「さんたすさんわ」

まちは

遥かな贈り物(脚本)

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〇空
  今年も暮れようとしていた。
チナ(今年のクリスマスも、睦美には何も買ってあげられなかった)

〇古いアパート
チナ(来年1年生になるのに、何のプレゼントも用意出来ないなんて・・・)
チナ(思えば私も父子家庭で、クリスマスなんて関係なかったわ。でも・・・)

〇おしゃれな玄関
チナ「ただいまー」
むつみ「おかえりー 今、足し算の練習してたの」
ロック「ワン・ワン」
  いつも、睦美とロックが笑顔で迎えてくれる。

〇寂れた一室
むつみ「さんたすには、えーと、ご さんたすさんは、うーん、さんたすさんはー」
むつみ「さんたスさんは― サンタス サンワ― サンタサンワー !」
むつみ「あー、サンタさんだー」
むつみ「お母さん、サンタさんだ!サンタさんがいたよ!」
  突然、睦美(むつみ)が大きな声で叫んだ。
  私は、無邪気にはしゃぎ出す睦美の姿をじっと見つめていた。
  その時、振り向いた睦美の瞳が私を吸い込んでいった。

〇古いアパート

〇和室
  遠い記憶の中、お父さんの優しい笑顔が私を見つめている。
  私は、小さなコタツで算数の足し算の問題をしていた。
チナ「2たす8は、うーんと」
  私は小さな指を睨んでいる。
チナ「じゅう!10」
お父さん「チナ、足し算も沢山覚えたな」
チナ「うん」
  お父さんの優しい声が好きだった。
お父さん「チナ、今日はクリスマスだな」
  ―私は、知っていた。
  私の家にはサンタさんは来ないことを―
  ショウちゃんが言っていた。
ショウちゃん「サンタさんは、綺麗に片付いている子供の家を探してプレゼントを配るんだぞ。汚くてちっちゃな家なんかには入らないぞ」
  ―私は知っていた。
  今日は、クリスマスという日なんだと―
チナ「うん」
お父さん「チナ、もうすぐサンタさんに会えるね」
チナ「うん」
  ―お父さん、もういいよ。お父さん―
  私は何故か夢中になって計算問題を解いていた。
チナ「3たす1は、よん」
  お父さんの優しい視線を感じる。
チナ「3たす2は、ご」
  お父さんが優しく頷いてくれている。
チナ「3たす3は、ろく」
お父さん「うーん、もう一度言ってみて」
チナ「3たす3はー」
お父さん「もう少し早く」
チナ「えー、さんたすさんわー」
お父さん「もう少し」
チナ「さんた、さんわー  ?」
  私は気づいてしまった。
チナ「「さんたさんわー」 「サンタさんわー」」
  お父さんも私に合わせて言いだした。
お父さん「サンタさんはー、 ここにいたー」
  私はお父さんと大きな声で笑っていた。

〇寂れた一室
むつみ「? お母さん、どうしたの?」
  睦美は、過去に包まれていた私を不思議そうに見つめていた。
チナ「ううん、何でもないの。 ホントだね、サンタさんだね」
むつみ「3たす3は6・・・できた」
  睦美は満足そうに顔をあげた。
  3+3=6
  6
  そうだったんだ。
  私は胸の奥底から暖かくて透明なものがあふれてくるのを感じた。
チナ「ムーちゃん、お母さんねサンタさんの贈り物見つけちゃった」
むつみ「えっ、なに?」
ロック「クゥ~ん」
  私は、膝の横で寝転がっている子犬に目を向けた。
むつみ「あーっ、ロック。そうか、ろく、6だね」
  睦美は小さな両手でロックを激しくなでていた。
チナ「お母さんはもう一つ見つけたわよ。なんだかわかる?」
むつみ「・・・うーん、なんだろ」
チナ「ムーちゃん、むつみ、ム・ツ・ミ」
  睦美は、大きく口を開けて満面の笑顔を私に見せてくれた。
むつみ「むつみ、むつ、6つだ」

〇寂れた一室
  ロックは、私が小学校に入ったときに父が連れてきた。
  今は3代目のロックだ。
  何故、父はロックという名前を付けたのか、何故、我が家の犬はみんなロックというのか、考えてもみなかった。
  睦美が私生児として生まれたときも、父がどうしてもと言うのでこの名前を付けた。
  何故、睦美と付けたいのか理由は言わなかった。

〇寂れた一室
チナ(お父さん、遅くなったけどクリスマスプレゼントありがとう)
  私は睦美を膝に抱えて、ぎゅっと抱きしめ続けた。

〇和室
  幼い私の声が聞こえる。
チナ「お父さん、新しい計算できたよ」
お父さん「なんだい」
  私はノートの真ん中に式を書いた。
  『3+3=88』
お父さん「うーん、難しい式だね。おとうさんにはわからないな」
  優しいお父さんの顔が横にあった。
チナ「これはねー、3たす3はー」
  私はじらすように笑顔でお父さんを見つめている。
チナ「3たす3はーパパ。・・・サンタさんは、パ・パ」

〇古いアパート
  私は、お父さんの温もりに包まれていた。

〇空
  おしまい

コメント

  • 心がぽっと暖かくなるような素敵な計算式ができあがりましたね。こんなふうに、世代を超えてあたたかい計算式が受け継がれていくのも素敵だと思いました。

  • 私が小学生の頃は貧乏でした。クリスマスなんか有りません。サンタさんがプレゼントをくれたことはありません。この物語を読んでいて涙が出てきました。幸せはどこかにあるんですね。

  • 優しさに溢れるお話でほっこりしました。この優しさこそが何にも勝るプレゼントなんだと思います!作者様も優しい心の持ち主なんでしょうね☆

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