ラップ・ザ・ワールド

ラム25

才能(脚本)

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〇研究施設のオフィス
  モニターから目を離さず、タイピングの手を止めない男がいた。
  彼の名は暦。
  プログラミングの天才で、シリコンバレーで研究していたものの日本の研究機関にスカウトされた。
矢坂「相変わらずあんたは凄い速度でコードを書くな。 それでいて書き方が洗練されているんだから恐れ入るぜ」
暦「これしか能が無いからな」
矢坂「いやいや、立派だ。 俺もあんたを見習わないとな」
石井「あぁ、君は我が国のエースだ。 AIの天才・・・ 君がいればこの国のテクノロジーは安泰だとすら思える」
  石井はアメリカのシリコンバレーで活躍している暦を日本の研究機関に呼び寄せた張本人で、暦に絶大な信頼と期待を寄せている。
  事実暦は石井の期待を遥かに上回る成果を残し、石井は日本の、いや、世界の先端テクノロジーは安泰だと安心している。
  暦にはAIで新人類を作って欲しいと言う密かな願望があり、彼へ惜しみなく協力している。
  つまり、暦は石井にとって生き甲斐でもある。
  そう、暦なら、きっと人間を新たな──
暦「あ、石井さん。 俺、この仕事辞めます」
石井「・・・は?」
矢坂「お、おい、あんた何言ってんだ?」
暦「俺、ラップで食って行こうと思うんだ」
暦「俺は書けるぜ高度なコード! だけどラップへ移すぜ行動!」
石井「ま、待ってくれ。冗談、だろ・・・? 給料に不満があるのか? それなら・・・」
暦「俺はもう辞めると決めたんです。 AIなんて言語道断。 自分に頼らず今後どうなん?」
石井「あ、あぁ・・・」
  そして暦は辞表を出すと、呆然とする同僚と泣き崩れる上司に背を向けて会社を後にした。

〇高級マンションの一室
暦「ただいま、琥珀」
琥珀「あなた、お帰りなさい。 この間は突然ラッパーになると言ってたから会社辞めるんじゃないかとヒヤヒヤしたわよ」
暦「ぎくぅ! 俺はエンジニアを演じにあ・・・」
琥珀「・・・あなた、これラップかけてくれない?」
暦「ヨーチェケラ!」
琥珀「! やっぱりラッパーの道を諦めてないのね・・・!」
暦「しまった!」
琥珀「あなた、まさか本当に・・・」
暦「俺は少しは抱えてる貯蓄 だから少しはできる贅沢」
琥珀「・・・はぁ。 その貯蓄が尽きたらどうするの?」
暦「俺の光るリリックでみんなにトリックをかけるんだ! だから絶対大丈夫だ!」
琥珀「・・・私も仕事探さなきゃ」

〇公園のベンチ
暦「今日も俺はラップの公演! 行う場所はいつもの公園!」
  暦のラップは、受けなかった。
  暦はプログラミングでは天才だったがラッパーとしては才に恵まれていなかった。
暦(はぁ、好きなことをお金にするってこんなに難しいことなんだな・・・)
暦(俺はプログラマーとしては非凡だった・・・ だがラッパーとしてはショボンだった・・・)
  暦は徐々に現実を噛み締めつつあった。

〇高級マンションの一室
暦「ただいま」
琥珀「お帰りなさい、あなた」
暦「・・・」
琥珀「あれ、いつもだったら『俺は夕方5時に帰還、周りは俺のラップ聞かん』とか言うところなのに」
暦「俺、ラッパーやめようと思うよ」
琥珀「・・・あなた。私があなたが仕事を辞めてもあなたに着いていくのはなんでだと思う?」
暦「そんなの、離婚が面倒だからじゃ・・・」
琥珀「あなたの一生懸命な姿が好きだからよ」
暦「・・・ありがとう。 でも、いくら一生懸命でも才能が無かったら意味がない」
琥珀「そうかもね。 特にあなたはプログラミングで天才と言われたから余計つらいのかもしれない」
暦「ラップのセンスは生きる値打ち これが欠けたるは酷い仕打ち」
琥珀「・・・でも、私は好きよ、あなたのラップ」
暦「え?」
  生まれて初めて、ラップを褒められた。
  暦は胸が暖かくなるのを感じた。
  これはいわゆる充実感、暦は褒められ満足感。
暦「ありがとう。でも俺、前の会社に戻るよ。 ラップは趣味に留めようと思う」
琥珀「・・・そう」
暦「ああ。君に褒められた。 それだけで満たされたんだ」
暦「俺は子供の時から天才とちやほやされ、才能ばかり褒められた。 だが努力して才能でない実力を認められたかったのかもしれない」
琥珀「私はどこまでもあなたに着いていくわ」
  それから10年後──

〇高級マンションの一室
暦「ただいま」
緋翠「またしても帰宅夜の21時 一体どういう意図?おやじ? 私は手伝うママの家事 ママは私にくれる賛辞 パパは興味ない?私個人」
暦「わ、悪かったよ緋翠。 上司は俺に迫る残業、俺は本当は嫌な感情・・・」
緋翠「下手なラップいらないシャラップ!」
暦「とほほ・・・」
  娘の緋翠は、ラップの天才と呼ぶに相応しかった。
  クラスでは人気ナンバーワン、その才能はオンリーワン。
琥珀「この子はきっと天才ラッパーになるわ」
緋翠「えー、私お父さんみたいにプログラマーになりたいのに。 でもエラーが直らないの」
暦「ここはif文のネストがインデントされてないでfor文がループに陥ってるのが原因だ」
緋翠「流石お父さん!」
  皮肉なことに緋翠はラップでは天才だが、プログラミングではお世辞にも才能があるとは言えなかった。
  しかし、俺たち欠けてる趣味の才能、だけどそれでも趣味を堪能。
  暦はそう思った。

コメント

  • こちらもお邪魔しました、ラムさん
    ラップのタップはこれまた好感

    ボイスまで、はいってとっても耳に心地良かったです
    しかも地の文もリリックカッコ良かったです

    好きな人に認めてもらえること、幸せですね

  • ギャグみたいな出だしから、きちんと考えさせられる内容でとても良かったです。
    娘の方が天才だけど、娘には主人公の才能がないといつのがなんともありそうな話ですね。

  • わー!!✨😆これは面白いですね!!✨

    ラップとかけたコメントを残したいのに、全然ラップが思いつかないですっ!!なんとっ!!

    家族のやりとりもホッコリしました✨😆

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