ハードボイルドガール

月暈シボ

エピソード36(脚本)

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〇簡素な一人部屋
麻峰レイ「ええ・・・これは間違いなく私の靴です」
及川マスミ「間違いないのね?」
麻峰レイ「間違いありません・・・内側のここにイニシャルでR・Aと書いてあるのが証拠です」
  及川の問いにレイは小声ながらも澱みなく答える。
  ランドリー袋の中から発見された三足の靴は、早速とばかりに部屋の外で待機していたレイの検分を受け、
  その中の一足が彼女の物であることが確認された。
  これで経緯はともかく、紛失したレイの靴が俺の部屋で見つかった事実が確定する
本田ヨシオ「とりあえず、君達は自分の部屋に戻りなさい。この靴は正式な手続きを経てから返還する。安心して欲しい」
及川マスミ「・・・あなたには私達と一緒に来てもらうわ」
  本田は検分を終えたレイとそれを見守っていた川島の二人にこの場から去るように告げ、
  開いた扉からその様子を眺めていた俺には及川が別の処遇を告げた。
「違います、これは・・・」
麻峰レイ「残念だよ・・・最低だ! 君が靴を盗んでいたなんて!」
麻峰レイ「私を騙していたんだな! 見損なったよ・・・時間さえ、時間さえ掛ければ私達は間違いなく親しくなれたのに!」
  及川に弁明をしようとする俺に対して、涙を流して激昂するレイが遮る。
  それを受けて俺は震えながら頭を垂れた。誤解ではあったがレイにここまでさせてしまっては、回りに見せる顔がなかったのだ。
及川マスミ「本田先生!」
本田ヨシオ「ええ・・・今言ったとおりだ。二人とも早く自分達の部屋に戻りなさい!」
川島ミスズ「は、はい! レイ、とりあえず行きましょう! 何かの理由があったのかもしれないし・・・」
  レイの様子に及川と本田は事態の収拾を急ぎ、川島も泣き崩れる親友を宥めながらその手を引いてその場から遠ざける。
本田ヨシオ「では、場所を変えて詳しい話を聞かせてもらおうか?」
  残された俺は本田から抑揚のない声でそう告げられるのだった。

