読切(脚本)
〇男の子の一人部屋
12月24日 19:23
高畑ナオト「ババア!メシまだか!」
叫び声と共に、ドアに向かってペットボトルが投げつけられる。
ナオトの母「きゃあっ!」
いいから早くメシ持ってこい!
ナオトの母「・・・・・・わかったわ」
高畑ナオト「ったく・・・・・・」
オレは高畑ナオト、20歳だ。
仕事?
ネトゲでギルドを仕切ってる。
こう見えても顔は広いんだぜ?
オレの姿を見てみるか?
〇暖炉のある小屋
これがオレ、名前はルシファーだ。
TAKAC「ルシファーさん」
ルシファー「どうした?」
TAKAC「次のクエストのモンスター、かなり強いらしいんでついてきてほしくて」
ルシファー「ああ、いいぞ」
ルシファー「でも、とどめはお前がさせよ?」
TAKAC「僕がですか?」
ルシファー「そうしないと成長できないし」
ルシファー「なにより、お前ならできるってオレは思ってる」
TAKAC「ルシファーさんにそう言われるとうれしいっス」
ルシファー「がんばれよ!」
トントン
〇男の子の一人部屋
ナオトの母「ナオト・・・・・・ご飯持ってきたけど」
高畑ナオト「今忙しいんだ!そこ置いとけ!」
ナオトの母「・・・・・・はい」
高畑ナオト「まったく、忙しいのに話しかけるなよ」
高畑ナオト「わかってねえな、あのクソババア」
〇アパートのダイニング
ナオトの母「ねえ、アナタ」
ナオトの母「やっぱり私1人じゃダメなのかしら」
ナオトの母「アナタがあの時いなくならなかったら」
ナオトの母「ナオトもあんな風にならなかったのかしら・・・・・・」
ナオトの母は目の前の遺影に手を合わせた。
〇アパートのダイニング
10年前のクリスマス
高畑ナオト(10歳)「ねえお母さん、お父さんまだ!?」
ナオトの母「あ~、多分また遅れてるわね」
高畑ナオト(10歳)「え~、また?」
ナオトの母「遅刻はお父さんの得意技だからね」
ナオトの母「なんでそんなに早く帰ってきてほしいの?」
高畑ナオト(10歳)「だって今日はクリスマスのプレゼント買って来てくれるって約束だもん」
ナオトの母「ああ、そういうことね」
ナオトの母「まったく、現金な子ね」
ナオトの母「あら、電話だわ・・・・・・」
ナオトの母「はい、もしもし」
ナオトの母「ええ、はい、私が高畑ヤスユキの妻ですが・・・・・・」
ナオトの母「えっ!?」
ナオトの母「・・・・・・はい・・・・・・はい、わかりました」
高畑ナオト(10歳)「どうしたの、お母さん」
ナオトの母「お父さんが・・・・・・車に轢かれて・・・・・・」
ナオトの母「亡くなったって・・・・・・」
ナオトの母「ああっ・・・・・・あっ・・・・・・ああああ・・・・・・」
高畑ナオト(10歳)「そんなの嘘だよ・・・・・・お母さん・・・・・・」
高畑ナオト(10歳)「ねえ、お母さんってば・・・・・・嘘だって言ってよ・・・・・・」
高畑ナオト(10歳)「だって父さんは今日はクリスマスプレゼント買って帰って来るって・・・・・・」
高畑ナオト(10歳)「約束・・・・・・したのに・・・・・・」
高畑ナオト(10歳)「ううっ・・・・・・うわーーーん」
〇アパートのダイニング
ナオトの父は予約していたクリスマスプレゼントを取りに行った帰りに
ハンドル操作を誤った車にひかれて亡くなった。
帰りに通った道は、いつも使う道ではなかった。
『クリスマスプレゼントを取りに行かなければ、父は死ななかったかもしれない』
そんな思いを、ナオトも母も持っていた。
父が亡くなって以降母は女手一つでナオトを育てたが
大学受験につまづいてからは、ナオトはネットゲームの世界に溺れていた。
ナオトの母「アナタ・・・・・・」
ナオトの母「明日はアナタの命日なのに・・・・・・」
ナオトの母「あの子ったら気にもしてないみたい・・・・・・」
〇暖炉のある小屋
12月24日 23:49
ルシファー「さて、もうひと狩り行こうか」
