エピソード1(脚本)
〇整頓された部屋(ハット、靴無し)
愛子「長いねぇ」
愛子「気づけばもう10年だよ」
愛子「10年って言ったらあれだよ、蒼」
愛子「0歳の子が10歳になっちゃうよ。 10歳って言ったらもう小学生だよ」
愛子「蒼はさ、この長さをどう思う?」
蒼「お前、さっきから何について独り言言ってんの?」
テレビに視線を向けたまま、蒼はビールを煽り毒づいた。
愛子「独り言じゃないし! 思いっきり蒼に聞いてたじゃん!」
蒼「だからなんの話をしてんだって」
愛子「わかんないの!?」
蒼「子供が成長する話?」
愛子「誰のどこの子よ!」
蒼「お前が言ったんだろ・・・」
愛子「ダメだ、話にならない」
蒼「こっちのセリフだ」
蒼が飲むビールが美味しそうに見えたけど、苦味が嫌いだから私は飲まない。
その代わり飲むのは、決まったメーカーの決まったチューハイ。
それが蒼の家にストックされている辺り、彼の歴代彼女達より上にいる気がして優越感に浸ったりする。
〇空
そんな私達が出会ったのは、10年前のクリスマスの夜だった───・・・
〇クリスマスツリーのある広場
蒼「なあ、100円持ってる?」
当時高校生だった蒼はいかにも遊んでそうな風貌で、一瞬カツアゲかと思った。
だけどこんな安いカツアゲもないかと思い、私はお財布を取り出して。
受け取った100円で飲み物を買った蒼は、ベンチに座って飲み始めた。
愛子「お財布ないの?」
蒼「落とした」
愛子「え、大変じゃん!」
蒼「別に。大して入ってないし」
愛子「そっか。 じゃあここで何してるの?」
蒼「金がなくて帰れないだけ」
愛子「クリスマスに哀れ!」
蒼「・・・・・・」
さりげなく隣に座った私は、蒼に色々なことを聞いた。
何歳なの?──17。
向陽高校?──うん。
部活は?──帰宅部。
趣味は?──特にない。
えーと、じゃあ──
蒼「どんだけ知りたいんだよ、俺のこと」
愛子(笑った!)
愛子「いいじゃん、もうすぐ12時回るし。 私の最悪な誕生日もあと少しだから付き合って!」
蒼「誕生日なの?」
愛子「うん、なのに彼氏に振られちゃって」
愛子「私ね、男運ないんだ。 彼氏3股してたんだよ!」
愛子「きっと男に騙されて、一生結婚できないと思う」
蒼「大袈裟」
知り合って間もないのに、私は自分の恋愛話を吐き出した。
浮気現場を目撃したことも、違う人に送るメッセージが届いたことも、私の友達と付き合ってた彼氏がいたことも。
蒼「・・・まじで男運ないな」
〇空
蒼に過去をさらけ出せたのは、
出会った瞬間居心地の良さを感じたから。
この日、私達の糸は繋がったんだ。
友達という、切れることのない糸が──
〇一人部屋(車いす無し)
蒼「しないの?」
愛子「蒼はしたいの?」
蒼「・・・・・・」
愛子「なぜ黙る」
アルコールという刺激に負けた蒼が初めて私を押し倒したのは、出会って3年が経つ頃だった。
蒼「知らねぇの? 男は狼なんだよ」
愛子「知ってるよ。 ろくでもない男とばっか付き合ってきたから」
蒼「俺だってろくでもない男かもしんないじゃん」
愛子「ろくでもないの?」
蒼「試してみる?」
近づいてくるキスの気配に、今更焦る。
だってこんなことしたら、友達の糸が切れてしまうから。
蒼「・・・・・・」
愛子「・・・・・・」
蒼「・・・お前さ、なんで学ばないわけ?」
愛子(え、このタイミングで説教)
蒼「よし、次彼氏候補できたら俺に見せろ。 見極めてやるから」
愛子(でも、友達の糸、切れそうにない。 よかった)
愛子「見極めるって・・・それでもまた騙されたら?」
愛子「蒼が見極めてもダメだったら、それこそ私どんだけ男運ないんだって話になるじゃん」
愛子「皆、私は本気で好きだったんだよ。 だけど向こうは遊びで、簡単にポイってするんだよ・・・」
愛子「優しかったのに、 お前は2番目だって言うんだよ、、、」
わかってる。
そんな男ばかり選ぶ私が悪いってわかってる。
わかってるのに、どの人を選べば幸せになれるのか、私にはわからないんだよ。
蒼「じゃあもし、この先お前が同じこと繰り返すなら」
蒼「俺が責任もって見つけてやるよ。 お前の運命の人」
蒼「そうだな・・・ 出会って10年後の28の誕生日までに、もし愛子が幸せになってなかったら。 見つけるって、約束する」
〇空
そうして訪れた、
28歳を迎えたクリスマスの夜。
〇明るいリビング
愛子(ロンリークリスマスバースデーだ)
愛子(蒼に電話しよう)
愛子「もしもし蒼。 私今日誕生日なんだけど」
「『俺今仕事中なんだけど』」
愛子「祝ってくれないの?」
「『忙しいの』」
愛子「ひどい、親友のくせに」
「『クリスマスに労働してる親友に、労いの一言ぐらいかけろよ』」
愛子「・・・ごめん、わがまま言って。 仕事頑張ってね」
「『うん、着いたから鍵開けて』」
愛子(鍵?)
「『早く』」
よくわからない中、玄関に向かった。
〇玄関内
ガチャ
蒼「お届け物でーす」
愛子「え、何、」
蒼「待て、引くな」
蒼「約束したろ、運命の人探すって」
愛子「運命の・・・誰?」
蒼「俺?」
愛子「蒼!?」
蒼「お前に合う男、何年も探したけど全然ダメ。 どいつもこいつも気に食わねぇ」
蒼「だからさ、もう諦めてよ」
蒼「もういーじゃん、俺で。 てかこれ、最初から俺がお前の相手だったってことだろ」
蒼「考えた結果、俺はそう思った。 だから」
ポケットに手を入れた蒼が、何かを取り出して・・・
差し出されたのは、
蒼「だから俺と、結婚してください」
〇空
友達の糸はたった今、切れてしまった。
変わりに繋がったのは、赤い糸。
親友だった蒼との新しい関係は、きっと戸惑いばかりだけれど。
切れないように、
解けないように、
私達の本当の物語は、
今、ここから始まる───・・・
出会ってすぐに居心地の良さを感じながら、すぐに恋愛関係に至らなかったのが逆によかったのだと思いました。きっと、お互いがその友情という絆をゆっくり温めたかったんでしょうね。充実した10年がとても輝いています。
友情が愛にかわる瞬間ってあると思うんですが、この二人の場合「友情の糸が切れないように…」って願ってた時から、すでに愛だったように感じました。
プロポーズに花束を持ってくるあたりがすごく好きです!
とってもいいお話しでした。胸がキュンとなり甘酸っぱい感じがしました。いいですね、2人とも何かしらの感情があり、お互いに接してたんですね。ずっと幸せでいてもらいたいです。