星のいらない街にて

革波マク

星のいらない街にて(脚本)

星のいらない街にて

革波マク

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星のいらない街にて
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〇黒背景

〇SHIBUYA109
  東京・渋谷
  ”100”
  若者の文化発信の地
???「ここが私の家なんですわ」
  こくこくと迫る終電
  彼女の言葉にオレは立ち尽くしていた──

〇ハチ公前
  1時間前
  オレは渋谷で
  いつものように歌っていた

〇ハチ公前

〇ハチ公前

〇ハチ公前
  多くの時間をここで過ごしてきた
  ギターはアンプに
  一回も繋いだことはない
ユウセイ「ハチ公もこのフレーズ覚えちゃっただろうな」
  ハチ公像は渋谷のランドマーク
  待ち合わせの名所である
  だがオレにとっては
  ハチ公は”面影”であり”同士”だった
ユウセイ「・・・」
ユウセイ(そろそろ潮時だろうにな)
  そう思いながらも歌うのは、
  亡き愛犬のコウちゃんも
  空で聴いてくれる気がしたからだ

〇開けた交差点
  オレとの散歩はいつも深夜だった
  そのときのコウちゃんの瞳は
  印象深く覚えている

〇幻想空間
  しっぽと首を振って
  コウちゃんは、
  全てのひかりを瞳に集めた
  それは星のようだった

〇ハチ公前
  ハチ公といると心が少し楽になる
  しかし
  ここにずっといてはいけない
  そうオレに思わせるのは、
  スクランブル交差点
  眼前に広がる、人の海だ

〇渋谷のスクランブル交差点
  まぶしい夜だ
  渋谷に星はいらない
  みんな、それぞれの生活を
  前へ進めている
  足早にどこかへ向かっていく
  オレだけ取り残されているかのようだった

〇ハチ公前
ユウセイ(オレも前を向かなきゃいけないのにな)
ユウセイ「終電も近いな そろそろ帰るか・・・」
  オレは渋谷駅へ視線を向けた

〇渋谷駅前
???「ごめんくださいっ」
???「お尋ねしたいことがあるのですがっ」

〇ハチ公前
  誰も足を止めない──
ユウセイ(オレも帰らなきゃいけないしな)

〇オフィスのフロア
  忙しい

〇ハチ公前
ユウセイ「・・・」
ユウセイ「しかたないか・・・」

〇渋谷駅前
ユウセイ「すみません」
ユウセイ「何か、お困りですか?」
???「あら、お兄さん!」
???「アナタはあちらで歌っていた方ですね?」
ユウセイ「えっ、聴いてくださっていたんですか?」
ユウセイ(近くで聴いてくれていたのかな 全然気づかなかった・・・)
???「道玄坂に行きたいのですが、 道に迷ってしまいまして」
ユウセイ「道玄坂ですか、 駅からスクランブル交差点通って すぐですよ」
ユウセイ「案内します」
???「心強いことです!」
???「人肌恋しかったのですよ」
ユウセイ「はぁ・・・」
???「華奢かと思えば たくましい腕で結構なものです!」
ユウセイ(二の腕触ってくる・・・)
ユウセイ「じゃあ、 スクランブル交差点を渡りましょうか」

〇渋谷のスクランブル交差点
ユウセイ(終電には間に合う、よな・・・)
???「お怪我ないですかっ!?」
ユウセイ「・・・!?」
ユウセイ「だ、大丈夫ですよ。 信号も赤になっちゃうので行きましょう?」
???「前も見ずに、詫びもしないとは!」
ユウセイ(・・・疲れているのかな)
ユウセイ(あの人とおばあちゃん、 すり抜けて見えたぞ)

