読切(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
トーキョーでは星が見えないなんて、それこそ都市伝説だと思ってた。
〇渋谷のスクランブル交差点
はるこ「(ほんとに見えない・・・)」
〇渋谷のスクランブル交差点
想像していた“見えない”は、夜空に星が浮かんでない光景だったけれど。
〇渋谷のスクランブル交差点
はるこ「(見えないというか、見られない・・・?)」
〇渋谷のスクランブル交差点
街が明るすぎるのだ。
〇田園風景
故郷では、道路沿いに街灯はきちんとあったけど、私道にまでは灯りが無くて、日没を過ぎればあっという間に辺りは真っ暗だった。
〇田園風景
学校帰りに気づけば暗くなってた、なんてことも珍しく無くて、でも怖くはなかった。いつだって隣には、
〇渋谷のスクランブル交差点
友人「はるこ、置いていくよー」
〇渋谷のスクランブル交差点
空を見てぼんやり立ち止まってしまったらしい。専門学校で仲良くなった同級生に少し遠くから呼ばれてハッとする。
〇渋谷のスクランブル交差点
はるこ「ごめんごめん〜」
〇渋谷のスクランブル交差点
慌ててそちらに駆ける。
〇渋谷のスクランブル交差点
と。
〇渋谷のスクランブル交差点
どくん、と地面が波打った。
〇渋谷のスクランブル交差点
立ちくらみか、たたらを踏み、体を支えようと捕まるものを探して手を伸ばす。
〇渋谷のスクランブル交差点
友人「はるこ!」
周囲「きゃー!!」
〇渋谷のスクランブル交差点
周りから、複数人の悲鳴が聞こえる。
手のひらは思ったより近かった地面へと飲み込まれて、そこで初めて自分が
〇渋谷のスクランブル交差点
「ファッションダンジョン」に遭遇してしまったことを悟った。
〇黒
ファッションダンジョン。
〇黒
数年前から渋谷で起こるようになった怪奇現象だ。突如地面から対のドレッシングルームが顕れ、無差別に二人の人間を飲み込む。
〇黒
囚われた人は、提示されるテーマに沿ってファッション対決を行い、
〇黒
怪奇現象が満足すれば二人とも解放されるが、機嫌を損なうと、そのままドレッシングルームから出られることはない。
〇黒
突如顕れるその特異性が、若者の間で流行っている物語のダンジョンに似ていることから、
〇黒
いつしかその現象にファッションダンジョンという名が付けられた。
〇黒
はるこ「・・・、っ、うわぁ・・・!」
〇黒
地面に呑まれるぎゅっとした圧迫感から解放されて目を開けると、そこは奥行きのわからないほど広い
〇教会の控室
広い更衣室だった。無数の服、無数の化粧品、帽子や靴のアイテムも夥しいほどに並べられ、まさに夢の世界だ。
〇教会の控室
曲がりなりにも被服の専門に通う身としてはつい興奮してしまう。鏡台へ近づくと、場にそぐわぬボードがあることに気づいた。
〇黒
『テーマ:広がる』
〇教会の控室
これがこのダンジョンの対決テーマなのだろう。
広がる、というテーマは抽象的だが、逆に言えば自由がきく。
〇村の眺望
自由。
〇集落の入口
ふと、さっきまで思い出していた故郷を思った。
何もない、本当にテンプレのような田舎。隣家まで何百メートルもあるような。
〇寂れた村
夜に回覧板を持っていこうものなら、あまりの暗さに自分の足先すら見えないような。
〇村の眺望
それでも私が怖いと思わなかったのは、いつだって隣に、
〇田園風景
すばる「危ないから送っていくね」
〇田園風景
幼なじみが、すばるがいてくれたからだった。
〇田園風景
はるこ「危ないって、たかだか隣の家だよ」
〇田園風景
すばる「はるちゃんこの間田んぼに落ちたでしょ」
〇田園風景
はるこ「それはー空を見上げてたせいでー」
〇田園風景
すばる「はいはい、前見て帰りましょうね〜」
〇村の眺望
田舎に置いておくにはもったいないくらい、かわいい幼なじみ。
〇村の眺望
彼女は実家の農家を継ぐことが決まっていたけれど、そんなの勿体無いくらい才能に溢れていた。羨ましかった。
〇村の眺望
自分も実家の畑を手伝おうと思っていたけれど、でも、その前に、すばるに自慢できるような、隣で誇れるものが欲しかった。
〇村の眺望
だから私は、すばるを置いてトーキョーに出てきたのだ。ファッションは、自分の中で一番マシだと思える部分だっただけ。
〇雑踏
ファッションダンジョンの登場に、渋谷は当初こそ混乱したが、次第にこの怪奇現象を楽しむ風潮が出てきた。
〇雑踏
ダンジョン出現はSNSで即座に拡散され、対決の頃には大勢のギャラリーができている。
〇雑踏
ここで頑張れたら、これからの人生ずっと、この自信を抱えてずっとやっていける気がした。
〇教会の控室
はるこ「気合入れて考えなくっちゃ」
〇黒
〇渋谷のスクランブル交差点
結果として、ダンジョンは今回の結果に満足してくれたようで、対戦相手の方共々解放された。
〇渋谷のスクランブル交差点
ダンジョン内では現実世界と時間の流れが違うのかもしれない。
〇渋谷のスクランブル交差点
こだわりすぎて、半日は経過してしまったんじゃないかと慌てて完成させたけど、外はまだ夜だった。
〇渋谷のスクランブル交差点
手元に残ったプラネタリウムをみる。
私が選んだファッションは、「プラネタリウム」だ。
〇村の眺望
私がトーキョーに行くと言った時、すばるはめちゃくちゃ泣いた。泣いて、「プラネタリウムを作る」、と言い出した。
〇美しい草原
すばる「トーキョーは星が見えないんでしょ。だから、プラネタリウム作るよ。星があれば、私は、すばるははるちゃんのそばにいるからね」
〇村の眺望
結局プラネタリウム作成は間に合わなかくてすばるはまた泣いた。
〇渋谷のスクランブル交差点
なんとなく、それを思い出して「光るワンピース」を作ったのだ。
そしたら、ダンジョンが消えて手元にこれが残った。
〇美しい草原
故郷で見た星空を思い出す。
〇シンプルなワンルーム
トーキョーの狭いワンルームに星を浮かべて、すばるに今日起こったことを話したい。
〇幻想
全てを知っているかのように、ポケットのスマホがぶるぶると震えた。
私も東京に行った時に「本当に星が見えないんだな…」
と思ったことがあったのでその時のことを思い出しました🥲
ファッションの怪奇現象があるという斬新な展開がありながらも、どこかノスタルジックになる素敵なお話でした😌
最近では田舎でも中々星が見えない日もあります。
天気がいい時は本当にアクセサリーのようにピカピカしている星が見える時もありますが。
東京のプラネタリウムは行ったことありませんが、そんな田舎にもプラネタリウムはあります!笑
こんな怪奇現象なら体験したくなりますねえ。すんなり合格もらえたのなら、強い信念で地元を離れ上京してきたかいがあったってことですよね。故郷の友人を想ってデザインする彼女はとても素敵です。