ある男の悪くねえ人生(脚本)
〇豪華な社長室
組長「貴利、おめえには悪いが 俺の代わりに出頭してくれないか?」
村上貴利「分かりました」
組長「すまねえな」
組長「出所した時には 必ずそれ相応の地位は約束する」
村上貴利「喧嘩しか能のなかった俺を 組に入れてくれたのは親父じゃないですか」
村上貴利「その恩ぐらい報いらせてください」
組長「ありがとよ」
〇刑務所
村上貴利「まさか20年もムショに 入ることになるとはな」
村上貴利「まあ、しゃあねえか 元々ろくでもない人生だ」
村上貴利「どうなろうと構わねえ」
〇刑務所の牢屋
看守「手紙だ」
村上貴利「ありがとうございます」
村上貴利「誰からだ?親父か?」
村上貴利「青島先生!?」
村上貴利「まさか、青島先生から手紙が来るなんて」
村上貴利「先生にもばれちまったんだな」
村上貴利「情けねえ限りだ」
村上貴利「俺を心配することばかり 書いてくれている」
村上貴利「本当にあの人は いつまで俺を生徒扱いしてるんだ」
村上貴利「一体、俺は何がしたかったんだろうな」
村上貴利「どこで踏み間違えちまったんだ」
村上貴利「先生に合わせる顔がねえ」
〇実家の居間
物心着く頃には、母親の実家で
二人暮らしをしていた
田舎ってことで仕事はなくて
決して裕福な生活ではなかった
遊び道具なんて買ってもらえず
遊び道具と呼べるのは
母親の昔の趣味だった
絵の道具のお下がりぐらいだった
〇寂れた村
そんな俺にも、唯一の理解者がいた
青島「村上君、今日も絵を描いてるのか?」
村上貴利「はい!先生!」
小学校時代の担任の青島先生だ
誰からも好かれる人気の先生だった
青島「村上君は 本当に絵が上手いから凄いな」
村上貴利「ありがとう!」
青島「あ、そうだ」
青島「卒業生が置いていった道具だけど 良ければ使ってくれるかい?」
村上貴利「いいんですか?」
青島「ああ!その方が道具も喜ぶはずだ」
村上貴利「ありがとう!先生」
村上貴利「お礼にこれあげる!」
青島「えっ!?」
青島「いいのかい?せっかく描いたのに」
村上貴利「俺にはこれしか出来ないから」
村上貴利「先生にプレゼント!」
青島「ありがとう!一生大切にするよ!」
村上貴利「約束だよ!」
青島「もちろん!」
村上貴利「俺、これからも頑張って 絵を描き続けるよ」
〇刑務所の面会室
それから母親が再婚することになって
都会に引っ越した
だけど、新しい父親とは
ソリが合わず
俺は分かりやすくグレた
しかし、そんなツケが回ってきて
仲間に裏切られ冤罪で捕まった時だった
村上貴利「先生、まさか来てくれるなんて」
青島「村上君は絶対やってないって 信じてるからね」
村上貴利「先生ぐらいだ 俺を信用してくれるなんてさ」
村上貴利「誰も俺の声なんて聞いてくれねえ」
村上貴利「俺は喧嘩をしても 人のものを盗むほど落ちぶれちゃいねえ」
青島「分かってるよ」
青島「だから、色々と頼れそうなところに 声をかけているよ」
村上貴利「迷惑かけて、すみません」
青島「何言ってるんだ」
青島「君は私の可愛い生徒だ」
〇児童養護施設
村上貴利「先生、ありがとうございます!」
村上貴利「先生が紹介してくれた 弁護士先生のお陰で不起訴になりました!」
青島「本当に良かった」
村上貴利「先生がいなかったら 俺どうなってたんだ」
青島「気にしないでくれよ」
村上貴利「俺、これから真っ当に生きます!」
青島「そうしてくれると嬉しいよ」
〇豪華な社長室
だけど、俺はこの後
先生の期待を裏切ることをする
冤罪を吹っ掛けた元仲間を制裁した際に
尻拭いしてくれた組長から誘いを受けて
極道の道へ足を踏み入れてしまった
組長「これからは頼んだぞ」
村上貴利「誠心誠意、頑張らせていただきます」
これからだ
堅気の先生に迷惑をかけちゃいけないと
こっちから連絡することは無くなった
〇刑務所
村上貴利「お迎えもなしか」
村上貴利「しゃあねえわ」
村上貴利「まさか、ムショに入ってる間に 組がなくなるとは思わないわな」
村上貴利「皮肉なもんだ」
村上貴利「まったく俺の20年は 何だったんだか」
村上貴利「おかげで極道から 足を洗えるのは悪くはねえけどな」
村上貴利「さて、どうしたもんか 今の俺は行く当てのない風来坊と同じ」
村上貴利「金なら隠してあるから困らねえけど」
村上貴利「どこで余生を過ごそうか」
村上貴利「・・・・・・そういえば」
村上貴利「一箇所だけ行きたい場所あったな」
〇一戸建て
村上貴利「確か、手紙に書いてあった住所だと 先生の家はここだったはず」
村上貴利「お子さんの家に 引っ越したって書いてあったな」
村上貴利「手紙も途中から来なくなったから 今もいるのか分からねえけど・・・」
