ハードボイルドガール

月暈シボ

エピソード30(脚本)

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〇学校の廊下
麻峰レイ「君のところにも通知が来たかい?」
「ああ、呼び出しの通知が来てた!」
「・・・俺達二人に揃って呼び出しってことは・・・そういうことなんだろうな!」
  翌日の木曜日、放課後となって再び捜査を開始しようと人気のない廊下でレイと合流した俺は、
  開口一番に生徒手帳に届いた学園側からのメッセージについて言及する。
  ほんの数分前、俺とレイの元に生活指導部からの呼び出しが掛かったのである。
麻峰レイ「うむ。昨日は中等部を含む全てのクラスを対象に聞き込みを行ったし、」
麻峰レイ「学園外にも出掛けたからな・・・さすがに、私たちが〝感づいている〟ことに感づいたのかもしれない」
「・・・どうする?」
  学園側の動きに対して俺はレイに対応を乞う。
  靴の盗難事件を通じて学園に起ったデータ漏えい事件を嗅ぎつけた俺達は学園の上位層にとっては厄介な存在となるはずだ。
  おそらくは、俺達二人がどこまで知っているのか確認をし、捜査の停止と箝口令を要求してくると思われた。
麻峰レイ「まあ、立場的に行くしかないよ。釘を刺されるのは間違いないが、」
麻峰レイ「答え合わせも出来るし、直接交渉して情報を引き出せるかもしれない!」
  俺の問いにレイはむしろ望むところ! とばかりに告げる。
  確かに見方を変えれば、生徒の立場からは知ることの出来ない情報を引き出すチャンスでもあった。
「・・・おお!」
麻峰レイ「では、生活指導室に乗り込むとするか!」
  胆の据わったレイの返答に俺は感嘆の声を上げ、彼女も頷くのだった。

〇小さい会議室
  生活指導室は本校舎二階にある職員室の隣に存在していた。
  大きさは通常の教室の半分ほどで、廊下側に窓はなく完全な防音使用となっている。
  これは部屋の特性上、中に居る人間のプライバシーを保護するためである。
  ここは学園のルールを破った生徒に特別な指導を与える部屋なのだ。
  そんな、生徒からすれば近寄りたくもない場所に俺とレイは呼ばれて、
  今は部屋中央に設置された四人掛けのテーブルの片側に座っている。
  俺達の前には第二学年の生活指導を担当する本田と及川が並んで身構えていた。
  実はこの二人、俺達が導き出した犯行時にアリバイのない12人の容疑者リストに含まれている。
  昨日の警備員の話にも出て来た男性教師の本田を目前とした俺は椅子の座り心地も含めて良い気分ではなかったが、
  隣のレイは女性教師である及川をポーカーフェイスで見つめて出方を待っている。
  だが、麻峰レイという人物を知る俺は、彼女が高揚しているのを見て取っていた。
本田ヨシオ「ここに君達を呼んだ理由はわかるかね?」
  沈黙を破ったのは本田だった。
麻峰レイ「ええ、なんとなく」
本田ヨシオ「色々と調べて回っているようだが、何をしているのかね?」
麻峰レイ「探しています」
本田ヨシオ「誰・・・いや、何を?」
麻峰レイ「犯人の手掛かりです」
本田ヨシオ「・・・君達はどこまで知っているんだ?」
麻峰レイ「どこまでとは?」
  本田の尋問にも似た聴取に答えていたレイだが、最後は質問に質問で返す。
  曖昧な問い掛けには答えようがないという意志表示だろう。
  そんな、やり取りを隣で聞かされる俺としては身が縮む思いがしたが、余計なことはせずに、
  本田相手にも動じることのないレイにこのまま交渉役を任せることにする。
本田ヨシオ「・・・」
麻峰レイ「・・・」
及川マスミ「ふう・・・。実は日曜日から月曜日の未明に掛けて学園データの一部が不正アクセスされたの」
及川マスミ「セキュリティのシステムからして内部関係者による犯行の可能性が非常に高い」
及川マスミ「そのため学園は関係機関への通報を先送りにして、事実関係を明らかにしようと内密に調査を続けていたわけなのだけど・・・」
及川マスミ「あなた達はその事実に気付いてしまったようね?」
  一瞬、緊迫した空気が流れたが、下手な探り合いは時間を浪費するだけだと判断したのだろう。
  これまで黙って本田の隣に座っていた及川が、溜息と共に機密とされていたデータ漏えいの事実を認める。
  彼女は元より穏健派と知られていただけに、本田のような上からの一方的なアプローチではなく、
  生徒と対話しようとする意志を感じさせる。
  いずれにせよ、昨日までの捜査によって俺達は自力でその答えに辿り着いていたが、
  この発言によって推測が正しかったことが確定したのだった。

