読切(脚本)
〇電車の座席
山手線の電車の中。
目的地──渋谷駅に近づく。
星川(あの話、本当だろうか)
星川(変だよな。疑ってるくせに縋ってる)
女子高生「ねえ、この曲知ってる? 最近ハマっててさー」
黒髪の女子高生は
スマホで動画サイトを開く。
女子高生「あ、これアタシも好きなやつ! メロディがめちゃカッコイイよね!」
女子高生「そそ。再生回数も凄いよね、 このバンド──」
女子高生「『スターフィッシュ』って!」
星川「!!」
星川(落ち着け。顔出ししてないんだ。 ばれやしない)
女子高生「でももう長い間 音沙汰なし」
女子高生「どうしちゃったんだろ」
平静を装っても気になってしまい
ちらちら見てしまう。
女子高生「?」
渋谷――渋谷――ご乗車ありがとうございます。
星川「って、いつの間に。降りなきゃ!」
〇渋谷の雑踏
星川(あの話が本当なら・・・)
渋谷に行けば、
死んだ誰かの幽霊に会える。
そんな――SNSじゃ出回っていない――
話を耳にしてから、
もう何度目になるだろう。
そのときだった。
女の子「お兄さん。渋い顔してどうしたんですか。 渋谷だけに」
星川「・・・」
女の子「ちょ、無視しないでくださいよ!」
星川「・・・急いでるんで」
少女の脇を通り抜けようとしたときだった。
女の子「お兄さん、会いたい人がいて 渋谷に来たんでしょう?」
それっぽい事を口にしただけだと思った。
だが次の一言が、俺の足を完全に止めた。
女の子「ね、『スターフィッシュ』の星川さん?」
星川「君、何者だ?」
女の子「ふっふっふ。 訊かれたなら答えてあげましょう」
女の子「私の正体は──」
女の子「貴方の膝に絡み付くワンコ系女子! 名前は秘密❤ でも、笑顔が可愛いでしょ?」
星川「答えになってねえ!」
〇渋谷駅前
星川「なあ。何で俺を知ってたんだ?」
星川「俺は顔だけじゃなく、 本名も出してないんだ。 ネットで検索しても出てこない」
星川「調べる方法はないはずだ」
女の子「私、鼻が良いんです。 だから匂いで分かっちゃうんですよ」
星川「答えになってねえ!」
女の子「そんな事より、もっと大切な事が あるでしょうに」
女の子「亡くなった魚絵さんに会う──って事が」
星川「・・・なんで先輩の本名まで知ってる。 知り合いなのか?」
女の子「そんなとこです。 だから星川さんが、ずっと引きずってるのが心配で」
女の子「だから、やり直しましょう」
星川「は?」
女の子「やり直すんです、さよならを」
楽器の習い事なら子供の頃やってた。
だから作曲は難しくなかった。
でもバンドをやろうとは思わなかった。
魚絵先輩と知り合ったのはその頃だ。
〇教室
魚絵「おー、いいじゃん。素敵じゃん」
星川「そりゃどーも」
魚絵「ははーん。さては誉められ慣れてないな、後輩」
魚絵「可愛いなあ」
魚絵「よし! それじゃ今から たこ焼きでも食べに行こう」
星川「急にまた、何で?」
魚絵「結成記念だよ。君と私とでやる、バンドのね」
星川「はあ!? バンドやるなんて一言も──」
魚絵「ハイ決まり~! ほら、もたもたしてないで行くよ」
それからとんとん拍子に成功した。
動画サイトに上げた曲は軒並みランキング上位。
商業デビューだって目前まで来た。
なのに・・・病気で呆気なく逝ってしまった。
〇SHIBUYA109
星川(最期は面会謝絶。会話もできなかった)
星川「君、どこまで知ってるんだ?」
女の子「ふふ。内緒♪」
少女は俺の前を進んでいく。
その後ろ姿についていく。
星川「あ・・・」
星川「ここ、先輩と初めて来た たこ焼き屋だ」
星川(こっちのカフェは 一日中バンドの話をした店だ)
星川(あ、あの服屋で似合う服選んでもらったな)
星川「ここも。ここも。ここも―― はは、先輩のことばっかり」
恋人ではない。友達でもない。
学校の先輩後輩ではあったけど、
それとも異なる関係。
もう、自分の一部みたいな物だった。
だから、先輩がいなくなったら──
〇SHIBUYA109
星川「えっ」
景色が一瞬で変わった。
人が一人もいない。ここは本当に渋谷か?
混乱していると──
〇SHIBUYA109
星川「先、輩・・・」
俺は駆けだしていた。
魚絵「何を驚いているのかな、後輩」
星川「死んだ人が生きてたら驚くでしょ、普通」
魚絵「ははは、死んではいるけどね」
魚絵「それで。私がいなくなったから 音楽やめたのかな?」
星川「!」
魚絵「図星だね。 けど、やめたら駄目だよ」
星川「でも先輩がいないなら、 やる意味なんて──」
魚絵「後輩の音楽が聞こえてこないんじゃ、 天国での生活も寂しいだろ?」
星川「──」
魚絵「あっちでも聴けるように ずっと続けてよ」
魚絵「後輩の音楽が好きだから、 バンド誘ったんだぜ?」
魚絵「いつか後輩がこっちに来たら、 そのときはもう一回一緒に演ろう?」
星川「ずるいや、先輩」
星川「そんな事言われたら、断れないじゃん」
魚絵「約束だよ?」
星川「約束する。ずっと続けるって。 だから先輩──」
さよなら──
〇SHIBUYA109
星川「はっ」
星川「今のは・・・」
女の子「死者と生者の境目ですよ」
星川「やっぱり君、何者なんだ・・・」
星川「──誰だっていいか。 ありがとう、先輩と会わせてくれて」
女の子「いえ。お礼を言うのは私の方です」
女の子「ずっと知りたかった事を 知れましたから」
星川「?」
女の子「『亡くなった人は、残された人をどう想うのか』」
女の子「ずっと不安でした。けど」
女の子「優しさがあるって知れて、ほっとしました」
星川「そうか。けど、お礼をしないと──」
女の子「ならアレ買ってください」
女の子「私に似合うと思うんです」
星川「いいよ」
リボンを買うと、少女ははしゃいだ。
女の子「わーい!」
女の子「それじゃ私、行くとこ出来ましたから」
女の子「お元気で、星川さん。 さよなら」
星川「ああ、さよなら」
星川「俺も行くとするか」
〇渋谷の雑踏
「あれ誰が飾ったんだろ? かわいくない?」
「ほんとだ。いいね」
星川「?」
人々が指す方向を見て
〇ハチ公前
星川「そりゃ鼻がきくわけだ」
渋谷の象徴。
ハチ公像は嬉しそうに、頭にリボンをつけていた。
亡くなった身近な存在の人が、まだこちらの世界に生きる自分の事をどのように想いみてくれているのか、私もとても知りたいです。ただ、それがわからないのが別れというもので、こちらが生前の故人をいつまでも大切に想うことも大事ですね。
最後に会えなかったのって、心残りですよね。
でも、きちんとお別れができて良かったです。
まさか先輩とあわせてくれたのがハチ公だとは!笑
リボンもかかわいいと思います!
少女は主人公の亡くなった先輩の気持ちを確かめようとしたんですね。ハチ公(少女)もご主人様の気持ちを確かめたかったんだ。ハチ公は少し嬉しそうでしたね。