村上貴利「あった!ここか!」
村上貴利「もしもご存命なら」
村上貴利「合わせる顔はねえが 遠くから一目だけでも お目にかかりたい」
村上貴利「あれは!?」
青島冬子「おじいちゃん、お散歩お疲れ様」
村上貴利(青島先生で間違いない)
青島「・・・・・・」
青島冬子「あら?どなた様ですか?」
村上貴利「あ、いや、失礼しました」
村上貴利「怪しい者ではないです」
青島冬子「もしかして、おじいちゃんの お知り合いのお方ですか?」
村上貴利「え、まあ、そんなところです」
村上貴利(我ながら情けない返事だな 緊張してやがる)
青島冬子「そうだったんですね」
青島冬子「すみません」
青島冬子「おじいちゃん、認知症で 知り合いの方もほとんど 忘れてしまっているんです」
青島「・・・・・・」
村上貴利「そうだったんですね」
村上貴利「一目お会いできただけで充分です」
村上貴利「私はこれで失礼します」
青島冬子「あの、お名前を!」
村上貴利「いえ、ご迷惑をお掛けしますので このまま失礼させて・・・・・・」
青島「村上君だろ?」
村上貴利「えっ!?」
青島冬子「おじいちゃん、この方を覚えてるの!?」
青島「村上貴利君、まだ絵は描いてるんかね」
村上貴利「あ、その・・・・・・」
青島「村上君はな 絵がとっても上手いんだ」
青島冬子「村上さんだったんですね」
村上貴利「私のことをご存知で?」
青島冬子「詳しいことは家の中で話しましょ」
〇ダイニング(食事なし)
青島「凄いだろ」
青島「村上君は絵が上手いんだ」
青島冬子「私が生まれる前から この絵は家に飾られてるんですよ」
村上貴利「あの時の絵を まだ持っていてくれたんですか」
村上貴利(一生大事にするっていう約束 守ってくれていたんですね)
青島冬子「認知症になる前は 生徒から貰った自慢の宝物だって いつも口にしてたんです」
青島冬子「今もこの絵を見つめているときがあるんですよ」
青島「村上貴利君は私の自慢の生徒だ」
村上貴利(今も先生にとって 俺はまだ生徒なのか)
村上貴利「素行の悪い俺を 最後まで信じてくれた たった1人の大人」
村上貴利「あなたがいてくれたから 極道に足を踏み入れても 最低限の人道からは足を踏み外さなかった」
青島冬子「ずっとおじいちゃんは 村上さんの心配をしていました」
村上貴利「手紙が送られてきても 面会に来られても 恩人に合わせる顔がなかったもので」
村上貴利「すみませんでした」
青島冬子「きっと何も気にしてませんよ」
青島冬子「連絡がないのは 元気な証拠だって言ってましたから」
村上貴利「すみません」
青島「村上君、絵は続けてるんか?」
村上貴利(俺も約束を守らねえとな)
村上貴利「すみません、先生」
村上貴利「絵の方は ちょっとお休みいただいていたんですよ」
村上貴利「だけど、今日から再開するって それを伝えに来たんですよ」
青島「そうか!新しい絵が出来たら ぜひ、見せてくれるかね」
村上貴利「もちろんです」
青島冬子「おじいちゃん、良かったね!」
青島「ああ!」
青島冬子「こんな嬉しそうなおじいちゃん 見たの何年ぶりだろ」
〇実家の居間
村上貴利「まだ実家が残っていてくれたのは せめてもの救いってもんだな」
村上貴利「不思議なもんだね」
村上貴利「子供の時のような気分だ」
村上貴利「どこで間違ったのか 分からねえ人生だったが」
村上貴利「1人でも自分のことを 信じてくれる人がいる」
村上貴利「それが分かっただけで、全部チャラ」
村上貴利「悪くねえ人生だ」
村上貴利「おちおちくたばれねえな」
村上貴利「まずは先生とお孫さんのために 一枚描き上げようか」
村上貴利「待っててくださいよ、青島先生」
〇寂れた村
村上貴利「俺にはこれしか出来ないから」
村上貴利「先生にプレゼント!」
青島「ありがとう!一生大切にするよ!」
村上貴利「約束だよ!」
ギャグが上手い人が書く感動のはなしは泣けるとよく聞きますが泣きすぎて目の周りがカピカピです(笑)
20年の懲役...あらすじだけでも泣けるけど青島先生が若いときも認知症になっても優しくて
恩師ですね
いいなあ
この作品は、人生において迷いや苦しみを抱える人々に勇気を与える作品だと感じました。主人公は様々な人々に恩を返そうとする姿勢が素晴らしく、その姿勢が彼の人間性をより鮮明に描写しています。また、青島先生との交流により、主人公は自分自身を見つめ直すことができ、その結果、彼の人生に大きな変化が訪れます。この作品は、人生は変えることができるというメッセージを届けてくれます。
とてもいい先生に出会えて本当に良かったなと思いました。
ありがとうございます。