〇国立競技場
　　最後の10分間が始まった。
「しゃぁーっ！」
　　気合十分の優杏（ゆあん）の頭の中は曇り１つなくなり、代わりに紅い炎が駆け巡る。
　　夏里太も試合会場で見守ると優杏は相手PG（ポイントガード）の選手をジリジリと追いつめボールを奪いレイアップで決めた。
夏里太「うおーっ、ゆあーん！」
　　彼女のプレイにルールをさほど知らない夏里太でもドキドキした、それほどの優杏の力強さ。
　　再び相手選手を追い詰めていく優杏。彼女は相手に詰めよりプレッシャーをあたえて
　　優杏にしか分からない空きでボールを奪うというやり方が捕食者と呼ばれる所以である。
　　今度は相手のパスミスにより点数64、66といけると思われたがここで相手チームは対策をとり、
　　そこから追いかけるも追いつかずの点差で残り１分を切った時点で75―73までもつれ込む······。
夏里太「ゆ、優杏」
　　このとき夏里太は冷や汗をかく。彼だけではなく会場全体を静めさせるほどの、試合をする選手たち10人によるプレッシャー。
夏里太（ボードで時間を確認すると１分を切っている。なのにもう10分くらいに感じる長さ、君はこの緊張感の中で闘ってるなんて）
　　応援席の観客の方がビクビクして声が出ない人も、そんなときダンッとボールの音がする。
　　優杏がボールを持つ、これで決められなければ負けは確実。周りを見渡し優杏はハンドサイン送り動いた。
　　しかし相手選手を振り切れない、ディフェンスに全力を掛けているようだ。そうこうしているうちに、30秒を切る。
　　このままではいけないと優杏は賭けに出た。
　　ボールを左サイドの仲間にパスをする。渡された仲間はリングへ走り跳ぶと、２人の背の高い相手女子もブロックしようと跳ぶ。
　　明らかに無謀、防いだと次の瞬間そのボールをさらに右サイドに走っていた優杏にパスをする。
　　他の相手選手も急いでディフェンスに走るが、ボールを受け取った優杏は３ポイントラインを一歩下がり、
　　脇を締め、膝の力をつかい、両手のボールをリングへとはなつ。

〇空
　　このとき優杏は独特の感性をもっていた。
　　中を舞うボールが、羽ばき飛び立つ白鳥に見えるということ······。

〇国立競技場
　　パサッ、
優杏「しゃぁぁぁーっ！」
　　会場全体を震わせるような雄叫びに、
夏里太「ゆあーんっ！」
　　夏里太も最高の笑顔を送った。優杏のチームは初のインターハイ初戦突破をはたす······。