〇雲の上
　　Presented by 『TapNovel』
　　────── 　　天界　 　──────
　　── ベル、
　　アナベル ──

〇木の上
　　アナベルよ ──

〇大樹の下
　　アナベル ──
　　アナベーーーールッ！
　　アナベ・・・
　　・・・・・・

〇美しい草原

〇後宮の庭

〇豪華な王宮
天使アナベル「お呼びでしょうか」
愛の女神カミラ「１時間半・・・呼びました」
天使アナベル「慈悲のかたまり」
愛の女神カミラ「貴女と接する度に 堪忍袋のポテンシャルに驚くわ」
愛の女神カミラ「呼ばれた理由は分かりますね？」
天使アナベル「もちろんでございます」
天使アナベル「昇級ですね」
愛の女神カミラ「うふふ」
愛の女神カミラ「腐れポジティブ」
愛の女神カミラ「貴女にコレを授けましょう」
天使アナベル「これは？」
愛の女神カミラ「転送陣の複写用紙です」
愛の女神カミラ「裏がカーボン紙になっているわ」
天使アナベル「ヤダすごい、シンプルにいらない」
愛の女神カミラ「この映像をご覧なさい」

〇パチンコ店
天使アナベル「んだよォオオッ!! クソがァアアアアア～～～ッ!!」
パチンコ『ヘヴンズ・パラノイア』店員「ぉぉお客様ァッ!!」

〇豪華な王宮
愛の女神カミラ「なにか言いたい事は？」
天使アナベル「『確変突入率50%』は 絶対ぇヤってんなって──」
愛の女神カミラ「店舗に言いてぇコトじゃねーんだよォ!!」
愛の女神カミラ「勤務時間中にギャンブル・・・」
愛の女神カミラ「顧客である人間とのガチ喧嘩・・・」
愛の女神カミラ「会社の備品をネットで転売・・・」
愛の女神カミラ「貴女の問題行動に伴うクレームで」
愛の女神カミラ「コールセンターの天使達が 全員ノイローゼなの」
愛の女神カミラ「遂には『愛する社員は守る！』と」
愛の女神カミラ「ゴッド（社長）がクレーム対応を 一手に引き受け──」
愛の女神カミラ「先日、急性胃潰瘍で入院しました」
天使アナベル「オー・マイ・ゴッド」
愛の女神カミラ「うるせえ」
愛の女神カミラ「とても残念ではありますが 緊急役員会議にて・・・」
愛の女神カミラ「株式会社『天』から 貴女の除名処分が決定しました」
天使アナベル「そ、そんなバカな!?」
愛の女神カミラ「ここまでの流れで『バカな』が出てくる 貴女のメンタルに震えるわ」
天使アナベル「だって、おかしいだろッ！」
天使アナベル「“天使”は終身雇用のハズだァ!!」
天使アナベル「解雇するなら30日前の 予告通知が義務付けられているッ!!」
天使アナベル「これは不当解雇だァーッ!!」
愛の女神カミラ「テメェ仕事はしねぇのに 都合の良いルールには詳しいな・・・!!」
愛の女神カミラ「いいですか よくお聞きなさい」
愛の女神カミラ「”解雇”ではありません」
愛の女神カミラ「”除名”です」
天使アナベル「ん??」
愛の女神カミラ「貴女の言う通り “天使契約”は簡単にクビには出来ません」
愛の女神カミラ「ですので、契約種別を変更し」
愛の女神カミラ「貴女を”堕天契約”にする事となりました」
天使アナベル「だてんけいやく？」

〇空
　　────── 　 人間界　 　──────

〇大企業のオフィスビル

〇高層ビル（看板あり）
天使アナベル「いってぇ～・・・」
天使アナベル「天界から落としやがった あの乳信仰の化身め」
天使アナベル「・・・・・・」
天使アナベル「とりあえず “死にそうな人間”を探すかぁ・・・」

