秘密 (前編)(脚本)
〇寂れた雑居ビル
夕暮れ時、居酒屋「渋谷愛」の前に佇む人影。
「あ、いたぞ!」という声に、その場から走り去る。
店内では、今日もノンとタケが、わちゃわちゃしながら準備中。
〇大衆居酒屋(物無し)
ノン「誘拐だろ、これは」
タケ「いやいや、身代金の要求ないんで」
ノン「じゃ、拉致だ。マイは完全に拉致られた」
タケ「本人了解して車に乗ってったの 先輩も見てたじゃないっすか」
ノン「おかしいだろ 区長がマイに何の話があんだ」
タケ「この前の、ラジオ出演のお礼とか?」
ノン「なら一緒に出たオレらも誘うべきだろ あ、きゅうり取って」
タケ「だってオレら、店あるじゃないっすか あ、鍋、ふいてますよ」
〇豪華なリビングダイニング
渋谷区長が住む高層マンション
区長「だってノンさんは声小さくて 何言ってるかわかんないし」
区長「タケさんはそもそも話自体イミフでしょ」
マイ「それでワタシって、三択にみせかけた一択 ってことですよね」
区長「マイちゃんがよかったってコメント多かったの」
マイ「よかったって、そもそもワタシ喋ってないんで、あの時のラジオ」
区長「だから、それを聞きたいってリスナーの気持ち、わかるでしょ?」
マイ「なんか病んでます? 半径5メートル」
〇大衆居酒屋(物無し)
ノン「ウラがあんだよ。お前は権力持った人間の怖さを知らねぇんだ」
タケ「先輩、区長に恨みでもあるんスか?」
タケ「あ、「渋谷愛」が区長の名前だったんで ジェラってます?(笑)」
ノン「お前シバくぞ。お、火止めろ」
タケ「オレもあの時、区長の名前見て マジ再検索しましたもん」
タケ「渋谷区長の名前が「渋谷愛」って フツーぶっ飛びますよね」
ノン「俺はマイのこと言ってんの」
タケ「店長の推し活もハンパないっす」
ノン「うるせーよ。仕事しろ。手動かせ」
タケ「店長、愛って呼んでましたよね 「愛のやつ、突然押しかけて悪かったな」」
ノン「似てねぇよ」
タケ「純愛っすね」
ノン「・・・」
タケ((弱点みーっけ・嬉!))
〇豪華なリビングダイニング
マイ「権力の手先になるつもりないんで」
区長「そんなんじゃないから 好きに喋ってくれていいの」
マイ「ウザって晒されるのヤなんで」
区長「なにか言えば必ず賛否両論はある けど、反論も人気のうち」
マイ「別に政治家とかコメンテーターになるつもりないんで」
区長「いろんな経験つんだ方が、人生プラスにならない?」
マイ「経験によります」
区長「声優めざしてるんでしょ。誰がマイちゃんの声聞いてるかわかんないじゃない」
マイ「夢見るほど若くないんで」
区長「あのコーナー、区長が一方的に喋ってるだけだってコメントも多くて・・」
マイ(大きく頷きます)
区長「で、この前の対話形式が意外とウケたの」
マイ(世も末か)
区長「ウチの店にも来て欲しいとか」
マイ(それ、ヤラセです)
区長「ゲストやレギュラーで出演したいって売り込みも結構きてね」
マイ(じゃ、そういうヒトに出てもらって)
区長「デジタル化、ペーパーレス化の推進には Z世代の支持がマストなの」
マイ「ウチら既にそうなってるんで 別に推進不要です」
区長「じゃなくて、一般の市民生活もデジタル化しましょうって話」
マイ(どーぞ、ご自由に)
区長「こういう取り組みをZ世代がどう思うか リアルな声をラジオで伝えたいのよ」
マイ「ワタシ別に世代の代表とかじゃないんで てか、そもそも渋谷区民でもないし」
区長「剛ちゃんがね、絶対マイちゃんがいいって激推しなのよ。俄然ハッスルしちゃって」
マイ(ハッスル??)
