始まり(嘘)(脚本)
〇教室
9月になってもまだ落ち着きそうにない太陽の光が教室の窓から差し込んでくる。
女子生徒1「昨日、彼氏とデートしたんだ」
女子生徒2「え、マジ!?」
女子生徒2「いいなぁ。きいちゃんの彼氏カッコいいもんね(嘘)」
男子生徒1「今日オールしたから眠ぃ(嘘)」
男子生徒2「早く寝ろよ・・・」
僕は『他人の吐いた“嘘”が分かる』能力を持っている。他人にそのことを言ったことはない。
この世は嘘で溢れてる。人を騙すための嘘。自分を大きく見せるための嘘。身を守るための嘘。
この能力が使えるようになって、僕は嘘を忌み嫌うようになった。この能力に『使わない』という選択肢がないから。
会話の中で嘘を吐かれるとそれが分かってしまう。それがどんな嘘でも、僕は虚偽を述べれられたことに勝手に失望してしまう。
空琴 響(そんな自分にも嫌気がしてくる)
しかし、周りから距離を取っても嘘に気づいてしまう。
だから、自分が正直者になることで、自分を保つしかなかった。
「でさーあたしが言ってやったんだよ! 『この浮気野郎!!』ってね!(嘘)」
またあの女子の声が頭に響く。
隣の席の磯月(いそつき)さん。
栗色の髪に整った綺麗な顔立ち。見た目だけはいい。
しかし笑い声がでかい。本当にうるさい。それに中身は・・・・・・まぁ、簡単に言えば嘘でできているのだ。
こいつの発言、特に自慢話には嘘しかない。
限定パフェ食べれた、とか。
中学生の頃は隠キャだった、とか。
ナンパされた、とか。
元カレが沢山いる、とか嘘ばかり。
まだまだこんなもんじゃない。こんなに嘘を吐いて後で発言に矛盾が生じないのか、と心配になるレベルだ。
しかし僕は、僕と正反対の彼女に・・・・・・彼女の言動に興味があった。
嘘ばかり吐いても笑って生きていける。そんな彼女に・・・・・・。
〇教室
昼休み。太陽の光は劣ることはない。
僕は静けさを求め旧校舎の教室にいた。
そこで昼食を取るのがいつもの流れだ。日頃使っている奴なんて僕くらいだろう。
菓子パンを口にしながら、窓の外を眺めた。
どこまでも広がる青空がとても眩しい。
ゆっくりと動く雲を見詰めると時間を忘れてしまう。とても静かで居心地が良い。
〇教室の外
食べ終わったらゴミはポケットに突っ込み教室から出た。そろそろ戻らないと、5限目が始まってしまう。
立ち入るのはあまり良くない旧校舎を物音立てずにゆっくりと移動する。すると、男の声が聞こえた。
「磯月さん・・・・・・。俺、君のことが好きなんだ!」
旧校舎出てすぐだった。意外な人物の名が聞こえ僕は動きを止めた。
盗み聞きは良くないが、ここで変に物音立てるのも雰囲気を壊してしまいそうで申し訳ない。
僕は物陰で終わるまで様子を伺う事にした。
磯月 奏「え、えっと・・・・・・」
空琴 響(磯月さんは何と返すのだろうか)
空琴 響(その告白にOKと返事するのだろうか)
そんな僕の疑問を裏切るように彼女はモジモジしながら口を開いて、そして──
磯月 奏「驚くかもしれないけど・・・」
磯月 奏「私、人間じゃないの」
空琴 響(・・・・・・え?)
耳を疑った。
しかし確かに言った。『人間じゃない』と。
その発言に──
僕の能力が発動しなかった!
男子生徒3「え、何言ってんの?」
まずい。よくない。そいつから離れた方がいい。
そう言いたいが口が震えて上手く言葉にできない。
磯月 奏「それでね。私に惹かれた人間を捕食して仲間を増やしてるの。こんな風にね・・・」
彼女の口が裂けた。中から何か出てくる。異様な形をした何か。
ぬちゃあ。グチュグチュ。ベトベト。
汚い擬音が聞こえてくる。
磯月 奏(?)「あーん」
ビチャ。ビャグッ!!
ぐちゃぐちゃ、ごっくん。
叫び声なんて出せなかった。
目の前の惨劇が今でも信じられない。
しかし、男子生徒が喰われてしまったことだけは理解できてしまった。
磯月 奏(?)「ご馳走様」
すると、彼女の体の一部が膨れ上がった。
それは人間の形へと変化し、先程の男子生徒の姿になった。
磯月 奏(?)「一緒に帰ったら怪しまれるから、数分後にね」
男子生徒3「Waがッタ」
ここにいたことがバレたら、僕も喰われる。
奴が歩き出すよりも早く、僕は必死に息を殺して本校舎へ向けて駆け出した。
〇教室
太陽は沈みだし昼間のような暑さはないが、今はそれが恋しい。
この体の震えを止めてほしい。
周りの会話なんて全く耳に入ってこない。嘘なんかどうでもいい。
隣で人間のフリしてる化け物から身を守る方法を誰か教えてくれよ。
放課後になり、急いで帰宅しようすると
「ねぇ空琴(からこと)君」
冷や汗が溢れる。
ゆっくりと振り返ると笑顔の奴がいた。
逃げようとしても無駄だと気づいた。グイッと近づき耳元で奴が囁く。
磯月 奏「昼休み、旧校舎にいたよね?」
背筋が凍る。
心臓を握られているような感覚に陥った。
脈拍数がどんどん速くなるのが分かる。
殺される。嫌だ、死にたくない。
空琴 響「え? ずっと教室にいたよ(嘘)」
僕は“嘘”を吐いた。
磯月 奏「そっか」
去ろうとする彼女の言葉に安堵しかけた。
磯月 奏「もし誰かに言ったら、君も食べちゃうからね」
振り返り放たれた彼女の言葉がナイフの様に刺さった。
あの光景がフラッシュバックしてしまう。
笑顔の彼女に対して、
──嘘でも笑うしかなかった。
「君の嘘が突き刺さって」は、非常に興味深く、怖い作品でした。主人公の能力は、他人が嘘をついていると分かるというもので、この能力を持っていると、世界がどれだけ嘘で満ちているかを知ってしまいます。この作品は、磯月さんという女性との出会いが、主人公を変えるきっかけとなります。彼女は、嘘しかつかない人物であり、主人公は彼女のことに興味を持ちます。しかし、彼女が人間ではないことを知った時、主人公は衝撃を受けます。この物語は、非常に面白く、怖いです。嘘が蔓延する世界に生きる人々の中で、主人公がどのように生き抜いていくかが見ものです。
最後の最後に想像を超えた展開に驚きました😆
続きをもっと読みたくなりました🙌
単なる嘘つき女子への不平不満を持つ男子のつぶやきから、とんでもない現実を叩きつけられた気分です。思わずついた彼の嘘なんか全く通用しないところがさらに怖いです。