31話 大丈夫(脚本)
〇建物の裏手
ルゥラッハ・オル・レバノスタン(・・・姿は見えないけど、複数の人の気配を感じる。こちらを観察するような視線も──)
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「そこだあ! どりゃあああああああ──ッ!!」
ぎゃあああああああああああああッ!?
〇黒
〇屋敷の書斎
ナーヤ・ガーヤ「まったく、酷いことしやがる あの場所、結構気に入ってたんだぞ?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「まさか酒場があるなんて思わなかったんだ。空き家だと思ってた」
ナーヤ・ガーヤ「空き家だよ。表向きはな。 ・・・でもあそこは俺たちの溜まり場なんだよ」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「そうなんだ。何の集まりなんだ? 友だち同士で情報集め?」
ナーヤ・ガーヤ「そんなこたぁテメエにゃ関係ねえ!!」
ナーヤ・ガーヤ「用があるんならさっさと言えよ!! いきなり引っ張り回して自宅まで案内しろとかアンタは魔物か悪魔か鬼か?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「ご、ごめん 大勢で観察してるくせに出てきてくれないのがムカついて」
ナーヤ・ガーヤ「普通は気づかねえんだわ」
ナーヤ・ガーヤ「まあ、ジロジロ見て悪かったよ で、本当に何しに来たんだ? 俺、単発屋だって言ったよな?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「交渉しにきた」
ナーヤ・ガーヤ「交渉しにきた・・・あれが?」
ナーヤ・ガーヤ「何か知りたい情報でもあるのか?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「帝国一と言われた情報ギルドの、前のギルド長の居場所が知りたい。お金は持ってきた、足りなかったら言ってくれ」
ナーヤ・ガーヤ「へえ? 会ってどうすんの? 普通の情報ギルドじゃ調べられないもっと知りたいことがあるとか?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「いや? エンシェン・リンの情報ギルドを、終わらせてもらうんだ」
ナーヤ・ガーヤ「・・・」
ナーヤ・ガーヤ「・・・は?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「俺たちで潰してもいいんだけど、張り切ってる姿を見てると申し訳ない気がしてさ」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「ギルドを救った公爵令嬢を慕ってる姿を見てると、本当にギルドが大切なのがわかるから」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「彼女が俺たちと関わらないなら問題はない。だけど、公爵令嬢は敵なんだ。そんな相手を慕って、信頼して、情報を売る」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「・・・困るんだ」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「家族を守るために、平穏に暮らすために、彼女たちは邪魔だ」
ナーヤ・ガーヤ「つまり、組織を潰すのは可哀想だから、元ギルド長に説得してもらって自分から解散してほしいってことか?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「前のギルド長がちゃんと”情報ギルド”は終わらせると言えば、彼女があそこまで必死になる理由はなくなる」
ナーヤ・ガーヤ「理由?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「情報ギルドは終わってない。だから彼女は元ギルド長が帰ってくるとギルドを守ってるんただろ?」
ナーヤ・ガーヤ「・・・そうだろうな」
ナーヤ・ガーヤ「・・・料金はいらねえ。俺から伝えておく」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「い、いや、料金は払うし、自分で伝えるから──」
ナーヤ・ガーヤ「・・・アンタさ」
ナーヤ・ガーヤ「変わってるぜ。家族を危険に晒す情報を提供するギルドがいる──」
ナーヤ・ガーヤ「そんな情報を知ってるなら、普通の人はギルドを潰すための情報を求める」
ナーヤ・ガーヤ「アンタの情報の買い方、面白いよ」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「ありがとう?」
ナーヤ・ガーヤ「褒めたけど、そんなことで、お礼を言われるとはな」
ナーヤ・ガーヤ「こんな商売をしててお礼を言われるのも久しぶりだ。恨み言ならよく言われるけど」
ナーヤ・ガーヤ「まあ、ちゃんと伝えておくから、安心してくれ」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「それなんだけど、大事なことだから、自分で話したいんだ」
ナーヤ・ガーヤ「・・・・・・いいって、俺から伝えるから」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「伝えるってどうやって? 彼女が情報ギルドを大切に思っていることは知っているはずだろ?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「それなのに、”俺のために”彼女から情報ギルドを取り上げてくれって伝えるのか?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「貴方が伝えたって、情報ギルドを終わらせることはできないだろ?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「ちゃんとお金は払うし、足りないならすぐに用意する、だから売ってほしい」
ナーヤ・ガーヤ「・・・・・・」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン(え、だめなのか? もしかして売ってくれない?)