〇豪華な王宮
天使アナベル「だてんけいやく？」
愛の女神カミラ「業務内容は今までと変わりません」
愛の女神カミラ「死者の魂を保護して 天界へ送ってちょうだい」
愛の女神カミラ「届いた魂は私たちが浄化して 来世へと『転生』させます」
天使アナベル「じゃあ何が変わるん？」
愛の女神カミラ「直接の雇用契約でなく ”外部委託”という形にします」
天使アナベル「がいぶいたく？」
愛の女神カミラ「会社として貴女の面倒は、もう見ません」
愛の女神カミラ「代わりに”自営業者”として 下請けで雇います」
愛の女神カミラ「個人の会社として扱うので 自分の好きなように働けばいいわ」
愛の女神カミラ「我々は貴女に 仕事の”成果”しか求めません」
天使アナベル「えっ!? じゃあ勤務時間は・・・！」
愛の女神カミラ「自由よ」
天使アナベル「きゅ、給料は・・・!?」
愛の女神カミラ「完全歩合制になります やればやった分だけ払うわ」
愛の女神カミラ「たとえ何百万でもね」
天使アナベル「マジか・・・!!」
愛の女神カミラ「お前さっきから ナチュラルにタメ口なの、なんなのマジで」
愛の女神カミラ「言っておくけど その代わり福利厚生は一切ナシよ」
愛の女神カミラ「失業保険もナシ、退職金もナシ」
愛の女神カミラ「別の会社なんだから当たり前よね」
愛の女神カミラ「問題を起こせば 容赦なく”処罰”するし、契約も切るわ」
愛の女神カミラ「『下請けの人間が勝手に問題を起こした』」
愛の女神カミラ「『訴えるならアナベルを訴えて下さい』」
愛の女神カミラ「我々は全力で責任から逃れます」
天使アナベル「な、なんて邪悪な契約なんだ・・・」
愛の女神カミラ「ハイリスク&ハイリターンね」
天使アナベル「ハイリスク・・・ハイリターン・・・!!」
愛の女神カミラ「ギャンブルは好きでしょう？」
愛の女神カミラ「『フリーランス』の」
愛の女神カミラ「『アナベル社長』さん」

〇雷
天使アナベル「『アナベル社長』!!!!」
　　ついに ──
　　アタシ、天下取ったんじゃね？

〇工事現場
　　ちなみに ──
　　貴女は株式会社『天』の
　　”天使”ではなくなるのだから
　　ゴッド（社長）の御使いである
　　”能力”は剥奪されるからね ──
天使アナベル「つまり天界には 出禁って事じゃねぇか」
天使アナベル「これで転送陣を複写して？ 捕まえた魂を放り込めって？」
天使アナベル「空も飛べないし・・・」
天使アナベル「天使の輪も機能しないから 魂センサーも使えないし・・・」
天使アナベル「あぁ～～もう～～・・・」
　　ハイリスク&ハイリターンね ──
天使アナベル「ふふふ・・・」
天使アナベル「魂を捕まれば 捕まえるほど金になる～♪」
天使アナベル「この辺りに処刑場とかないかなぁ♪」
天使アナベル「一攫千金で早期退職だぜーッ！」
「こんにちわ～ 宅配便です～」

〇タワーマンションの裏口
配達員「こんにちわ～」
配達員「・・・・・・」
配達員「また留守か・・・」
配達員「終わらない・・・ 時間がない・・・」
配達員「はぁ、はぁ・・・オェ、」

〇工事現場
天使アナベル「あの爺さん すっげぇ死にそうだな・・・」
天使アナベル「アタシ、やっぱツイてんな！」

〇停車した車内
配達員「急がないと・・・」
天使アナベル「Let's Go！爺さん！」
配達員「なななんじゃあ!? アンタぁ!?」
天使アナベル「手伝ってやるよ（死ぬの）」
配達員「ヤバい薬でもやっとんのか・・・!?」
配達員「い、忙しいんじゃから コスプレ自慢なら他所でやっとくれ！」
天使アナベル「コスプレじゃねぇよ ガチ天使だっつーの」
配達員「そ、そんな・・・」
配達員「とうとうワシにも 天からお迎えが──」
天使アナベル「今ちょっと飛べないけど」
配達員「コスプレじゃないかいッ！」
配達員「は、はい！ ドライバーのクニミツです！」
クニさん「はい、再配達ですね！ 次が最短で14時以降に──」
クニさん「え、えぇ・・・？ 何回も鳴らしましたよ・・・!?」
クニさん「い、今からですか!? そんな、すぐ必要と言われましても・・・」
クニさん「それはちょっと──もしもし!?」
天使アナベル「どしたん」
クニさん「『家に居たのに不在票を入れられた』って」
天使アナベル「あぁ、爺さん荷物届けてんのか」
天使アナベル「寝てたんじゃねぇの、そいつ」
クニさん「『家を間違えたんだろう』って・・・」
クニさん「今から仕事で使うものだから すぐにまた持って来いって・・・」
天使アナベル「よく分かんねぇけど 電話かけて来てるんだよな？」
天使アナベル「間違ってねぇじゃん」
天使アナベル「ヤバい薬でもやってんじゃねぇの」
クニさん「アンタが言うな・・・」
クニさん「と、とにかく時間がないんじゃから 車から早く降りとくれーっ!!」
天使アナベル「だから手伝ってやるって」
天使アナベル「急いでんだろ？」
クニさん「くっ・・・ぬぅ・・・」
天使アナベル「ほらほら」

