秘密 (後編)(脚本)
〇大衆居酒屋(物無し)
土曜の営業が終了した居酒屋「渋谷愛」。
ノン「日曜食堂に回す肉とか減ってるわ 最近お客増えてっからなぁ」
タケ「あの区長のラジオからですよ やっぱメディアに出るとヤバいっすね」
ノン「俺のトークのおかげか。ほい、日曜食堂分」
ノン「思いつめてる感じだったぞ、あの少年」
ノン「あんな時間までほっつき歩いて 飯も食ってなかったし」
タケ「電気代の節約で、極力外にいるらしいっす」
ノン「親は?」
タケ「夜の商売って言ってました」
ノン「それで日曜食堂か」
タケ「なんかイジメられてるみたいで、学校で」
ノン「暴行? 恐喝?」
タケ「そういうんじゃなくてネットっす」
タケ「晒したり、吊るしたり、チャット攻撃エグいみたいで・・」
タケ「相談されても、オレも何てったらいいのか・・」
ノン「やっぱりな。あいつ、相談する相手完全に間違ってるわ」
ノン「俺、言ったんだよ。タケが相談にのれんのかって」
タケ「は?」
ノン「は? じゃねぇよ。お前、少年が助け求めてんのに、何逃げてんだよ」
タケ「逃げるって・・ だってマジやばい感じの子に、いい加減なこと言えないっすよ」
ノン「それが逃げてるって言ってんの。ちょっと考えればわかるだろ。相手ネットだろ?」
タケ「先輩、なんかいい手あるんすか?」
ノン「お前、何年生きてんだよ そんなの電源オフで一発解決だろ」
タケ(ん・・? いや、ちょっと待て・・)
ノン「スマホの電源切って、持たない、以上」
タケ「それって、・・ありなんスかね(微妙)」
ノン「全部ネットなんだろ。じゃあパソコンとスマホがなきゃいいんだろ?」
ノン「ほら、早く食堂に行って少年に教えてやれあ、卵割るなよ」
〇古いアパートの部屋
学校帰りにノンのアパートに寄ったマイ。
ノン「はいはい。裏になんかあるとは思ってたわ」
マイ「区長のコーナーにゲスト出演なんて こいつ誰?ってなって絶対身元晒される」
ノン「でも店長じきじきのご指名なんだろ? そこがなぁ・・」
マイ「ハッスルしてるんだって」
ノン「身バレ怖いんなら声変えれば? ラジオだし、そういうこと学校でやってんだろ?」
マイ「キャラ演じるわけじゃないんで」
ノン「いいじゃん、芸名マイで、ブリっ子とかカマトトとかキャラ変して」
マイ「カマトト? なに、その味変みたいなの」
ノン「わかんなーい、おばさんブスー、とか言ってりゃいいのよ」
マイ(ブスって、久しぶりに聞いた)
ノン「重く考えんなよ。人助けだと思ってさ」
マイ「区のデジタル化進めるってテーマなんだって」
ノン「デジタル化って、俺の敵ってことか?」
マイ(店長はさんだ三角関係もあるか・・)
ノン「今度の選挙で絶対落ちんな」
マイ「区長が落ちたら、店長も引退考えてるらしい」
マイ「店はあいつらだけで大丈夫だって言ってたんだって」
〇豪華なリビングダイニング
(マイの回想)
区長「剛ちゃんね、もう店はあいつらだけで大丈夫だって」
区長「この前、チェコの団体さん来た時、そう思ったみたい」
区長「あたしも今年選挙でしょ。落ちちゃったら二人で田舎暮らししようか、なんて言ってんの」
〇古いアパートの部屋
ノン「・・ざけんな(ぼそぼそ)」
マイ「よかったじゃん。店長認めてくれてんだよ」
ノン「ふざけんな、そんなの、俺は認めねぇぞ!」
マイ「なにキレてんの? もしかしてノンが店長になるかもって話でしょ、これ」
ノン「ダメだ、店長が田舎に行くなら俺も行く」
マイ「は?」
ノン「一生あの人についてくって決めてっから 田舎でもどこでも行ってやるよ」
マイ「それってフツーにいい迷惑でしょう」
ノン「いや、俺、事前に言ってあっから 「一生ついてきます」って」
マイ「で、店長なんだって?」
ノン「おぅ、って一言。俺と店長なんてそんなもんよ。目ぇ見れば通じんの」
マイ(いい加減、目覚ませ)
ノン「お、時間だ、仕事行くわ タケの奴、最近挙動不審で目離せねぇ」
マイ「あ、待ってよ、一緒に出る」
ノン「行先聞いても言わねぇんだ 個人情報とかナントカ言って」
