迷子の彼女

浦川 蒼生

読切(脚本)

迷子の彼女

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〇モヤイ像
  ・・・
  モヤイ像の前でSNSを開く。
  友人の近況、は、さておき。
  今日行く予定のプラネタリウムの時間を確認したら、その後休憩するカフェの目星をつける。
  そんな確認作業が終われば、タップノベルとやらを開いて時間を潰した。
塩谷 武蔵((人多いけど、大丈夫かな・・・))
  そこで一旦、スマホから目を離して周囲を見渡す。
  今は待ち合わせの時間の30分前。
  待っている相手は、愛しい愛しい彼女、宮崎穂波である。
塩谷 武蔵((まぁ、まだだろうな))
  そう思って、後回しにしていた友人の投稿を見ていれば、なんとビックリ、ハチ公前の写真が目に入る。
  しかも、背景にチラリと写るのは、宮崎穂波、可愛い俺の彼女だ。
塩谷 武蔵((方角的に、109でもモヤイ像でもない方へ向かっている?))
  その愛くるしい彼女、宮崎穂波は方向音痴である。
  本人は方向音痴を認めない。そのため、今回も現地集合になったのだが。
塩谷 武蔵((仕方ない、探しに行くか))
  運良く投稿された時間は数秒前。
  早足でハチ公前広場に向かった。

〇ポップ2
  ・・・
  彼女は可愛い。
  オシャレやアクセサリーに興味がなかったのに、俺に合わせて勉強するようになったり。
  行きたい場所も言えなくて、俺の提案にしかめっ面していたり。
  欲しい物がある時に、俺の袖を掴んで上目遣いだけで無言で訴えてきたり。
  今日だって、モヤイ像に辿り着けずに、フラフラと反対方向へ歩いていったり。
  不器用とか抜けている、そういう言葉が似合う存在だ。
  念の為今日の服装を聞いておいて良かった。
宮崎 穂波「武蔵が買ってくれたワンピース着てくる!」
  白のワンピース。彼女に一番似合う服。
  試着した時は少し恥ずかしがっていた。
  しかしナチュラルなデザインなため、アウターや小物で印象を変えられる優れもの。
  着て欲しい一心で褒め殺すと、仕方ないな、って顔で頷く彼女。
  あの顔も可愛かった。

〇ハチ公前
  あ。
  これは愛の力と言えよう。
  宮崎穂波。見つけた。

〇渋谷ヒカリエ
  ・・・
  少し先を歩いていた彼女は、渋谷ヒカリエの前に立っていた。
  待ち合わせ場所のモヤイ像とは正反対の位置にいる彼女に、思わず苦笑する。
塩谷 武蔵((本当に可愛くて仕方のない人だ))
  そんな事を考えれば、声をかけるタイミングを逃す。
  フラフラとヒカリエの中に入っていく姿を見て、自分も急いで追いかけた。
  ・・・

〇雑貨売り場
  ・・・
  待ち合わせ時刻まであと15分もない。
  何をするのか、なんて見ていれば、彼女は電話をしながら、ショーウィンドウを見て歩く。
宮崎 穂波「もしもし?」
宮崎 穂波「そうなんだけどさ、うん」
  話している相手は分からないが、彼女は電話しながら歩くことに集中しており、俺の存在には気づいてない。
  少し距離を詰めて、聞き耳を立てる。
宮崎 穂波「正直今日のワンピースもさ」
宮崎 穂波「かなり面倒臭いの」
塩谷 武蔵((め、めんどくさい・・・?))
  聞こえた言葉は想像の斜め上を行く。
  気を取り直して、続きを聞こうと耳を澄ます。
宮崎 穂波「男のロマンだの、絶対着て欲しい服ナンバーワンだの、そう言われても天気に左右されるし?」
塩谷 武蔵((そんなに天候に左右されるのか・・・))
宮崎 穂波「髪型だって悩むし面倒臭いし・・・」
  そんなに俺は悪いことをしてしまったのか、なんて落ち込んだ時だった。
宮崎 穂波「・・・似合わない、って言われたくないじゃん?」
  ん?
宮崎 穂波「ちが、いや、買ってもらった服がもったいないから!惚気けてないって!」
  顔を真っ赤にして電話相手に否定する彼女は、どこからどう見ても天使だ。
宮崎 穂波「別に気にしてる訳じゃないって」
宮崎 穂波「ただ、アイツ、方向音痴でドジで間抜けな女の子が好きだから」
宮崎 穂波「今日も迷子のフリしてるだけ」
塩谷 武蔵((知ってる))
  そうだ、本当は方向音痴じゃないことも知っている。
  それに、白いワンピースよりも中学のジャージが好きな事も知っている。
  放っておけないような女の子なのに、輪をかけてそんな事をするから。
塩谷 武蔵((そもそも天然な癖に、さらに突拍子もない事をする))
  だから俺は目を離せないんだよなぁ。

〇デパートのサービスカウンター
  ・・・
  待ち合わせの時間になった。
宮崎 穂波「いいの、いいの。どうせ早く行って待ってたって、タバコ吸ってくるって言うんだから」
塩谷 武蔵((そうそう、だから俺、最近はタバコ止めたんだよな))
  多分、次のデートは彼女が早く来るだろうから、その時に驚く姿が見られるだろう。
  そんな想像をしていると、彼女は電話を切る。
宮崎 穂波「あーでも、そろそろ行かなきゃ、じゃあね」
  早く来ることはないけど、待ち合わせ場所に辿り着くことはないけど。
  ピコン。
  彼女からメッセージが届く。
宮崎 穂波「『今ヒカリエ?っていう出口に着いた!』」
宮崎 穂波「『でも、これ以上は歩けないかも(涙)』」
  嘘つけ、のんびり渋谷歩くの楽しんでいただろ?
  ・・・・・・なんてな。
  待ち合わせの時間ピッタリのメッセージに笑みが零れる。
塩谷 武蔵「『位置情報と写真送れ。迎え行くから』」
宮崎 穂波「『ありがと、武蔵♡』」
  彼女から届いた写真はヒカリエの入口の写真と、ここの位置情報である。
  なるほど?さっきは入口の写真撮ってたのか。
  なかなかよく考えたじゃないか。
塩谷 武蔵「『分かった、タバコ吸い終わってから向かう』」
宮崎 穂波「『もう!急いでよね?』」
  はは、ホントに可愛くて仕方のない彼女である。
  この調子じゃ、彼女はまた迷子になりそうだ。

コメント

  • 楽しく読ませて頂きました。お互いの思いが互いに優しい気がして心が温かくなるようなお話しでした。彼女の似合う服もキチンとわかっている彼素敵ですね。

  • 途中の少し不穏な空気すらも吹き飛ばすかのような素敵な惚気話でした✨
    お互いに心理戦みたいな所もあるのかなと思いつつ、それすらも微笑ましいですね😊

  • 恋してる人の話を聞くのは楽しいですね。読んでいて笑顔になりました。白いワンピースに対する男の人と女の人の感覚の違い、建物の説明など、細かいところに気を遣われていて、リアルに街を歩いて二人にお会いしてきた気分になれました。

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