〇大企業のオフィスビル
クニさん「もう乗ってていいから 邪魔せんといてくれッーーーーッ!!」

〇中規模マンション
クニさん「す、すいませんでした！ ありがとうございましたーッ！」
クニさん「時間がない・・・ 間に合わない・・・」
天使アナベル「何で謝ってんだよ？ 人に迷惑かけてんのアイツだろ？」
クニさん「いちいち気にしてたらキリがないんじゃ！」
クニさん「チャイムに”気付いてない”時点で」
クニさん「”自覚”がないから 自分が悪いなんて思わないんじゃ！」
クニさん「どっちが悪いかなんて 下らない事でモメてたら──」
クニさん「配達が終わらないんじゃあッ!!」
天使アナベル「どーりで 死にそうな顔してるワケだなぁ・・・」

〇屋根の上
クニさん「その格好なんとかならんのか・・・？」

〇屋根の上
アナベル「『エレベーター点検中』だってさ」

〇マンションの非常階段
クニさん「おんどれ！ ちゃんとチカラ入れんかい！」
クニさん「アンタが『２人で運ぼう』って 言ったんじゃろがいッ！」
天使アナベル「いや全力だってー マジ全力だってー」
クニさん「ホントに手伝っとんのか!? 逆に重くなっとんぞッ!!」
天使アナベル「社会に貢献すると じんましん出るんだ、アタシ」
クニさん「どういう十字架を背負って 『天使』名乗っとんじゃ！おんどれ！」
天使アナベル「クニさんファイトー♡ もうちょいだぜー（天国まで）」

〇マンションの共用廊下
天使アナベル「またいねーの？」
クニさん「みたいじゃな・・・」
天使アナベル「車に戻すの面倒くせぇよ、コレ」
天使アナベル「出す時に雪崩起きたじゃん ほとんど積み直しだろアレ・・・」
クニさん「デカくて重いのは一番下に積まなきゃ 他のが潰れてしまうじゃろが」
天使アナベル「これも“再配達”なんだろ？」
クニさん「昨日、不在だったヤツじゃな」
天使アナベル「夕方に持って来いって テメェで指定してたんじゃねーの？」
天使アナベル「なんでいねーんだよ ケンカ売ってんのか？」
クニさん「仕方ないじゃろ・・・ なんか予定でも変わったのかも知れんし」
クニさん「というか、なんでアンタが ワシよりキレてんじゃ・・・」
天使アナベル「だってクニさん、ムカつかねぇの？ ナメてんだろ邪魔しやがって」
クニさん「アンタこそ今日ずっと ワシの邪魔しとんじゃろがいッ！」
天使アナベル「もうドアの前に置いてっちまおーぜ」
クニさん「本人に頼まれてない限り 勝手にそんな事しちゃいかん」
クニさん「万が一でも盗まれた場合──」
クニさん「ワシらが疑われる」
クニさん「『盗んだ』とか『失くした』とかな」
天使アナベル「はぁ!? 約束守んねぇコイツが悪いんだろが!?」
クニさん「さっき言ったじゃろ・・・」
クニさん「”どっちが悪い”かよりも」
クニさん「”どっちが面倒にならんか”なんじゃ」
天使アナベル「納得できねぇなぁ～・・・」
クニさん「まだ悪気がないだけマシじゃよ」
クニさん「自分で荷物を隠して 賠償金せしめようって輩もおるわい」
天使アナベル「なんだそりゃ・・・！」
クニさん「胸くそ悪い話じゃろ・・・」
天使アナベル「そんな事あんのか・・・」
天使アナベル「へぇ～・・・」
天使アナベル「なるほどな～」
クニさん「なにを『良いこと聞いた』 みたいな顔しとるんじゃ！あほんだらァ!!」
天使アナベル「・・・・・・」
天使アナベル「考えてみりゃ」
天使アナベル「”自分で運ばなくていい”って便利だよなぁ」
天使アナベル「いっかく～♪ せんきん～♪」

