とある日の渋谷(脚本)
〇渋谷駅前
渋谷を代表するスクランブル交差点の信号が青に変わり、
ユウジは動き始めた人の流れに乗って横断を開始する。
前からだけではなく横からもすれ違う人影を彼は器用に紙一重で避ける。
地方から大学生として上京した彼からすれば、かつては人の多さに戸惑っていた渋谷だが、
東京で二年間を過ごした今では特に意識しなくても、戸惑うことなく反対側に辿り着くことが出来るようになっていた。
そんな人混みにも慣れたユウジだが、最近、気になることがあった。
この交差点でたまにすれ違う女性のことである。
彼女の年齢はユウジと同じか僅かに下くらいだろう。
髪をやや短めに切り揃えてカジュアルな服装をしていることが多い。
目を見張るような美人ではいが、なかなか可愛らしい顔付きをしている。
もっとも、これは最近になって気付いたことである。
女性のことを意識し出したのは、これから向かうアルバイト先で彼女の姿を見掛けた日は、
ミスをすることなく無事に終えることが出来ると気付いたからだ。
もちろん、ユウジも女性と自分のアルバイトに因果関係があるなど本気で信じてはいない。
ただの偶然だろう。それでも、彼は女性のことを〝ラッキーガールと〟呼んですれ違うことを期待していた。
そんな調子で歩くユウジの目に探していた女性の姿が映る。
ユウジ「『やった! 今日はついてるはずだ!』」
胸の中でそう呟いたユウジは喜色を浮かべてアルバイト先に向う。
今日は全てが上手く行くと信じながら。
〇渋谷駅前
ユウジ「ふう・・・」
交差点を渡りながらユウジは小さな溜息を吐く。
〝ラッキーガール〟と思った人影が別人だったからだ。
彼が最後に彼女とすれ違ってから既に二週間前が経過していた。
一日に数万人あるいは数十万人が利用する渋谷駅周辺である。
本来、接点のない者同士が何度もすれ違う方が稀なのだが、
何時しか彼は〝ラッキーガール〟を待ち焦がれるようになっていた。
もっとも、この二週間。ユウジはアルバイト先を目立った失敗をすることなく務めている。
客観的に見れば〝ラッキーガール〟に出合ったから運気が上がったということはないだろう。
それでも彼女の存在を深く意識しているのは、ユウジの別の感情からだった。
ユウジ「『こんなことなら、前に声を掛けて連絡先を交換すれば良かった・・・』」
白い枠線を間もなく渡りきようとしたところでユウジは過去の自分を悔やむ。
今更ながら、自分の本当の気持ちに気付いたからだ。
大切なモノは失ってから気付くと言われているが、彼はその言葉の意味を痛感する。
仮に連絡先の交換を断わられたとしても、それは結果である。
ちょっとした勇気を出せずに後悔している、今よりも遙かにマシだと思われた。
ユウジ「あ!!」
そんな自分を責めるユウジは突然、悲鳴にも似た声を上げる。
渡りきろうとする横断歩道の先に〝ラッキーガール〟を見つけたからだ。
彼女は点滅を始めた青信号を見て、立ち止まったところだった。
〇渋谷駅前
ユウジ「あ、あの! お久しぶりですね!」
溺れる者が浮き輪にしがみつくような勢いでユウジは彼女に話し掛ける。
口に出してから、もっと粋なことを言えば良かったと思うが、
ナンパ等一度もしたことがない彼にはこれが精一杯だった。
ヒロイン「え! あ、あなたは・・・」
ヒロイン「ああ、たまに・・・ふふふ、そうですね。お久しぶりですね」
女性は突然、見知らぬ男に声を掛けられたことで驚いた表情を見せるが、
ユウジの顔を確認したことで微笑を浮かべる。
ユウジ「えっと・・・いきなりですけど・・・俺、」
ユウジ「い、以前からあなたのことが気になっていたんです!」
ユウジ「よ、良かったら連絡先を交換して頂けませんか?!」
その笑顔の元気付けられたユウジは決心しながら目的を告げる。
ヒロイン「ええ・・・良いですよ」
ヒロイン「実は私も・・たまに見かけるあなたのことが少し気になっていましたから」
ユウジの申し出に女性は快諾するも、後半は少し照れた様子を見せる。
ユウジ「本当ですか! あ、ありがとうございます!」
自分の気持ちが一方通行でなかったことを知ったユウジは歓喜に満ちたお礼を告げる
〇渋谷駅前
ユウジ「それじゃ、バイトが終わったら改めて連絡します! また今度!」
ヒロイン「はい。ぜひ、遊びに誘って下さい!」
簡単な自己紹介して連絡先を交換した二人は交差点を別れてそれぞれの目的地に向う。
名残惜しいがお互いに予定がある。いつまでも浮かれているわけにはいかず、ユウジは早足にアルバイト先に向う。
もう彼女は交差点でたまにすれ違うラッキーガールではない。
最初の一歩を踏み出すことは出来た。後は自分の努力次第だ。
ユウジ「ラッキーなのは、この交差点そのものだったんだな!」
後ろを振り返ってスクランブル交差点を見つめると、ユウジはそう呟くのだった。
彼の勇気がもたらした結果が
こうして報われていて素敵ですね✨
セリフ量が少ないのがまたこの作品の特色だと思いました😌
同じこと行ったら逃げられそう!笑
ただし、イケメンに限る的な感じで涙
出勤するときって、同じ時間に出ると同じ人とすれ違うことって結構ありますよね。私も顔覚えてます。
今の時代にもしこんな出会いをする若者がいるとしたら、どんなに素敵でしょう! 莫大な人数が動く巨大都市だけに相手を選ぶ選択肢も計り知れないけれど、ビビットきた相手にアタックする(すみません、年代が・・)勇気そのものがすばらしい。どうか上手くいきますように!