読切(脚本)
〇怪しいロッジ
ホノカ「ねぇ、ハーキマー。 今度の日曜日、一緒に渋谷まで行かない?」
ハーキマー「しーぶーやぁ?」
目の前でホットミルクを飲む可愛らしい少女は、怪訝な表情を見せた。
彼女は、ハーキマー。
こう見えて、実は魔法使い。
川に落ちて死にかけた私を助けてくれた
命の恩人だ。
ハーキマー「お前、来月受験だろ? 渋谷なんて行ってる暇ないだろ」
・・・痛いところを突かれた。
私は野村灯香(ノムラホノカ)。
中学3年生。
ハーキマーの言う通り、再来月に受験を控える多忙な受験生だ。
ホノカ「ら・・・来月は私立入試! 本命の公立は再来月だから大丈夫!」
ハーキマー「渋谷なぁ。受験勉強を放り出してまで行きたいって、一体何があるんだ?」
ホノカ「実はね、大好きな双子のアイドルユニットがいるんだけど、今月で解散しちゃうの」
アベンチュリ「まさか、レコルトのことですか!?」
ホノカ「うわあビックリした! アベンチュリ、知ってるの?」
この白い大きな犬はアベンチュリ。
ハーキマーと一緒に暮らしている。
アベンチュリ「勿論!私も大ファンなのですよ~! 解散・・・残念ですよねえ」
レコルトは双子の男性アイドルユニット。歌も踊りもかっこよくて、学校でも女子の間で大人気だ。それなのに・・・
去年の今頃、解散が発表された。
なんでも、弟のチヒロ君が、亡くなったお母さんの跡を継ぐ為、だそうだ。
お母さんは優秀な研究員だったらしいが、とある実験の最中、不慮の事故で亡くなってしまい研究は途中で頓挫していた・・・
と、ニュースでやっていた。
ホノカ「アイドルを続けながら勉強をしていたらしいんだけど、この春、お母さんが勤めていた会社に就職するんだって」
アベンチュリ「いよいよ本格的に研究を引き継ぐのですね。それにしても二人は、本当にファンに対して誠実でしたよね~」
ハーキマー「誠実?」
アベンチュリ「解散って、急に発表する方も多いですが、レコルトは1年という月日をくれました」
アベンチュリ「そりゃあ勿論、解散を知った時はショックでしたが、しっかり心の準備が出来ましたし」
アベンチュリ「この1年でレコルトは 沢山の感謝の言葉を私達にくれました」
ホノカ「ほんとそれ!」
ホノカ「この1年はお礼を言う為~って言って、テレビにライブに大忙しだったよね」
アベンチュリ「はっ・・・!まさか、ラストライブのチケットが取れたのですか!?」
アベンチュリ「確か会場はデビュー前に出ていた小さなライブハウスで、収容人数も少なく、チケットの倍率すごかったのに・・・!」
ホノカ「そうなの!2枚取れたんだけど・・・」
ホノカ「一緒に行く予定だった友達が 行けなくなっちゃったの」
アベンチュリ「それは残念ですねぇ」
ホノカ「ってことで ハーキマー、一緒に行かない?」
ハーキマー「ええ~ ひとりで行けばいいじゃないか」
ホノカ「何を言ってるの!ラストライブで空席を作るなんてファンとして有り得ない!」
ホノカ「友達も配信チケット買い直してたよ」
ハーキマー「なるほどな。 じゃあアベンチュリ行って来いよ」
アベンチュリ「めっっちゃくちゃ行きたいですけれど 私・・・犬ですし・・・」
ハーキマー「ふむ。それは大丈夫だ。 私に任せておけ!」
〇渋谷駅前
ということで、私は白い大きな犬・アベンチュリと共に渋谷まで出掛けることになった。
ホノカ「ハーキマーはああ言ってたけれど・・・ 大丈夫かなぁ?」
ホノカ「ライブハウス・・・ ぜっったいペット禁止だよ・・・」
「灯香さん!お待たせしました!」
ホノカ「・・・誰?」
アベンチュリ(人間)「私です。アベンチュリです!」
ホノカ「えええええええ!」
アベンチュリ(人間)「ハーキマーが魔法で人間の姿にしてくれたのです!0時になったら犬に戻りますが」
ホノカ「シンデレラみたいだね」
ホノカ「でも素敵!綺麗なお姉さんだあ!」
アベンチュリ(人間)「ふふ、ありがとうございます」
〇路面電車の車内
アベンチュリ(人間)「ふおお、初めての電車です! 一度乗ってみたかったのです!」
ホノカ「初めて!?そうだったんだ。あ、電車でしか出来ないゲーム教えてあげる!」
アベンチュリ(人間)「ゲーム・・・ですか?」
ホノカ「レコルトが出てた旅番組でやってたの。 ねえ、さっき買った切符を出して?」
ホノカ「ほら、右側に4つの数字が書いてるでしょ?」
ホノカ「この4つの数字を全部使って足したり引いたり掛けたり割ったりして、10にして下さい!数字は何回使ってもOKだよ!」
アベンチュリ(人間)「難しそうですねぇ」
ホノカ「今はICカードで電車乗れるんだけど、これがやりたくて、つい切符買っちゃうの」
アベンチュリ(人間)「えっと・・・私の切符の数字は・・・ 1、5、5、4です」
ホノカ「私の切符は1、7、1、2」
アベンチュリ(人間)「うーん・・・」
ホノカ「あ、出来たかも!」
アベンチュリ(人間)「え、もう!?」
ホノカ「えっと、1÷1で1。 7+2+1で10!」
アベンチュリ(人間)「ふおお、さすがです!」
アベンチュリ(人間)「あ、私も出来たかも!」
アベンチュリ(人間)「えっと、5+5で10。1の4乗で1。 で・・・10÷1で10!」
ホノカ「4乗!?アベンチュリ賢いー!」
アベンチュリ(人間)「ふふ、楽しかったです。 電車に乗る時はまた挑戦します!」
ホノカ「あのね、10に出来たらその日は幸せになるってレコルトが言ってたよ」
アベンチュリ(人間)「この先きっと切符を見る度にレコルトを思い出すので、10にならなくても幸せです!」
アベンチュリは優しく微笑んだ。
〇ライブハウスのステージ
ラストライブは、言葉では
言い表せられないほど凄かった。
〇渋谷の雑踏
反面、ちっぽけな私は、ライブハウスや渋谷に溢れる人混みに紛れ消えてしまいそうだ。
私もいつか
誰かの特別な存在になれるだろうか。
誰かに、喜びや希望を与えられる
人間になれるだろうか。
ホノカ「いま出来ることを・・・私も頑張る」
ライブハウスの半券と10になった帰り道の切符を、私はギュッと握りしめた。
カフェラテのようなテイストでした。渋谷って色々だなぁ。感謝。
所々にとても共感のできる素敵なお話でした😌
「推しのライブに空席作りたくないよね〜!」と
ついウンウン頷いちゃいました🤦♀️笑
生きている意味ってふと考える時がありますが,誰かの特別な存在になれたなら,生きている価値があると思えますよね。そんなことを考えさせてくれる作品でした!