〇小さい会議室
及川マスミ「なぜ、あなたの部屋に紛失届が出されていた靴があったのか、説明が出来ますか?」
及川マスミ「・・・言える範囲で良いから教えて欲しいの」
  再び生活指導室に連れて来られた俺は及川から質問を受ける。
  決定的な証拠が見つかっていたが、彼女の声には未だ生徒を労わる優しさがあった。
  もっとも、別れ際に掛けられたレイの言葉と姿もあって、俺は及川達と正面から向かい合う気力はなく項垂れたままである。
「わかりませんが・・・おそらくは真犯人が俺に濡れ衣を着せるためにしたのでしょう・・・」
本田ヨシオ「なるほど、第三者の仕業だと主張するのだね?」
  顔を上げて答える俺だが、ここで本田が質問役を交代し確認を求める。
「そうです」
本田ヨシオ「それが誰かわかるかね?」
  流石の本田もいきなり俺を盗難の犯人だと決めつけるようなことは口に出さないが、
  代わりに外堀を埋める質問を間髪入れずに繰り出す。
「それはさすがに・・・わかりません・・・」
  本田の質問に俺は言い澱む。何しろその疑いのある本人を目の前にしているのである。
  俺としてはランドリー袋に靴を入れたのは本田だと思っている。おそらくは部屋を調べる前から仕込んでいたのだろう。
  だが、それをこの場で指摘するのは躊躇われた。今はまだ手の内を見せる時ではないからだ。
本田ヨシオ「君のくらいの年齢なら、女子に大きな興味を持つのは仕方のないことだ」
本田ヨシオ「しかし、その欲求が不健全な形で出てしまうのは問題だ。やり直すためにも正直に事実を告げるべきだ」
本田ヨシオ「今なら内密に処理することも出来る。でもそれには君の反省が必要だ」
本田ヨシオ「被害者の麻峰達に許してもらうためにも、まずは自分のしたことを認めるべきだろう?」
  俺の具体性のない指摘を苦し紛れの言い訳と判断したのか、今度は諭すように俺に自白を迫る。緩急をつけた上手いやり方だ。
「確かに可愛い女子のことは気になりますが・・・靴が欲しいとは思ったことは無いです」
「・・・女の子そのものはともかく、履いている靴は・・・所詮、靴ですから」
  レイの名前を出されたことで再び俺は頭を垂れるが、
  盗難はもちろんのこと女子の靴に執着する変態行為についても真っ向から否定する。最後の言葉は駆け引き無しの本音である!
本田ヨシオ「・・・靴そのものを欲しなくても、それを切っ掛けにして関係を深める手段にすることは出来る」
本田ヨシオ「現に君は麻峰と親しい間柄になっているのではないか?」
「確かにレ、麻峰さんとは親しくなりましたが・・・」
  靴の盗難は執着ではなく、手段であったと言い換えながら本田は客観的事実を指摘し、俺もそれを認める。
本田ヨシオ「うむ。そして、君は以前から彼女を魅力的だと思っていたのではないのか?」
「それも・・・否定しません」
  本田のペースに乗せられているとは気付いていたが、俺は続いて首を縦に振る。
  人類の若い雄(おす)でレイに興味を持たない者など、マイノリティにも程があるからだ。
本田ヨシオ「更に君はG寮で共に生活する長身の女子達にも興味を持っていたのではないか?」
本田ヨシオ「もしかしたら無意識の内に好みの女性の気を引く為に、君は彼女達の靴をぬす・・・集めていたのかもしれない」
「いや・・・それはないです!」
本田ヨシオ「本当にそう断言出来るのか? 靴を紛失した女子生徒達に全く興味を持っていなかったと言えるのか?」
「それは・・・」
  飛躍した本田の追及を俺は一旦否定するが、レイ以外の被害者達のことを思い出すと断定を避ける。
  確かに彼女達は皆、スラリとしたスタイルの持ち主で、彼の好みに合っていたからだ。
  特にバレー部の後輩はその豊満なバストが印象に残っている。
「正直に言えば・・・完全に否定は出来ません。ですが、靴を盗むようなことは絶対にありえません」
  俺は一部の問いは認めつつも、靴に関してだけは完全に否定をする。
本田ヨシオ「いい加減に自分の行動を認めたらどうだ?! 君の部屋から紛失届が出ている靴が見つかっている!」
本田ヨシオ「このような決定的な証拠があるにも関わらず、いつまでも否定するとなると、退学処分も考慮にしなければならない!」
本田ヨシオ「君が認めて反省するのなら、学園としても情状酌量を用意することが出来る。良く考えて、これらからの将来を考えなさい!」
  俺と本田の押し問答がしばらく続いたが、犯行を認めない俺に業を煮やしたのか、本田はついに厳罰である退学を仄めかす。
及川マスミ「本田先生・・・それはさすがに」
  それまで俺と本田のやり取りを見守っていた及川が嗜める声を上げる。
  例え、俺の部屋から盗まれた靴が見つかったとしても、それが必ずしも彼が盗んだ証明とはならない。
  俺が主張する真犯人の陰謀等の可能性もあるからだ。
本田ヨシオ「・・・確かに言い過ぎたかもしれませんが、反省もせずに、我々への協力を拒むのならば、」
本田ヨシオ「〝それ〟も視野入れる必要があるはずです!」
及川マスミ「もちろんですが、それは本当の最終手段です。まずは生徒から自発的に打ち明けられるのを待ちましょう」
及川マスミ「彼も時間を掛ければ最良の判断をしてくれるでしょう」
本田ヨシオ「しかし、それでは・・・」
  及川の考えに本田が何かしらの反論を告げようとしたところで生活指導室にノックが響く。
  仕様上、この部屋はプライバシー保護の為、廊下側に窓は無い。俺を含めて三人は突然の来訪者の存在に驚くこととなった。
及川マスミ「とりあえず、確認します」
  扉側に近い及川が立ち上がって扉を開けると、そこにはレイを含む三人の人物が立っていた。

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