何だ?」
林示 伴(はやし ばん)「あ、俺・・・じゃなくて僕は、先輩の後輩で・・・」
科生 万理(しないき まり)「お父さんには関係ないでしょ!」
林示 伴(はやし ばん)(うっ、めちゃくちゃ険悪な雰囲気・・・!)
万理の父「ま、何だっていいがな」
万理の父「どうせそいつもすぐどこかへ消えるんだろう」
科生 万理(しないき まり)「・・・・・・」
万理の父「噂で聞いたぞ」
万理の父「男によくわからんテストをさせて、試して遊んでるそうだな」
林示 伴(はやし ばん)(それって、NG行動の事か・・・!?)
科生 万理(しないき まり)「あ、遊びでやってるわけじゃないわ・・・」
万理の父「茶番には違いないだろう」
万理の父「今までそうやって何人の男をこけにしてきたんだ?」
科生 万理(しないき まり)「こけにするなんて、私は!」
林示 伴(はやし ばん)「ちょ、ちょっと待ってください!」
万理の父「なんだ貴様。部外者が首を突っ込むな」
林示 伴(はやし ばん)(うっ、怖え・・・すごい迫力・・・!)
林示 伴(はやし ばん)(だが、先輩のために引き下がるわけにはいかねえ!)
林示 伴(はやし ばん)「ま、万理先輩は男を弄ぶような人じゃありません!」
林示 伴(はやし ばん)「きっとちゃんと意味があるはずです!」
科生 万理(しないき まり)「林示くん・・・」
万理の父「フン、何もわかっちゃいないな」
万理の父「こいつは昔からこうなんだよ」
万理の父「万理、お前は俺にもいつも、あれをするなこれをするなと口うるさく言ってきたな」
科生 万理(しないき まり)「そ、それはお父さんが・・・!」
万理の父「そんな風に相手を縛らないと、愛されてる実感が持てないんだろう」
科生 万理(しないき まり)「そ、そんなんじゃ・・・」
万理の父「言っておくがな」
万理の父「お前に寄ってくる男は、顔しか見てないような奴ばかりだぞ」
林示 伴(はやし ばん)「なっ!? 取り消してください!」
林示 伴(はやし ばん)「いくら父親でも、娘に対してそんな事言うなんて!」
万理の父「黙ってろ。貴様も同じだ」
万理の父「現に、万理の事など何も知らんだろうが」
林示 伴(はやし ばん)「ち、違います!」
林示 伴(はやし ばん)「俺は本当に、万理先輩の努力家で芯の通った性格がす・・・」
林示 伴(はやし ばん)(あっ、ダメだ! NG行動!)
林示 伴(はやし ばん)(今『好き』と言ったら破る事になっちまう・・・!)
万理の父「違わんさ。今までこいつに寄ってきた男は、みんなそうだったからな」
万理の父「万理、お前は相手を試しているつもりだろうが」
万理の父「相手もどうせ遊びだからな」
万理の父「自分が本気で好かれてるなんて思い上がるなよ」
科生 万理(しないき まり)「・・・・・・」
科生 万理(しないき まり)「言われなくたって」
科生 万理(しないき まり)「わかってるわよそんな事・・・」
林示 伴(はやし ばん)(・・・涙!?)
林示 伴(はやし ばん)(・・・フッ)
林示 伴(はやし ばん)(今まで先輩のNG行動を守るために、ずいぶん苦労してきたよな)
林示 伴(はやし ばん)(もしNG行動を破れば、俺は二度と先輩に相手にしてもらえないだろう)
林示 伴(はやし ばん)(・・・だが! たとえ俺がフラれようと!)
林示 伴(はやし ばん)(これが黙っていられるかぁっ!!)