マイ「待ってよ。カギ! あけっぱ!」
〇大衆居酒屋(物無し)
営業を終えた「渋谷愛」。持参の弁当箱にまかない飯を詰め込むタケ。
ノン「スーパーの詰め放題じゃねぇんだから それじゃフタ閉まんねぇだろ」
タケ「この弁当箱根性あるんで問題ないっす じゃ、お先しまーす」
ノン「おぉ、お疲れ」
〇寂れた雑居ビル
ノン(あいつ、毎晩メシ持ってどこ行ってんだ)
ノン(マジ挙動不審だろ。今日こそ突き止めてやる)
〇街中の道路
タケの後をつけるノン。その時、道の向こう側で数人がもめているのに気づく。
見るとあの時の少年が別の二人にからまれている。彼らに向かって駆け出すノン。
ノン「お前ら、何やってんだ! おい、待てよ!」
〇ビルの裏
走って逃げる少年を捕まえたノンは、ビルの間に連れ込む。
ノン「お前、早ぇな(ゼイゼイ)」
ノン「(はずみで落ちた少年のスマホを拾い) あいつらか(小声で)」
少年((頷く))
追ってきた二人が通りにいるのに気づいたノンは、突然大声で、
ノン「金は? 金はどうしたって聞いてんだよ!」
少年(・・(怯える))
ノン「こっちにはお前の携帯あんだよ これ、人質。わかんだろ」
ノン「お前も家族もアイツらも、ぜーんぶ人質」
ノン「わかったら金出せ。出せって言ってんだよ!」
ノンが背後を振り返ると、二人の少年は走り去った。
ノン「(スマホをもって小声で) これは俺が預かっとく。ネットは一切見るな、いいな」
少年((震えて頷く))
ノン「何かあったら店に来い」
〇ラジオの収録ブース
生放送前のラジ公スタジオ。
マイ「店長が家に来ちゃって 週刊誌とかダイジョブなんですか?」
区長「あたしもね、姫系のアイドル路線でやってるから、最初は気になったんだけど」
マイ(姫系アイドル・・)
区長「でも結局、家政夫さんとか、野菜の宅配とか、そんな感じで見られてるみたい」
区長「いつも食材かかえてくるし エプロンしたまま来ることもあるし」
マイ(確かにビジュアル的には恋愛と対極にある)
区長「あたしの時代は30過ぎたらお局様でしょ」
マイ(ツボ?)
区長「会社の制服、20代の女子はピンクで 30代になると紫に変わるの」
区長「そんなのナンだかなぁって思って OLしながら市民グループに入って・・」
マイ(リアルOLキター)
区長「日曜食堂の活動してる時、剛ちゃんに会ったんだ。でも寿退社する気はなくて・・」
マイ(出た、ことぶき)
区長「結局、会社辞めて区議会選挙に立候補した」
区長「剛ちゃんもね、飲食系転々として独立した時、店をあたしの名前にしてくれたの」
マイ(たしかに、年中無休の選挙看板か)
区長「で、3度目の選挙で区長になったんだ」
区長「あ、もう始まる? じゃ、マイちゃん、あっちで見てて。今日は見学」
区長「皆さん、こんにちは。今日も渋谷ヒカリエ・ラジ公スタジオから生放送です」
〇大衆居酒屋(物無し)
タケ「またスマホ、預かりました」
ノン「荒れてんだなぁ、イマドキの中学は」
タケ「いや、今度のはゲーム依存症からの脱却ってことで」
ノン「ロクなモンじゃねぇな、スマホ あ、ネギとって」
タケ「便利なんすけどねぇ、人生壊れるのは怖いっす」
ノン「だろ。あ、ニンニク買ってきたか?」
タケ「別の意味で日曜食堂が活気づいちゃって デジタルデトックスって知ってます?」
ノン「そんな時にあの区長、渋谷愛 本格的にデジタル化、進めるらしい」
タケ「なんすかそれ、どこ情報っすか?」
ノン「マイが出るんだと、あの区長のコーナー あいつ、洗脳されたわ」
俄然アナログ派のワタシはノンへの想いが強くなっています!(笑)スマホがない時代は、人と人とつながりが間違いなく密だったし、感情も成長していたと思いますね・・・。
前編の謎が色々回収されていっておおーっとなりました。子供たちのネットいじめとか中年カップルの地方移住とかデジタルデトックスとか、世相を反映したお話ですね。区長の「姫系アイドル」発言にツッコミをグッと堪えるマイちゃんw。「カマトト」「オツボネ」「コトブキ退社」とか、令和世代には宇宙語かもですね。