ダイエットは明日から。(脚本)
〇安アパートの台所
──キッチン。
それは今まで、苦痛の場所でしかなかった。
棗藤次「ああアカン。 また焦がした・・・」
焦げただし巻きを包丁で切り、一口口に含む。
棗藤次「まずっ・・・」
──溢れたのは、ため息。
独りなんは長いし慣れたし、望んでおるわけやけど、料理だけは、何年経っても上手うなれんで・・・
せやけど、生活費や身体ん事考えたら、自炊は避けられん。
そやし、作っても作っても、全然腕はようならへん。
そやし結局、京都に赴任してからは、地元の味も恋しいのもあって、外食や惣菜ばあに
せやから、いつしかキッチンに立つんは、冷蔵庫漁るんと、電子レンジ使うくらいになった。
せやけど──
〇アパートのダイニング
棗藤次「おおっ! 今日もめっちゃええ匂い!! ホンマに、料理教室様様やなっ!!」
笠原絢音「お帰りなさい! 今日はねー、筑前煮!! 味の染みかたのコツ、教えてもらったの!」
棗藤次「へー! ワシ、肉よりこーゆーの結構好きやねん!! どら・・・」
笠原絢音「あ! もー・・・ つまみ食いなんてダメじゃない!! ちゃんと手を洗ってから!!」
棗藤次「ええやんちょっとくらい! ・・・うん! 美味い美味い! なぁ〜 もう一口!!」
笠原絢音「だぁめ!! ちゃんと着替えてから!」
棗藤次「えぇやん〜❤︎ なぁ〜❤︎」
笠原絢音「も〜❤︎」
──こうして、絢音が来てくれて、更に料理教室通うようになり、少しずつ、空っぽやったキッチンに調理道具が並び始めた頃やった
〇個別オフィス
棗藤次「うげっ・・・」
京極佐保子「? どうしたんです?変な声出して・・・ 異常でもあったんですか?」
──京極ちゃんの問いに、ワシは呆然と、手元の・・・先月やった健康診断の結果を見て呟く。
棗藤次「アカン・・・ 体重・・・5キロも増えとる・・・」
京極佐保子「ああ・・・ 言われてみれば検事、心なしかふっくらしたような・・・ 美味しいお店でも見つけたんですか?」
棗藤次「い、いやその・・・ちょお、京極ちゃん! 耳・・・」
京極佐保子「はい?」
不思議そうに小首を傾げる京極ちゃんを側に呼び、ワシは耳元でこっそり囁く。
棗藤次「みんなには内緒え? ワシ、飯作ってくれる彼女、できてん」
京極佐保子「はあ・・・ それはつまり、彼女さんの料理食べ過ぎて、太ったって言いたいんですか?」
棗藤次「う、うん。まあ、せやな。 元から美味かったけど、料理教室通い始めてから更に美味なって・・・つい」
京極佐保子「・・・・・・・・・」
棗藤次「な、なんね・・・」
京極佐保子「いえ別に。 ちょっとでも心配した私がバカみたいです。 幸せ太り、ご馳走様です」
棗藤次「しっ・・・・・・・・・!!」
真っ赤になるワシにため息ついてデスクに戻って行く京極ちゃん。
よーく健康診断の結果を見ると、ほんのちょっとやけど、血圧や中性脂肪も高こうて・・・
ワシは冷や汗を垂らす。
棗藤次「ダイエット・・・せな」
〇開けた交差点
棗藤次「・・・ふう。 一駅歩いてみたけど、結構体力使うな。 よしよし・・・」
・・・とにかく、これ以上ブクブク太って、中年相応のだらしない体になって、絢音にベッドで幻滅されるんは避けたい。
その一心で、いつも電車で通ってた道を歩いていると・・・
棗藤次「ん?」
ふと漂ってきた、甘い・・・菓子の匂い。
この方角・・・確か・・・
〇店の入口
棗藤次「やっぱり。 絢音の好きな菓子屋や」
辿り着いたんは、デートでもよく行くカフェ併設の洋菓子屋。
しかも、店先には絢音が一番気に入っとるシュークリームの、焼きたてを報せる看板・・・
棗藤次「確か・・・今日、絢音来る日やったな・・・」
ふと頭によぎった・・・「お土産」と言う言葉。
棗藤次「あ、アカンアカン!! 甘いものなんて以ての外・・・」
やけど・・・
〇アパートのダイニング
笠原絢音(えっ?!お土産?! しかも、私の好きな店のスイーツ! ・・・覚えててくれて嬉しい・・・ 藤次さん、大好き❤︎)
〇店の入口
棗藤次「・・・・・・ダイエットは、明日からや」
──デブの常套句吐いて、ワシは店の中へと入って行った。
今日もキッチンで、鼻歌歌いながら美味い飯を用意してくれとる彼女に、感謝と愛を込めて・・・──
私もダイエットしたいけど、つい誘惑に負けてしまい
明日から明日からって言っている日々なので気持ちがすごくわかります😂
でも藤次さんの太っちゃった理由が理由なだけに、ほっこりします😌
デブの常套句、耳が痛いですね。それにしても、京極ちゃんじゃないけど、藤次さんのノロケ話を何度も「ご馳走様」とおいしくいただいている読者もノロケ話太りしちゃいそうですね。