〇小さい会議室
本田ヨシオ「お、及川先生!」
麻峰レイ「ええ、その通りです」
  手の内を見せた及川に応えるようにレイも認めるが、その前に本田が及川を責めるような口調で彼女の名前を呼ぶ。
  どうやら、及川が学園の機密を生徒に対して認めたことに驚いたのだろう。
及川マスミ「もはや、彼女達には下手な隠し事は時間の無駄でしょう。それで、この事実を他の生徒達にも教えたの?」
麻峰レイ「いえ、それは余計な混乱を招くだけしょう。私達だけの秘密でした」
及川マスミ「・・・賢明な判断ね。現在のところ犯人はわかっていないけど、」
及川マスミ「公にしてしまうと学園関係者、特に生徒だった場合は学園の評判だけではなく、その者の前途を潰してしまうかもしれない」
及川マスミ「詳しい事情が判明するまでは秘密にしないといけないの!」
  レイの返答に及川は安堵の笑みを浮かべると、改めて学園側の判断に対して理解を求める。
麻峰レイ「それは存じています」
本田ヨシオ「しかし、どうやってこの事件に気付いたんだ?!」
及川マスミ「本田先生、この二人は別に非を犯したわけではありませんよ。そんな威圧的に接する必要はありません」
  本田が再び質問を繰り出すが、その態度を及川が嗜める。
  彼女の言う通り、俺達は校則に限らず違法なことはしていない。むしろレイに限って言えば被害者だった。
麻峰レイ「色々と手掛かりはありましたが、決め手となったのは学園日報の閲覧停止と位置情報の頻度です」
麻峰レイ「更にこれまで学園外に出る際には行なわれていなかった音波検査の実施」
麻峰レイ「これらを考慮すると学園に何かしらのトラブルが起こっていると判断出来るでしょう」
麻峰レイ「しかも学園内の様子からして、生徒は当然としても職員にも完全には知らされていないように感じられます」
麻峰レイ「これは先生方もその多くが容疑者の疑いがある。ということでしょうか?」
  それでもレイは本田の疑問に答えるが、その流れで逆に問い掛ける。
  学園側の不甲斐なさを指摘する辺り、巧妙かつ意地が悪い。さすがレイである。
本田ヨシオ「それは・・・」
及川マスミ「あなた達が・・・全クラスの出席状況や接点の無いはずの教員にも奇妙な聞き込みを始めていたので、」
及川マスミ「もしかして、とは思っていたけど。そこまで掴んでいたのね。はっきり伝えましょう・・・」
及川マスミ「この事件を学園で完全に掌握しているのは校長先生、教頭先生、各学年の主任と私達生活指導部、」
及川マスミ「更に学園内の警備を担当する一部の幹部警備員だけ」
及川マスミ「教職員を含むスタッフはこの警備員の方達が調べていますが、生徒に関しては私達生活指導部がそれぞれ調査しています」
  本田は口ごもるが、及川は観念したかのように学園側の状況を報せる。
麻峰レイ「それで犯人は生徒の中にいそうですか?」
麻峰レイ「おそらく、ここ数日間は事件発生後から学園外に出た生徒を重点的に調べていたのでしょう?」
  昨日の結論で俺達は生徒の中に犯人もしくは共犯者がいる可能性は極めて低いと判断していたが、
  レイはそんなそぶりをおくびにも出さずに、及川へ更なる質問をぶつける。
  どうやら、俺達が目を付けられた理由も昨日の外出のせいだったようだ。
及川マスミ「・・・そこまで推測していたのに、外出したの?」
麻峰レイ「ええ、何しろ私達は犯人ではありませんし、生徒の立場では調べられることは頭打ちなっていたので」
及川マスミ「・・・」
  この回答にはそれまでレイの相手をしていた及川も絶句する。
  網を張っていて怪しい生徒を探っていたはずが、実は今回の生活指導室への召喚はレイの方から望んでいたと判明したからだ。
  おそらく、本気で犯人を追い詰めるなら学園上層部しか触れられない情報が必要と判断したからだろう。
  俺としてもこの発言には驚かされたが何も言わずに、ぬけぬけとした顔で成り行きを見届ける。
  レイの相棒はこれくらいでないと務まらないである。
本田ヨシオ「いずれにしても、君達が犯人ではないのは既に判明している」
本田ヨシオ「この場に呼んだのは、どこまで把握しているか調べるためと、わかっていると思うが箝口令を命じるためだ! 以後・・・」
及川マスミ「ああ、本田先生、待ってください。念のためにこの二人からはもっと詳しい話を聞いておきましょう」
及川マスミ「私達にとっては盲点になっている点に気付いているかもしれません!」
及川マスミ「麻峰さん、あなたが知っている、あるいは推測したことを教えてくれないかしら?」
  不快感を隠さず本田は結論を告げようとするが、レイの能力を認めた及川は助力を願い出る。
麻峰レイ「ええ、よろしければ、お教えします」
  それにレイは慢心することなく冷静に及川に告げた。

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