ルゥラッハ・オル・レバノスタン(元ギルド長は情報の扱い方が優れてるからか、手がかりがなさすぎて俺たちで探すのは難しいし・・・)
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「男の人? 女の人?」
ナーヤ・ガーヤ「何でそんなことを聞くんだよ?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「自分で探すしかないかと思って・・・手がかりだけでも、欲しいなと」
ナーヤ・ガーヤ「ふぅん・・・お手並み拝見と行くか 男だよ」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「じゃあ、年齢は?」
ナーヤ・ガーヤ「27歳」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン(結構若いな)
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「ん?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「エンシェン・リンは26歳だから・・・」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「もしかして、恋人!? だとしたら会って詳しく聞いてみたい──!!」
ナーヤ・ガーヤ「あいつはただの幼なじみだッ!!」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「そ、そうなの?」
ナーヤ・ガーヤ「情報は確かだ」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「でも恋人じゃくても、想い合ってるかも・・・! 絶対お互いに初恋相手!」
ナーヤ・ガーヤ「ないないないない!! あんなわがまま女・・・!! 俺はもっとおとなしくてふわふわした女の子が──」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「”俺”?」
ナーヤ・ガーヤ「って、前聞いたら言ってた」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「元ギルド長はそうでも、エンシェン・リンは初恋確定だよな? ずっと、想い続けてるんだな・・・そう思うと切ないな」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「でもいつか想いが通じて、”俺のためにギルドを守ってくれたのか”って”俺をそんなに想ってくれたのか”って意識し始めて──」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「時が経って、エンシェン・リンに男の影が──!!」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「そして、嫉妬して初めて恋を自覚して、ぐいぐい迫り始めて、やがて恋が成熟するやつだ──!!」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「初めての夜はきっと──」
ナーヤ・ガーヤ「やめろおおおおおおおッ!! それ以上はやめてくれ流石にそれは想像したくないいいい──!!」
ナーヤ・ガーヤ「マジで冗談キツいって・・・」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「なんでこの人泣いてるんだ・・・? 想像したくないってことは──・・・」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「も、もしかして、エンシェン・リンが好き!?」
ナーヤ・ガーヤ「違う!!」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「・・・あ、そっちか」
ナーヤ・ガーヤ「そっち? ・・・・・・」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「大丈夫、俺も男の人にドキドキしたことあるから」
ナーヤ・ガーヤ「いや急に何!? 何となくわかった違うからな!?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「大丈夫」
ナーヤ・ガーヤ「違うって言ってんだろ!!」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「じゃあなんで想像したくないんだ? 知り合い同士だから気まずいとか?」
ナーヤ・ガーヤ「そうそう、そうなの」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「そうかもしれない。知り合いたちがいつか恋人になるって聞いたら次会う時気まずそう」
ナーヤ・ガーヤ「意外と想像豊かだよな?」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン(普通に原作にない裏設定萌える・・・!! って思ってしまっただけなんだよ)
ルゥラッハ・オル・レバノスタン(27歳で男の人で、エンシェン・リンの幼なじみ・・・調べればわかりそうだけど、相手は情報のプロ・・・)
ルゥラッハ・オル・レバノスタン(どんな情報を手に入れても、こちらの動きはバレバレだろうから、近づくことは難しいかもしれない)
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「・・・やっぱり元ギルド長には会えないのかな」
ルゥラッハ・オル・レバノスタン(情報ギルドを敵に回すしかないのか・・・)
ルゥラッハ・オル・レバノスタン「・・・帰るよ 話を聞いてくれてありがとう」
ナーヤ・ガーヤ「・・・ハァ」
ナーヤ・ガーヤ「待てよ」