読切(脚本)
〇綺麗なリビング
「これはここ、こっちに移動させて・・・・・・あれ、これリビングに置くやつじゃん!」
キッチンのほうから聞こえてくる声に生返事をしながら、僕は床に横たわって本を読んでいた。
「ちょっともー史も手伝ってよ。どうせ本読んでるんでしょ!」
史「うんー、ごめんごめん」
そう言いながら僕はついつい段ボールから取り出した本に見入ってしまう。
動かない様子を察して雫が声を荒げる。
「午後には渋谷区役所に行くんだよ?!」
史「わかったよ、そんなに怒るなって」
「もう、わかってない!」
頬を膨らましているであろう雫に申し訳なさではなく、愛おしさを感じてしまう。
僕はその幸せに顔を緩ませた。
〇おしゃれな大学
大学のために上京して最初の講義で隣の席に座った雫を見たときの印象は
〇講義室
史「綺麗だな」
「え?」
史「悪い。なんでもない」
思わず口に出していたらしい。
出会いがしらに綺麗などと言われるのは気分のいいものではないと思っていたが、雫の反応は思っていたものと全く違った。
「・・・・・・ありがとう」
頬を赤めて視線を下げ、照れている雫に僕はやられた。
もちろんこの気持ちを伝えるつもりはなかった。
僕は男で──雫も男だった。
自分が好きになった相手が自分と同じマイノリティであることなんてめったにない。
それを探り合うのも苦痛だった。
かといって誰にでも自分の性的指向を暴露する気にもならない。
だから、彼とはいい友人でいる。この恋心は消えるまでずっと抱えるものだと思っていた。
〇一人部屋
それから3年が過ぎ、大学最後の夏休みに入る頃にかかってきた電話で好きだから付き合ってほしいと言われた。
史「本気で言ってる?」
雫「ごめん、気持ち悪いよね」
史「違う、そうじゃない」
史「僕もなんだ」
雫がスマートフォンの向こうで笑った。
〇渋谷のスクランブル交差点
僕がそうだと自覚した時から世間はずいぶん変わったように思う。
性的少数者をカミングアウトするタレントが増え、同性愛者の結婚を認める制度もできた。
心の奥底で燻ぶらせていた恋心は消えるのを待つ必要がなくなった。
社会にとっていいことが、自分にとってもいいことなんてご都合主義はそうそう起こらないと思っていた。
〇SHIBUYA SKY
付き合ってからしばらくして、僕は雫に結婚を申し込んだ。
史「雫のことを一生大事にしたい。だから僕と結婚してほしい」
二人の間の『告白』と違って『結婚』は他のことも関わってくる。
雫は最初に会った時のように目を伏せて笑いながら「はい」と答えた。
雫「じゃあ、区のパートナーシップ制度を使わないと」
史「知ってたのか」
雫「うん、調べてたから」
そう無邪気に笑って答える雫につくづくかなわないなぁと思った。
渋谷区のパートナーシップ制度を初めて知りました。多数派でも少数派でも、生きやすい社会になってほしいですね。
「最初に相手の顔が見えないのはそう言うことか!」と読んでいくうちにハッとしました😌
2人の関係性がこの短い文字数の中にとても詰まっていて素敵でした😊✨
ヨーロッパ在住ですが、日本はやはり同性愛者がまだまだ生きにく社会なのだと思います。ショップ店員やウエイター等、かえって同性愛者の男性の方が接客が丁寧だったりします。なにより人を想い愛する気持ちは美しいです。