渋谷いく子が渋谷に行く

枕蔵

読切(脚本)

渋谷いく子が渋谷に行く

枕蔵

今すぐ読む

渋谷いく子が渋谷に行く
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇綺麗な部屋
  私の名前は渋谷いく子。
  一度も渋谷に行ったことがない
  この名前で渋谷に行ったことがないのは、キャラ作りのためだった。
  「渋谷いく子ちゃん? めっちゃ渋谷行ってそうー!」
  「いいえ、一度も行ったことがないんです」
  その一連の会話のためだけに、家からさほど離れてないのに、行ったことがなかった。
  ある日ふと気づいた。
  
  『この会話のどこが面白い!?』
  だから私は、明日の
  二十歳の誕生日に、ひとりで渋谷に行くことにした。
  実はドキドキして、眠れない。
  明日の準備をしっかりする。
  ハンカチ
  カメラ
  財布
  平たい石
  平たい石はいらないか。
  やっぱり私は緊張している。
  明日、大丈夫かな──

〇渋谷のスクランブル交差点
  ついに、ついに渋谷に来たぞ。
  私にとっては滝行と同じなので、白装束を身に付けた。
  さあ、踏み出そう。
  これが、渋谷か!
  
  凄い!
  
  とにかく凄い!
  渋谷!
  
  渋谷!
  
  渋谷!
ナンパ師「お姉さん! どこ行くの?」
ナンパ師の弟子(さ、流石師匠! 白装束の女子に、躊躇せず話しかけている!)
渋谷いく子「目的地はここです。 渋谷です」
ナンパ師「渋谷のどこ行くの? 買い物? ランチ?」
渋谷いく子「まずは純粋に渋谷を味わってます。 目的地を決めてしまったら、渋谷が薄まりそうで」
ナンパ師「ふーん、そうなんだ! 渋谷の濃いところ案内するよ!」
ナンパ師の弟子(突拍子もない女子の言葉に少しも引いた素振りを見せていない!師匠すごすぎます!)
渋谷いく子「滝行はひとりで行うもの。渋谷行もひとりで行います。ただ、方角だけは示して頂きましょう、折角なので」
ナンパ師「そっかあ。残念。でも気が向いたら、遊ぼうね。方角は、あっち!」
ナンパ師の弟子(諦める姿もスマートだぜ! 方角まで指し示せる度量!)
渋谷いく子「ありがとうございました。それではあちらに進んでみます」
  渋谷いく子は、指し示された方角に歩みを進めた

〇SHIBUYA109
渋谷いく子「みんな、私を避けてくれたみたい。 雑踏でも歩きやすかったな」
ナンパ師「イエーイ!また会ったね!」
ナンパ師の弟子(わざと自分が行く方角を指差すなんて、師匠は策士だなあ)
渋谷いく子「あっ! こ、こ、こ、これは!」
ナンパ師「どうしたの? おれと会えて感激しちゃった?」
渋谷いく子「私の出生日が!! 掲げられている!!」
ナンパ師「ん? もしかして109のこと? 10月9日生まれなんだね」
渋谷いく子「そうなんです!」
ナンパ師「10月9日は、散歩の日でもあるよね。シブヤ散歩会議が制定したみたい」
ナンパ師「10と9でてくてくと読むことから10月9日 らしいよ。散歩は行き先を決めないで歩くことだから、今の君がしていることだね」
ナンパ師の弟子(師匠、物知りだなあ)
ナンパ師「色んな偶然を祝って、109で買い物したらいいんじゃないかな。キラキラしたものなら、なんでも売ってるよ」
渋谷いく子「いいアイディアですね!」
ナンパ師の弟子(師匠、ナンパを超えて、観光案内の人みたいだ!)
渋谷いく子「本当にありがとうございました。 お礼がしたいです 何かあるかな」
  ゴソゴソ
渋谷いく子「平たい石しかないなあ」
ナンパ師「平たい石? いいね! もし良かったら、それに名前書いてくれない?」
ナンパ師の弟子(おっ、ここで、IDを聞き出して、あとで連絡の流れだな!)
渋谷いく子「分かりました。 はい、どうぞ」
  渋谷いく子
ナンパ師「渋谷いく子さんって言うんだ!」
渋谷いく子「今日、初めて渋谷に来たんです。私は渋谷をずっと意識し続けてきました。訪れないことで」
渋谷いく子「でもそれは、間違いだったのかもしれません。名前なんて関係なく、ただ行けば良かった、楽しめば良かったって」
ナンパ師「・・・・・・・・・」
ナンパ師「僕は今まで色んな人をナンパしてきたけど、実は渋谷をナンパしていたのかもしれない」
ナンパ師の弟子(師匠何言ってるんだろう?)
ナンパ師「君という存在で気付く事が出来たよ。 この石は僕のお守りにするよ」
渋谷いく子「あなたのお名前は何というのですか?」
ナンパ師「僕の名前は、渋谷ペケっていうんだ」
渋谷いく子「それでは、これからも渋谷のマルなところをどんどん案内していってください さようなら」
ナンパ師「では、お互い、渋谷を目一杯満喫しような!バイバイ」
ナンパ師の弟子(な、ナンパとは!? いったいなんだっけ?)
  渋谷ペケは、丸い石を懐に入れて歩き出した。渋谷という街との恋がようやく実った気分だった
  完

コメント

  • 超脱力小説、略して「ゆる説」、本当に色んな型がありますね、笑の呼吸一の型、ペケがツボ剣、感謝。

  • まるでRPGのように物語がサクサク進むので
    とても見やすかったです😌
    渋谷確かに色々なものに溢れているので、
    ある意味一種の修行なのかもしれません🤔笑

  • すごくしょうもないお話でしたが、そのしょうもなさがおもしろかったです!どうでもいいことに捉われてることってありますよね。でも一歩踏み出した渋谷さんはすごいです!

コメントをもっと見る(6件)

ページTOPへ