TAKAC「すんません、明日は彼女とデートなんでもう寝ます」
ルシファー「はぁ!?」
ルシファー「お前、ふざけてんのか!」
ルシファー「デートと狩り、どっちが大事なんだよ!」
TAKAC「いや、そんなマジに怒らなくてもいいじゃないですか」
ルシファー「うるせえ!テメーみてえなのはこのパーティにいらねえ!」
ルシファー「消えろ!」
ルシファー「死ね!」
〇男の子の一人部屋
高畑ナオト「クソが!クリスマスデートとかふざけやがって!」
高畑ナオト「んっ・・・・・・くそっ」
高畑ナオト「狩りに集中してて最近ロクに寝てなかったな・・・・・・」
高畑ナオト「少しだけ寝るか・・・・・・」
高畑ナオト「狩りの時間になったらまた起きて・・・・・・」
高畑ナオト「起きて・・・・・・」
高畑ナオト「・・・・・・」
〇男の子の一人部屋
12月25日 2:15
高畑ナオト「ん・・・・・・」
サンタクロース「あ、起きちまったか」
高畑ナオト「誰だ!?」
サンタクロース「この格好だとわからないか」
サンタクロース「今この服、脱ぐよ」
高畑ナオト「と、父さん!?」
高畑ナオト「なんで生きて・・・・・・」
ナオトの父「死んでるよ、とっくにな」
ナオトの父「今日はクリスマスだから、プレゼント持ってきたんだ」
ナオトの父「ほら」
ナオトの父「お前が欲しがってゲーム機だ」
ナオトの父「あの日、渡せなかったからな」
高畑ナオト「もう・・・・・・古いよ、こんなゲーム」
ナオトの父「そっか、ごめんな、父さん、そういうの全然わかなくてさ」
高畑ナオト「オレ・・・・・・物なんていらないよ」
高畑ナオト「・・・・・・父さんに生きていてほしかったよ」
高畑ナオト「ねえ、父さん」
高畑ナオト「あの日、父さんがオレのクリスマスプレゼントを取りに行かなかったら」
高畑ナオト「父さんは生きていたんだよね」
高畑ナオト「オレが殺したようなもんだよね・・・・・・」
高畑ナオト「ごめんなさい・・・・・・」
ナオトの父「私はお前の喜ぶ顔が見たくて、プレゼントを取りに行っただけだ」
ナオトの父「事故が起きたのは、偶然でしかない」
ナオトの父「お前は気にしなくていい」
ナオトの父「胸を張って生きろ」
ナオトの父「愛してるぞ、ナオト」
高畑ナオト「父さん・・・・・・!」
〇男の子の一人部屋
高畑ナオト「父さん!」
高畑ナオト「・・・・・・夢か」
高畑ナオト「!?」
高畑ナオト「これは・・・・・・」
高畑ナオト「夢じゃなかったんだ・・・・・・」
〇アパートのダイニング
その日から、ナオトは生まれ変わった。
ネットゲームを辞めて、自力で就職先を探し、毎日必死で働いていた。
高畑ナオト「おはよう、母さん」
ナオトの母「おはよう、ナオト」
高畑ナオト「仕事、行ってくるね」
ナオトの母「気をつけてね」
高畑ナオト「うん」
高畑ナオト「おっと、これ忘れちゃいけない」
ナオトの母「お父さんのくれたゲーム機ね」
高畑ナオト「10年も遅れて渡してくるなんて、父さんらしいよね」
ナオトの母「ふふ、あの人、遅刻魔だったからね」
高畑ナオト「・・・・・・これがあると、父さんと一緒に頑張ってる感じがするんだ」
ナオトの母「よかったわね、ナオト」
高畑ナオト「うん」
高畑ナオト「じゃあ、いってきます!」
ナオトの母「いってらっしゃい!」
ナオトを見送る母の後ろで、遺影の中の父が少しだけ微笑んだ。
子を思う親の気持ちがしんみりと伝わってきました。
あの日プレゼントを買いに行かなければ…という彼の自責の気持ちを、お父さんは無くしにきたのかな?と思いました。
お父さんは心から彼に立ち直ってほしかったんでしょうね。彼も自分のせいであるという自責の念を長年抱えて辛かったですね。これから、お母さんの対してもたくさん恩返しをしていく彼の様子が目に浮かびます。
読みながらうるうるときちゃいました。本当は親想いでお父さん想いな人だったんですね。遅くはなってしまったけどお父さんからプレゼント貰えてよかったね