区長「剛ちゃんね、いつも言ってんの」
「マイちゃんはいい子だ、デキる子なんだ」
「コミュ力低くて損してるけど、言いたくても言えないことをズバッと言ってくれる」
マイ(コミュ力低いは余計です)
区長「ハチペイ入れた時もね、表向きには私の応援なんて言ってるけど、ホントはね・・」
区長「「現金のみの店はじきに潰れる」ってマイちゃんの一言がこたえたのよ」
〇古いアパートの部屋
(マイの回想)
マイ「ワンコイン握ってくるお客はあと数年で絶滅」
マイ「財布もってない現役世代は そもそも現金のみの店には行かない」
マイ「そして「渋谷愛」はひっそり閉店」
〇豪華なリビングダイニング
マイ「あれはノンに言っただけで・・」
区長「あの後ノンさん、両替の手数料浮かすために、神社回ってお賽銭の両替始めたでしょ」
区長「剛ちゃんね・・」
「あいつら走らせるなんて、俺サイテーだな」
「俺の勝手で店潰せないもんな」
区長「・・ってハチペイ入れたの」
区長「(インターホン)はーい、あ、剛ちゃん」
マイ(店長!?(ドキッ))
区長「(インターホン)はーい、今開けまーす」
マイ「あのー」
区長「剛ちゃん、今あがってくるから 今日は一緒にご飯食べよ」
マイ「いや・・ あの・・ 失礼します!」
区長「あ、マイちゃん、待ってよ! 剛ちゃんの手料理美味しいんだから・・」
〇マンションの共用廊下
バッグをつかんで廊下に飛び出すマイ。
エレベーターのボタンを何度も激押し。
マイ(早く、エレベーター、早く来い!! (ボタンを連打)店長が来ちゃう・・)
ようやくきたエレベーターのドアが開くと、そこには・・
マイ(あ・・店長・・)
俯いて目を合わさずエレベーターに乗り込むマイ。ドアに背を向け、閉ボタンを連打。
「・・!?」とマイに気付いた店長の目の前で、エレベーターのドアが閉まった。
マイ(どうしよう、見ちゃった 店長と区長ってそういう関係なんだ)
マイ(渋谷区長が支援者と男女関係・・ ヤバい、誰にも言えない)
マイ(誰にも言わないって店長に言っといた方がいいか、いや改まって言うのは違うか)
〇寂れた雑居ビル
夜の街を歩くマイ。パラパラと雨が降り始めていた。
マイ(今日、降るんだっけ・・最悪・・)
営業を終えた「渋谷愛」。
看板を店内に入れるタケの姿が見えたが、マイはそのまま通り過ぎる。
〇大衆居酒屋
ノン「おぃ、飯できたぞー」
タケ「あ、オレ今日ちょっとあるんで」
ノン「んだよ、食わねぇなら先に言えよ 作ってんの知ってんだろ」
タケ「たまには店長と二人飯で・・ あ、店長、今日も早上がりだった」
タケ「こんな雨なのに、どこ行ってんスかねー」
ノン「・・・」
タケ「じゃ、お先しまーす(たまらーん・快感)」
ノン(あいつも最近どこ行ってんだ・・)
〇寂れた雑居ビル
少年が外から「渋谷愛」を窺っている。
ノン「(少年の背後から)おぃ、なんか用か」
少年(・・(びくっ))
ノン「まあ、中入んなよ そんなとこいても濡れるから」
〇大衆居酒屋
ノン「タケなら今日はもうあがったよ あれなら電話したら」
ノン「あいつの用事なんて どうせコンビニ寄るくらいだから」
少年「ダイジョブです(小声)」
ノン「こんな時間まで帰んないで ウチの人心配するだろ」
ノン「なんだ、飯まだか? 食ってっか? 丁度タケの残りがある」
少年「金ないんでいいです」
ノン「は? 俺が青少年から金とると思ってんの?」
少年はまかない飯を一気にかっこむ。
少年「このコロッケ、日曜食堂のとおんなじだ (独り言)」
ノン「うまいか」
少年「(頷く)」
ノン「日曜食堂でボランティアしてんのか」
少年「(頷く)」
ノン「偉いな、小学生なのに手伝って」
少年「中学です」
ノン「マジか」
少年「ご馳走様でした」
ノン「立ち入ったこと聞くようだけどさ タケに用って、なんか相談ごと?」
少年「・・」
ノン「いや、あいつ時々異世界浮遊するからさ 少年の悩み相談にのれんのかなぁって」
少年「すいません、お邪魔しました」
ノン「あ、おい、傘持ってけよ!」
〇寂れた雑居ビル
ノン「おーい、待てよ!」
ノン「日曜食堂の配達明日だから、 タケ、明日ならいるよ!」
ノン「・・・」
(後編に続く)
区長と店長の関係も気になるところですが、謎の少年の登場がなんとも不穏な雰囲気を醸し出していて、よりその後の展開が気になります。マイちゃんは、本当に肝が座った女性ですね。
いつものわちゃわちゃした雰囲気があまりなくて、ちょっとワケありな展開ぽいですね。タイトルの「秘密」と謎の少年との関係が気になります。後編も楽しみ。