渋谷恋花

ササキタツオ

読切(脚本)

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〇渋谷駅前
  五月の連休明け。
  高校が始まって二カ月が経った。
  まだ慣れない、乗換駅の渋谷。

〇駅のホーム
  五月の連休明け。
  高校が始まって二カ月が経った。
  まだ慣れない、乗換駅の渋谷。
  私は、親友の春香と渋谷の駅のホームで時間をつぶしていた。
望実「さくらばな、今ぞ盛りと、人は言へど、我れは寂しも、君としあらねば」
春香「また万葉集?」
望実「いい歌でしょ」
春香「のぞみ。恋? 恋の予感ですか?」
望実「ないない。そんなんじゃないよ」
春香「相手はどこのどいつだ?」
望実「だから違うって」
春香「つまんないー」
望実「さくらばな、今ぞ盛りと、人は言へど、我れは寂しも、君としあらねば」
望実「覚えた!」
春香「勉強家だねえ。それ、恋の歌?」
望実「うーん。どうだろ」
春香「え? 違うの? 要は、君に会えなくてさびしいーって話でしょ?」
望実「この歌は大切な友達に贈った歌なんだって」
春香「へえー。それじゃあ、よっぽど好きだったんだねー。そのオトモダチのこと」
望実「オトモダチって・・・」
春香「あっ、望実。いま、頭の中に浮かんだ人の事当ててあげよっか?」
望実「え?」
春香「瀬田君のこと思い浮かべたでしょ?」
望実「な、なに言ってるの!?」
春香「いま、しまったー!って、そういう顔した」
望実「どんな顔だよー」
春香「まだ後悔してるんでしょ。卒業式の時、告白しなかった事」
望実「瀬田君は! ただの友達!」
春香「あー寂しいなあ。そういうウソ」
望実「イジワル・・・」
春香「瀬田君、どうしてるだろうねー?」
望実「きっと元気だよ!」
望実「もうこの話は終り!」
春香「えー。つまんなーい。もっと恋しようよ」
春香「私はできたよ。好きな人」
望実「え!? 誰? どこの誰!?」
春香「望実だよ!」
望実「あのね!」
春香「ま、正直になるまで教えなーい」
望実「ずるーい」
  その時、ホームに電車が入ってきました。
  その電車はいつもと違っていました。
  なぜなら、私たちの前に止まった車両には、瀬田君が乗っていたからです。
瀬田君「あ、工藤さん」
望実「せ、瀬田君!」
春香「おう! 瀬田じゃん! 久しぶり!」
瀬田君「あ。渡辺さんも! 久しぶり!」
春香「あ! 望実! 私、忘れ物したから、学校戻るわ!」
望実「え!? 春香!?」
春香「じゃあ、またねー!」
  春香は私を残して去っていた。私は追いかけようとしたけれど、できなかった。

〇駅のホーム
望実「せ、瀬田君・・・久しぶり、だね!」
瀬田君「それ、さっきも言った気がするけど」
望実「卒業式、以来!? 元気してた!?」
瀬田君「まあーふつう」
瀬田君「何読んでるの?」
望実「あ、この本? これは、万葉集!」
瀬田君「万葉集・・・って令和だから?」
望実「そうそう。元になった歌が載っているやつ」
瀬田君「いいね」
望実「そうかな? 春香には、バカ真面目ってバカにされてるけど・・・」
瀬田君「僕はいいと思うよ」
望実「瀬田君! 同じ路線だったんだね! すごい偶然だなー、って」
瀬田君「そうだね」
望実「学校は、もう慣れた?」
瀬田君「宿題多くて、なんか思ってたより高校生って大変だなーって」
望実「瀬田君、真面目だから」
瀬田君「工藤さんほどじゃないよ」
瀬田君「せっかくだから、何か一つ教えてよ。万葉集」
望実「えっ・・・」
瀬田君「工藤さんの好きなのでいいから」
望実「えっと・・・・・・じゃあ・・・」
望実「さくらばな、今ぞ盛りと、人は言へど、我れは寂しも、君としあらねば! かな」
瀬田君「さくらばな、今ぞ盛りと、人は言へど、我れは寂しも、君としあらねば・・・」
望実「もう覚えちゃったの?」
瀬田君「うん。工藤さん、いい歌教えてくれて、ありがと!」
望実「せ、瀬田君!」
望実「帰りは、いつもこの時間だから・・・私!」
瀬田君「じゃあ、今度会ったら、また違う歌、教えてくれよな」
望実「うん! わかった!」
  そして、瀬田君は去っていた。
  私は改めて駅のホームを見わたした。
  大勢の人が交錯する渋谷。
  この街で再会できた奇跡を胸に。私はやっぱり彼の事が好きなんだ。
  と、そう感じていた。

コメント

  • 恋の始まりってドキドキしますね。
    二人の距離はまだそれほど縮まってなくて、これから…っていう感じがすっごくいいです。
    爽やかな一コマがキュンってするんです。

  • 青春だなぁと甘酸っぱい気持ちになりました😌
    彼らの1ページを万葉集に準えているのがとても印象的でした😊✨うまく行って欲しいですね!

  • 何の変哲もないような物語の中に、温かい風を感じました。渋谷という雑踏の中で、彼らが再会し日本最古の和歌を愛でるという設定。こんな若者たちが本当に実在するなら、なんて素敵なことでしょう!

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