対話(脚本)
〇黒背景
「警察だ! 大人しく降参しろ!」
「罪を償って、 また胸を張って生きるんだ・・・」
〇パールグレー
「・・・っていうタイプの警察に なりたかったんだけどな」
〇パールグレー
俺は、信号機を見上げた。
男がいる。
信号機によじ登って、何かやっている。
こういう奴の取り締まりしか
できないんだもんな・・・
警官「あのー、ちょっといいかな、 お兄さん」
法岳「はい!?」
警官「そんな目立つことやってるんだから、 声かけられることくらい 想定しておきなよ」
法岳「ヒッ、警察」
警官「警察です。 君ほら、不審者だからね。それに・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
警官「ここ、スクランブル交差点だからね。 危険なことしちゃダメだよ」
警官「とりあえず、降りてきてくれる?」
法岳「ああ、はいはい!もう今すぐに!」
警官「思ったより素直だね・・・」
法岳「ええ!素直だけが取り柄と! 自負しております!」
警官「そっか・・・ とりあえず、職務質問するね」
警官「ちなみに、信号機の上で何やってたの?」
法岳「青信号の音を、変えようと思いまして」
警官「青信号の音・・・?」
法岳「信号が変わったら、 「カッコー、カッコー」って 鳴るでしょ? あの音ですよ」
警官「ああ、目が見えない方が 青信号に気付けるように鳴ってるアレね」
警官「変えちゃダメだよ、あの音は」
法岳「なんでですか!」
警官「なんでって言われても・・・ 目が見えない方が混乱しちゃうでしょ」
法岳「鳩の鳴き声にしたいんです!」
警官「鳩の鳴き声?」
法岳「ホーホーホッホー↑ってやつに!」
警官「あっ、田舎でよく聞くキジバトだ」
法岳「そう、僕は信号機をこの音に・・・」
法岳「変えたくて・・・」
警官「えっ何?なんで泣き出しちゃったの? 鳩の鳴き声の何に心を動かされたの」
法岳「ウッ・・・ 田舎に帰りたくてぇ・・・ 都会怖くてぇ・・・」
法岳「もう限界なんです・・・ せめて「帰った気分」だけでも 味わいたくてぇ・・・」
警官「ホームシックかぁ。分からなくはないけど」
法岳「都会、どこ行っても カッコーが鳴いてるし、 しかも僕が信号機に登ってても みんな見向きもしないし、」
法岳「バイトは落ちるし、 都会なのにいつも家の前に 動物のフン落ちてるし・・・」
法岳「せめてよく通るこの信号だけでも ホーホーホッホー↑ にしたくてぇ・・・」
法岳「ダメですか?」
警官「ダメだよ。 ていうか、田舎に帰りたいなら 帰ればいいだろ」
法岳「友達と約束したんです。 BIGになるまで帰らないって・・・」
警官「口約束でしょ? だったら法的拘束力はないから さっさと帰りなよ」
法岳「そういうのじゃなくて、 男と男の約束だから帰れないんです!」
警官「面倒くさいなぁ・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
警官「それで・・・お兄さん、名前は?」
法岳「法岳 守(ほうだけ まもる)です」
警官「すごい名前だね・・・年齢は?」
法岳「19歳です」
警官「まだ未成年なんだ。 実家が恋しくもなるか・・・職業は?」
法岳「大学生です。これ、学生証です」
警官「学生証って、ズボンとベルトの間に 挟んで持ち歩いちゃダメだと思うよ・・・ 落とすから」
警官「あ、結構いい大学だね。すごい」
法岳「ウッ・・・ でも僕、こんなところでこんなこと してる場合じゃないんです・・・」
警官「本当にね」
警官「ちなみに、BIGになるって 具体的にどういうことなの?」
法岳「僕、マジシャンになりたいんです!」
法岳「あっ、身体検査とかします!? 身体検査!」
警官「おっと、面倒なことになったかも しれないぞ」
法岳「問題です! 僕の体の、どこに、何が 隠れてるでしょ~か!」
警官「・・・さっさと終わらせよう」
警官「・・・指が不自然に曲がっている。 じゃあ、手の中に鳩!」
法岳「コインです」
警官「コインかぁ」
法岳「なんで上回るんですか! 手の中にコイン隠すのだって すごいんですよ!」
警官「いや・・・ それはほんとにごめんって」
法岳「はい、他には!?」
警官「まだやるの? う~ん、ポケットから国旗とか」
法岳「ソーセージです」
警官「それは本当になんで?」
法岳「差別化を図ろうと思って」
警官「ポケットベタベタだよ・・・」
警官「あと、ポケットからソーセージ出てるの 割とグロいからやめた方がいいよ」
法岳「はい!最後!」
警官「まだあるの?」
警官「う~ん・・・ マジシャンって、どっかから花束が 出てくるイメージなんだけど」
法岳「半分正解!」
法岳「答えは・・・」
法岳「口の中から一本のバラ!」
警官「うわっ、こっちに向けないで、汚いから」
法岳「汚くないです! 元々は袖口に隠してたやつですし! あっ言っちゃった」
警官「聞いたからって 僕にはできないからしまっといて・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
警官「とにかく、もう信号機の音 変えようとしちゃダメだからね」
警官「そんなんで捕まっちゃ、 友達も悲しむでしょ」
法岳「確かにそうですね・・・」
警官「あと、たとえどんな約束を 交わしたとしても、 寂しいときはちゃんと寂しいって 言った方がいいよ」
警官「本当の友達なら、 その時はちゃんと寄り添ってくれるはずさ」
法岳「お巡りさん・・・」
警官「じゃ、今回は注意だけにしとくから。 今度名前を聞くのは、 BIGになったときだけにしてくれよ」
法岳「・・・ありがとうございます。 俺、1回田舎に帰ろうと思います!」
警官「うん、それがいいよ」
法岳「じゃあ、元気で、お巡りさん! あ、背中になんか付いてますよ。 それじゃ!」
警官「はいはい、元気でね」
警官「全く、人のこと心配してる場合じゃねえだろ・・・」
警官「あっ」
警官「バラの花だ・・・」
〇コンサートの控室
署に戻り、休憩室でSNSを開く。
【たまたまスクランブル交差点の
ライブカメラ見てたら、
やべえマジシャンいたんだがwww】
・・・思わず苦笑が漏れた。
警官「・・・・・・彼がBIGになる日も、案外遠くないのかもしれないな」
優しい。話をうけとめる、カウンセリングを受けたような読後感。お人柄なのでしょうか、感謝。
ツッコミやボケがどれもツボにハマって面白かったです😂!笑
「田舎を思い出したいから信号機の音を変えたい」というスケールのデカさを見せてくるくらいの子なので、きっと将来もビックになれるんだろうなと👍笑
警官に職質されながら、自自分がどれだけ地元を恋しがっているか分かったんだろうなあ。都会にはそんな若者が沢山いるんだろうなあと想像しました。