谷底から昇る歌

三雲ユウリ

読切(脚本)

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〇渋谷駅前
  渋谷──谷底に位置する流行の発信地。
  谷底にはものが流れ落ちてくる。
  それは情報。流行。人々。感情。
  混沌は、不思議な世界を作り出した。
  誰もいない静かな異世界を。
  ──くだらない噂話。
神山ミオン(でも、それを信じたい)
  目の前の大型ビジョンを見上げる。よくあるCMが流れていた。
神山ミオン(数ヵ月前は私のPVを流してたのに)
  もう二度とそんなことは起こらない。
  若いだけだよね
  なんで人気なの?
神山ミオン(私は、もう曲なんて書けない)
  スクランブル交差点の横断歩道を渡る。
  大型ビジョン前から四角形を描くように。
  その後対角線状になっている線を往復。
  大型ビジョンを見上げ──

〇渋谷のスクランブル交差点
  ようこそ、裏渋谷へ
  大型ビジョンの表示が切り替わる。

〇渋谷のスクランブル交差点
神山ミオン「人がいなくなった!?」
神山ミオン(本当だったんだ。なんか、安心する)
  目的なんかない。ただ消えたかった。それだけ。
  ~♪
神山ミオン「ギターと歌?」
神山ミオン「誰か、いるの?」
神山ミオン(一人になれたと思ったのに)
神山ミオン「でも、気になるかも」
  好きな曲調だった。
  誘われるように、音の方へ歩く。

〇渋谷のスクランブル交差点
神山ミオン(見つけた)
藤ケ谷アヤネ「~♪」
藤ケ谷アヤネ「どうだった?」
神山ミオン「すごく、いい歌だった」
藤ケ谷アヤネ「ほんとー?嬉しいな、MINEにそう言って貰えるなんて」
  才能ない
  やめれば?
  SNSで見た言葉を思い出す。
神山ミオン「知って、るの?」
藤ケ谷アヤネ「もちろん!同世代なのに人気すごいし! こないだも──」
神山ミオン「もうやめて! 私はそんなんじゃない!」
神山ミオン「MINEなんか・・・!」
藤ケ谷アヤネ「何か、あったの?」
神山ミオン(会ったばかりの子に八つ当たりとか・・・)
藤ケ谷アヤネ「こっち座る?」
  不快になって当然なのに、彼女は微笑んだままだった。
神山ミオン「──」

〇渋谷のスクランブル交差点
藤ケ谷アヤネ「叩きか・・・」
神山ミオン「だいぶ規模が大きくて。知らなかった?」
藤ケ谷アヤネ「あ、あぁ。そうなの。私そういうの疎くて」
藤ケ谷アヤネ「曲さえあればいいっていうか。聞けばわかるし」
藤ケ谷アヤネ「私がミオンの曲好きだって気持ちとかさ」
神山ミオン(アヤネにはあるんだ。他人に左右されない強さが)
藤ケ谷アヤネ「あとさ、聞いてる人の顔とか、歌ってる人の顔見るの好きなの、私」
藤ケ谷アヤネ「さっきもね、ミオンの顔見れて良かった」
藤ケ谷アヤネ「ミオンがまだ音楽好きなんだって」
藤ケ谷アヤネ「曲作りたいって、こっち側の表情してた」
神山ミオン「そう、なのかな」
藤ケ谷アヤネ「きっと」
藤ケ谷アヤネ「ね、もっと喋ろ! せっかく同世代の子と喋れるんだし」
藤ケ谷アヤネ「悲しい話より、楽しい話がしたいな」
神山ミオン「う、うん」
  勢いがすごい・・・
神山ミオン(けど、もう少し喋っていたいかも)

〇テーブル席
神山ミオン「ケホッ」
  しばらく話していると、少し体調が悪くなってきた。
神山ミオン(アヤネ、薬取ってきてくれるらしいけど、この世界慣れてるのかな)
  カフェで休むことにしたけど、当然誰もいない。不思議な世界。
神山ミオン(早く帰ってこないかな)
  一人になりたかったはずなのに、どうしてか今は寂しい気がした。

〇ハチ公前
藤ケ谷アヤネ「なに?急に呼び出して」
赤真ゼン「何ってお前さぁ。あの子殺すつもりか?」
藤ケ谷アヤネ「なんのことよ」
赤真ゼン「わかってんだろ、この世界のこと」
赤真ゼン「万物が落ちていく谷底の街」
赤真ゼン「死者と生者が長く関われば、生者は力を吸いとられて死ぬ」
藤ケ谷アヤネ「分かってる。それで私は蘇れるんでしょ」
藤ケ谷アヤネ「だってむかつくじゃん!」
藤ケ谷アヤネ「私達はずっと『扉』であの子の曲聞いてた」
藤ケ谷アヤネ「あんな曲が作れて、評価されて・・・ まだ命があるのに」
赤真ゼン「まぁ、お前も音楽やってたし、事故で夢が途絶えたのも知ってる。けどさ」
赤真ゼン「本当にそれでいいのか?」
藤ケ谷アヤネ「いいの」
赤真ゼン「はーあ。まぁ、後悔すんなよ」
赤真ゼン「しゃーねぇ、一肌脱ぐか」