林示 伴(はやし ばん)「先輩!」
科生 万理(しないき まり)「!?」
俺は先輩の肩をつかんで、こちらへ振り向かせた
先輩の涙に潤んだ瞳が、驚いて俺を見つめている
林示 伴(はやし ばん)「万理先輩、好きです!」
科生 万理(しないき まり)「・・・!」
林示 伴(はやし ばん)「顔だけ見てるわけでも、遊びで言ってるわけでもない」
林示 伴(はやし ばん)「万理先輩の全部が、本気で好きなんです!」
科生 万理(しないき まり)「は、林示くん・・・!」
林示 伴(はやし ばん)「NG行動を守れなくてすみません」
林示 伴(はやし ばん)「でも、どんなに禁止されようと」
林示 伴(はやし ばん)「先輩を好きでいる事だけはやめられません!」
万理先輩の眼から大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちる
と同時に、先輩が俺の胸に飛び込んできた
科生 万理(しないき まり)「ありがとう・・・!」
林示 伴(はやし ばん)「先輩・・・」
万理の父「フン、見ちゃいられないな・・・」
万理の父「勝手にしろ」
後ろで声が聞こえた気がして振り向くと
いつの間にか先輩の父親はいなくなっていた
男性客「お兄さん、やるねぇ~!」
女性客「若いっていいわねぇ」
林示 伴(はやし ばん)「ハハ・・・お、お騒がせしました」
林示 伴(はやし ばん)(うぅ、みんな見てる・・・急に恥ずかしくなってきた)
林示 伴(はやし ばん)「せ、先輩、ここじゃ何だから、場所かえましょうか・・・」
〇見晴らしのいい公園
科生 万理(しないき まり)「ごめんね、みっともないところを見せちゃって」
林示 伴(はやし ばん)「いえ、とんでもない」
林示 伴(はやし ばん)「なんて言うか、大変でしたね。お父さんがあんな・・・」
科生 万理(しないき まり)「うん・・・」
科生 万理(しないき まり)「あの通りお父さん口下手だから、いつもケンカになっちゃうのよね」
科生 万理(しないき まり)「私の事を心配してくれてるのはわかるんだけど・・・」
林示 伴(はやし ばん)(えっ!? あれ口下手なだけだったの!?)
林示 伴(はやし ばん)(全然わかってませんでした! めちゃくちゃ怖い人なのかと・・・)
林示 伴(はやし ばん)「ハハ、い、色々ありますよね・・・」
林示 伴(はやし ばん)「ちょっと思ったんですが、もしかしてNG行動はお父さんと何か関係が?」
科生 万理(しないき まり)「うん・・・」
科生 万理(しないき まり)「うち、両親が離婚してるんだよね」
〇芸術
「お父さん、作家なんだけど、昔から破天荒っていうか、生き方が自由奔放すぎるのよね」
「お母さんの制止にも一切耳を貸さないで、いつも好き勝手して家族を振り回して・・・」
「それで結局、一緒に暮らせなくなっちゃった」
「そうだったんですね・・・」
〇見晴らしのいい公園
科生 万理(しないき まり)「そんな両親を見てたから、結婚とか付き合うとか、よくわからなくなっちゃって」
林示 伴(はやし ばん)「それで付き合う条件として、NG行動を・・・?」
科生 万理(しないき まり)「バカみたいだよね」
科生 万理(しないき まり)「でも、お父さんが守ってくれなかった事を、この人は守ってくれるのかなって」
科生 万理(しないき まり)「気になっちゃって・・・」
林示 伴(はやし ばん)「俺が課されたNG行動は」
林示 伴(はやし ばん)「『声を出してはいけない』『人に触れてはいけない』『立ち止まってはいけない』・・・」
科生 万理(しないき まり)「大声で怒鳴らないとか、むやみに人を叩かないとか、うまくいかない事を放り出さないとか・・・」
科生 万理(しないき まり)「お父さんが守ってくれなかった事」
林示 伴(はやし ばん)「じゃあ、『すきと言ってはいけない』というのは?」
科生 万理(しないき まり)「お父さんは時々私たちに好きだと言ってくれた」
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最後びっくりした!え!まだあんのって思ったら、嫌いにならないって先輩は可愛すぎだと思う!先輩のお父さんのことちょっと最初怖いって思っちゃったけど、全然そんなことなかった!
お疲れ様でした。隠れ大人コンテンツとして(違う)楽しませて頂きました。
先輩の台詞間の想定ずらしを勝手に楽しんでました。てっきり「婚前交渉はいけませんっ!」って来るかと…来るわけないんですけどね、わけないんですが(笑)
最後の方は好きって言え!言うんだって応援してました。ハッピーエンドでよかったです。
エスカレートしていくNG行動がどうなっていくのかと思ったら、めっちゃ切ない理由からだった😭 言葉にこだわる澤井さんらしい一作だと思います。
連載お疲れ様でした(もっと読みたいなぁ……笑)