〇SHIBUYA109
ユウセイ「道玄坂はここを左ですよ」
???「ありがとうございます!」
???「ここがアタシの家なんですわ」
  指差すのは商業施設”100”
  家であるはずがなかった
ユウセイ(終電あるし、 このまま帰って大丈夫かな・・・)
???「道玄坂はアタシの幼い頃、 馬車が通っていましてね」
???「あまりの急坂に、 男どもが集まって 馬の尻を押していました」
???「・・・」
???「今は、便利になりまして 助け合わなくても歩いていけますね」
  その声はどこか、
  ため息のようにも聞こえた
ユウセイ「冷たくしたいわけじゃ、ないんだよ」
ユウセイ「・・・ただ、みんな、忙しいんだ」
???「でもアナタの声は、 はっきり聞こえました」
???「アナタの声は”とどまっていた”からです」
ユウセイ「とどまっていた、から?」
???「”偲(しの)ぶ”とも いえるかもしれませんね」
???「だから アナタはアタシを見つけ、 アタシはアナタを聴くことができた」
ユウセイ「・・・」
???「さて、 無事にまいほーむの”代筆屋”に 戻れました」
ユウセイ「代筆屋?」
???「ええ、アナタには御礼しなければ」
???「アナタの歌を伝えましょう」
???「また、会いに行きます それでは」

〇黒背景

〇SHIBUYA109
  砂埃のような衝撃に
  まばたきをする
  目を開いたときに
  彼女の姿はなかった
ユウセイ「おばあちゃん!?」

〇ハチ公前
  道玄坂の件から
  数ヶ月後
  代筆屋を名乗る彼女に会った日、
  オレは結局、終電を逃した
  それだけ探しても
  おばあちゃんは
  見つからなかった
  今日もまた歌おうとした
  そのときだ
代筆屋「今日は天気がよくてなによりです」
ユウセイ「おばあちゃん!」
ユウセイ「心配しましたよ」
代筆屋「お優しいですね 元気にしておりましたよ」
代筆屋「すぐお会いしたかったのですが、 ”晴れ舞台”を待っていたのです」
代筆屋「今日は伝言を届けに参りました」
ユウセイ「晴れ舞台? 伝言?」
代筆屋「ええ。どうぞ、空を見上げてください」

〇幻想空間
  星もいらないまばゆい街の空、
  一閃がひゅうっときらめいた
  ──流れ星だった
  それは、コウちゃんが
  駆けているかのようだった

〇オフィスのフロア
  コウちゃん──
  忙しくなって

〇シックな玄関
ユウセイ「ただいま・・・」
コウちゃん「わう!」
ユウセイ「・・・」
ユウセイ「ごめん、ちょっと待ってて」
  オレは
  コウちゃんの瞳を
  見られなくなった

〇黒背景
  失ってから大切さに気づいた
  オレはバカなやつだ
  でも、コウちゃん
  オレにもし、
  できることがあるとしたら──
  オレはギターに、アンプを繋いだ

〇渋谷のスクランブル交差点
  びっくりするくらい、
  ギターの音が大きい
  息を吸う音がはっきり聞こえる
  コウちゃんが
  生き返ることはないけれど
  挫けそうになったり
  失ったりしながら
  歯を食いしばって
  生きているみんなへ届け

〇SHIBUYA SKY
  星のいらないこの街でも
  たしかに星は輝いて
  オレらの歩みは
  見守られているということを──
  オレは叫んだ

〇ハチ公前
代筆屋「それでは、 お伝えしましたよ」
代筆屋「現世と幽世 種族の垣根を越えて この身体も存分、悪くなし」
代筆屋「我ながら仕事熱心なものです」
代筆屋「さぁ、次の仕事ですね」

〇SHIBUYA109
  ──”100”の裏あたりに、
  その昔、”恋文横丁”という通りが
  あったのだという
  そこでは代筆屋を営んで
  言葉を預かり縁を結ぶ者がいたらしい──

コメント

  • 内容の濃密さに、これで同じ2000文字なのか?と悔しくなりました。セリフが少ないほど読了率は下がりやすいそうですが、地の文、セリフ、モノローグの割合はどれくらいなんでしょう。セリフはそこまで占めていないように思いますが、最後までひきこまれてしまう没入感がありました。

  • 感動してうるっときちゃいました。
    忙しくなると目を見られない、かまってあげられない。
    これから忙しくなる予感がするので、それがわが子へならないように身が引き締まる思いでした。

    美しい言葉と綺麗な背景、そして勇気づけられるストーリーはとても素晴らしく注目作品となるのも頷けます。

    今後の作品も楽しみにしております☆

  • きれいな言葉でそして美しいエフェクトとも相まってうるっとくるお話でした。失ってから気づく、、今を大事にしていこうと思いました。

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