〇テーブル席
藤ケ谷アヤネ「ミオン、寝てる?」
藤ケ谷アヤネ(このままそばにいれば、私は蘇れる)
  本当にそれでいいのか?
藤ケ谷アヤネ「──」
神山ミオン「ん、アヤネ?」
藤ケ谷アヤネ「あ、おはよ」
神山ミオン「おはよ。ねぇアヤネ、さっ──」
赤真ゼン「よっ」
神山ミオン「え、誰?!」
赤真ゼン「俺?愉快な幽霊くんだよ」
神山ミオン「ゆ、幽霊?」
赤真ゼン「そ。いるのも当然だろ?誰もいない渋谷なんてさ、普通なわけないじゃん」
神山ミオン「冗談、ですよね?」
赤真ゼン?「冗談じゃないんだわ。 俺さ、生き返りたいんだよね」
赤真ゼン?「この体すぐこんなんに戻っちまうし。あんたらの命くれない?」
神山ミオン「アヤネ、逃げよう!」
藤ケ谷アヤネ(え、どういうこと? こんな予定なかったし。どうすればいい?)
神山ミオン「げほっ、ごほ」
藤ケ谷アヤネ(ミオン、もう生気が殆どない・・・! ゼンもよく分からないし、どうしたら!)
藤ケ谷アヤネ「ミオン、こっち!頑張って!」
赤真ゼン?「・・・」
赤真ゼン「行ったか」
赤真ゼン「アヤネ。 お前、酷いことすんの向いてないよ」

〇渋谷のスクランブル交差点
  MINE、新曲!
  大型ビジョン──二つの世界を繋ぐ扉で、初めて見た輝くMINE。

〇渋谷のスクランブル交差点
  話していて楽しかったミオン

〇テーブル席
  ──生気が薄れかけているミオン

〇SHIBUYA109
藤ケ谷アヤネ(ミオンの曲をもっと聞きたい)
藤ケ谷アヤネ(でも、生き返りたい)
藤ケ谷アヤネ(ううん、本当は二人でずっと喋ってたい)
藤ケ谷アヤネ(全部は叶わない。なら──)
藤ケ谷アヤネ「私、この渋谷から帰る儀式知ってるの」

〇エレベーターの前
藤ケ谷アヤネ「この最上階の左端エレベータが帰る扉なの」
神山ミオン「そうなんだ・・・」
神山ミオン「あれ、乗らないの?」
藤ケ谷アヤネ「これ一人ずつしか乗れなくて。 後から行くから」
神山ミオン「え、危険じゃ」
藤ケ谷アヤネ「大丈夫!ちゃんと追いつくから」
藤ケ谷アヤネ「ねぇ、ミオン。私、またミオンの曲聞きたいな。あの大型ビジョンで」
藤ケ谷アヤネ「ミオンの曲すごい好きなの」
藤ケ谷アヤネ「きっと、こういう奴ら結構いるよ」
神山ミオン「頑張って、みる」
神山ミオン(もう一度やってみたい。 さっき歌ってたアヤネみたいに)
  ドアが閉じるとき、アヤネはまだ見送ってくれていた。そして、
藤ケ谷アヤネ「ごめんね」

〇渋谷駅前
  この曲は、大好きな友達のための曲です──
  大型ビジョンから、曲が流れだす。
  活動を休止していたMINEの曲が。
神山ミオン(聞いててくれてるかな)
  藤ヶ谷アヤネ。その少女は一年前事故で亡くなっていたらしい。
神山ミオン(あの日以降、何回やっても裏には行けなかった)
神山ミオン(でも、きっともう大丈夫。消えなくても)
神山ミオン「私、ずっと曲作り続けるから。聞いてくれてたらいいな」

〇渋谷のスクランブル交差点

コメント

  • 今は目立てばどうしてもアンチがつくんですよね。
    でも、彼女にはがんばって欲しかったから、このラストはすごく良かったです。

  • キャラがみんなとても魅力的でした😌
    叩かれて凹む気持ちも、夢半ばで叶わなくなってしまった気持ちも、どちらの気持ちも汲み取れるため、あの終わり方にホッとしました🥲

  • 現代ってSNSの普及によって、ネットでは色々な炎上や叩きって日常的にありますよね。
    時間を持て余して、自分の日常の穴を埋めるかのように、人の悪いことを言う。
    それでも命あるのに、ってところは、グッとくるものがありました。

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