イチコとイチゴ

kakiken

約束破りの再会(脚本)

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〇商店街
  クリスマスの夜、仕事を終えたこはるは街の洋菓子店に向かっていた。

〇店の入口
  しかし洋菓子店は閉店していた。店前でこはるは唖然とした。
一ノ瀬こはる「そんな・・・約束したはずなのに」

〇店の入口
  一年前のクリスマス、こはるはクリスマスケーキを買う為、何気なく目についたこの店を訪れていた。

〇ケーキ屋
  店内ではパティシエの市原大吾が客からのクレームの電話応対をしていた。
市原大吾「今回は申し訳ございませんでした」
  電話を終えたパティシエにこはるは声を掛けた
一ノ瀬こはる「あの、イチゴのショートケーキください」
市原大吾「えっ。他のケーキじゃダメですか?」
一ノ瀬こはる「私、クリスマスはイチゴのショートケーキを食べるって決めているので」
市原大吾「参ったな。実は発注ミスでイチゴが手に入らなくて。今の電話もそれに関するクレームで」
一ノ瀬こはる「クリスマスケーキと言えばイチゴはマストですからね」
市原大吾「クリスマスにイチゴの無いケーキはサンタさんが赤い衣装を着ていないようなもの。ただの髭のおじさんじゃ格好悪いでしょ」
一ノ瀬こはる「心優しいおじさんなら衣装なんて関係ないですよ。ケーキも美味しいならイチゴは関係ないです」
市原大吾「・・・」
一ノ瀬こはる「もし良ければ生クリームだけのケーキを売ってくれませんか?」
市原大吾「いいけど、イチゴのショートケーキが欲しかったんじゃ?」
一ノ瀬こはる「ええ。でも本当に好きなのは生クリームなんです。子供の頃、お気に入りの洋菓子店があって」
一ノ瀬こはる「その店の生クリームが大好きでした。クリスマスに食べたその店のイチゴのショートケーキには思い出があるんです」
一ノ瀬こはる「それからクリスマスはイチゴのショートケーキを食べようって」
一ノ瀬こはる「本当はその洋菓子店のケーキが一番なんですけど閉店してしまったみたいで」
市原大吾「だったらタダで差し上げますよ」
一ノ瀬こはる「そ、そんな! お代は払いますから」
市原大吾「今回は無料お試し。よく通販番組なんかであるでしょ。元々余って処理に困っていたから」
一ノ瀬こはる「じゃあお言葉に甘えて」
市原大吾「もしうちの生クリームが気に入ったら、来年また買いに来てください。とびきりのイチゴのケーキを用意しておきますから!」
一ノ瀬こはる「はい!」

〇店の入口
一ノ瀬こはる「約束したのに・・・」
一ノ瀬こはる「あのパティシエ・・・やっぱり」

〇炎
一ノ瀬こはる「私、約束守らない奴が一番嫌いなんだよ!」
  こはるは怒りの余り、店の壁を足で何度も蹴った。

〇店の入口
  その時こはるの背後から声が聞こえた。
  「やっぱりイチコだったか!」
  声に気づいたこはるは振り返った。
市原大吾「一ノ瀬こはる。俺より一つ年下で、子供の頃みんなにイチコって呼ばれていたよな」
市原大吾「生意気で、約束破るとすぐキレる女の子。性格は相変わらずみたいだな」
一ノ瀬こはる「やっぱりイチゴだったのね!」
市原大吾「何だよ、イチゴって。俺のことイチゴって呼ぶのは君だけだ」
一ノ瀬こはる「イチハラダイゴだから略して『イチゴ』でしょ! 約束を守らないのは相変わらずね。遊ぶ約束をいつもすっぽかしてたよね!」
市原大吾「いい加減、機嫌直してくれないかな。怖いんだけど」
一ノ瀬こはる「イチゴが約束守らないからでしょ! どうしてお店閉めたのよ!」
市原大吾「ごめん、君がイチコなのか確認したかったんだ」
一ノ瀬こはる「そんなことのためにクリスマスなのに店を閉めてたの!?」
市原大吾「いいんだよ。どうせお客は来ないからね。去年のことで悪い評判がついてしまったんだ」
一ノ瀬こはる「そうだったんだ」
市原大吾「お客のほとんどはうちのケーキを『心優しい髭のおじさん』とは思ってくれなかったみたい」
一ノ瀬こはる「覚えていたんだ、20年前のこと」
市原大吾「あの時も同じようにイチゴが手に入らなかったんだよな。その時イチコが言った言葉を去年君が言った」
市原大吾「それで君がイチコかもって思ったんだ」
一ノ瀬こはる「私も20年前にイチゴが言った『ただの髭のおじさん』ってセリフを思い出して気づいたんだ」
市原大吾「20年前、あの後君は引っ越したんだよな」
一ノ瀬こはる「でもパティシエになっていたとは思わなかった。イチゴはパティシエのお父さんの事嫌っていたでしょ?」
市原大吾「父親の味を守りたいって思うようになったんだ」
市原大吾「本当は父親の作る生クリームを俺も作れるようになって、誰かに喜んでもらいたかっただけかもしれないけど」
一ノ瀬こはる「・・・」
市原大吾「去年あの時パティシエを辞めようと思っていたんだ。それで一年後の今日君が来なかったら辞めるつもりだった」
一ノ瀬こはる「じゃあ続けるんだね、パティシエ」
市原大吾「えっ」
一ノ瀬こはる「本当は去年の次の日に店を訪ねたかったけど行けなかった。20年前の自分と今の自分は違うからどう思われるか怖かったんだ」
市原大吾「それは俺も同じだよ」
一ノ瀬こはる「ケーキ美味しかったよ。懐かしい気持ちになった。子供の頃私が大好きだった生クリームと同じ味だったから」
市原大吾「本当? 良かった」
一ノ瀬こはる「それより肝心の約束したケーキはどうなっているのかしら。忘れていましたなんて許さないからね!」
市原大吾「あ、あるよ、あるから。ちゃんと用意しているから。とびきりのケーキを」

〇ケーキ屋
一ノ瀬こはる「とびきりだけど、ちょっと、いや、かなりやりすぎじゃない?」
市原大吾「あれ、気に入らなかった?」
一ノ瀬こはる「嬉しいよ。でもやっぱりイチゴのショートケーキを期待していたから」
市原大吾「だったらまた来年用意するよ」
一ノ瀬こはる「はあ? 来年まで待たせるつもり?」
市原大吾「え」
一ノ瀬こはる「明日でも、明後日でも、これから毎日だっていいんだから!」
市原大吾「じゃあ明日、いや毎日作ろうかな」
一ノ瀬こはる「うん、じゃあ毎日で!!」
一ノ瀬こはる「さすがにこれはひとりで食べきれないな。一緒に食べてよ、イチゴ!」
市原大吾「うん、食べよう!」
一ノ瀬こはる「メリークリスマス、イチゴ!」
市原大吾「メリークリスマス、イチコ!」

コメント

  • 幼い時の2人が、お互いにイチコとイチゴと命名し合ったところから、なんだか2人の相性の良さを感じました。実際、イチゴショートと一件で思いやる2人がとてももどかしく素敵でした。

  • かわいい二人にキュンキュンしました!
    クリスマスケーキといえば、やっぱりイチゴのケーキですよね。
    ちゃんと約束通りに待ってるイチゴくんかっこいいです!

  • 可愛らしい二人ですね、女の子がとても純粋で、彼を元気づける、応援する感じがとてもよかったです。好きな彼には夢を追い続けてもらいたいですよね。

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