〇トラックのシート
天使アナベル「あと何件あんの？」
クニさん「あぁ～・・・」
クニさん「100件ちょっとじゃな」
天使アナベル「ハァアアアッ!!??」
天使アナベル「ふざけんなよ！」
天使アナベル「１件配達するのに平均３分だとして ダッシュしても１時間で20件がギリだろ!? 何時までやるつもりだよ!?もう夕方だぞ!?」
クニさん「だからずっと『時間ない』って ゆーとるじゃろが!?」
クニさん「アンタそういう計算やたら早いな!?」
天使アナベル「１日４時間以上働くと 精神が壊れんだよアタシはァ～ッ!!」
クニさん「もうツッコまんわ、アンタには・・・」

〇屋根の上
天使アナベル「早く終わらせて帰るぞォ!!クニさーん!!」

〇屋根の上

〇トラックのシート
天使アナベル「全然・・・終わんねぇ」
クニさん「とりあえず日にちの 指定がある荷物だけはやらんと」
天使アナベル「ふざけんなよ・・・どいつもこいつも」
天使アナベル「日が暮れてから ずっと電話鳴ってんじゃねーか」
天使アナベル「再配達、再配達、再配達って 少しも荷物が減らねぇ・・・クソ共が」
クニさん「そら平日なんか みんな働いてるからの・・・」
クニさん「とはいえ全部が全部を 夜に指定されても回り切れん・・・」
天使アナベル「ハナっから無理ゲーじゃねーかよ」
天使アナベル「よくこんな仕事やってんな クニさん・・・」
クニさん「まぁな・・・」
クニさん「そらワシだって」
クニさん「こんな歳まで 何もやって来んかったワケじゃない」
クニさん「”やりたい事”と”出来る事”は 必ずしも一致する訳じゃないからの」
天使アナベル「やりたい事あんなら それでメシ食った方がいいんじゃねぇの？」
「・・・・・・」
クニさん「”働く”ってことは ”誰かの役に立つ”って事じゃ」
クニさん「だから代わりにお金が貰える」
クニさん「自己満足だけで誰の役にも立たんなら それは”仕事”とは言わん」
天使アナベル「・・・・・・」
天使アナベル「生きてて しんどくねーの？」
クニさん「・・・・・・」
クニさん「・・・まぁ」
クニさん「しんどいは、しんどい」
天使アナベル「クニさん──」
クニさん「でもな」
クニさん「”誰かがやらなきゃいけない事”で」
クニさん「頑張って喜んでもらえるなら──」
クニさん「ワシは生きてて楽しいよ」
天使アナベル「・・・クニさん」
天使アナベル「アタシより よっぽど天使だよ、アンタは」
クニさん「それは間違いないな」
「あはははは──」
クニさん「『カシュッ』じゃねーわァ!!」
天使アナベル「酒のツマミみてぇな話し方すっから・・・」
クニさん「まだ配達残っとるわァ！ どこで買って来たんじゃ！あほんだらァ!!」
天使アナベル「貰ったんだよ！ さっき配達行った家から!!」
クニさん「『貰い物はOK』なんてルールないからな!?」
クニさん「早く終わらせて帰るぞ！まったく!!」
天使アナベル「ていうかアタシ なんでこんな事やってんだっけ・・・？」

〇高級一戸建て
クニさん「とりあえず 今日はここで最後じゃ・・・」
天使アナベル「なんだコレ・・・全部同じヤツかよ？」
天使アナベル「まさか全部、再配達か!?」
クニさん「有名な『モンスター客』でな」
クニさん「わざと“受け取らない”んじゃ」
天使アナベル「意味が分かんねーよ・・・」
クニさん「毎日毎日・・・何回も何回も 再配達を依頼して──」
クニさん「出てこない」
天使アナベル「車もあるし 家の電気も点いてんじゃん」
クニさん「インターホンにカメラも付いとる」
クニさん「”分かってて” 出てこないんじゃ・・・」
クニさん「不在票を入れて帰るぞ・・・」
天使アナベル「で、明日も来るワケ？」
クニさん「たぶんな」
天使アナベル「シカトすりゃいいんじゃね？」
クニさん「そしたら、こっちが”悪者”にされる」
天使アナベル「はぁ!?」
クニさん「それを狙っとんじゃ 『頼んだのに来なかった』」
クニさん「理由があれば”クレーム”に出来る 『自分は悪くない』『悪いのはお前ら』」
天使アナベル「ちょっと代われよ、クニさん」
クニさん「アンタの格好見たら 余計に出て来ないじゃろ・・・」
天使アナベル「何がしてーんだよ、このクソやろう」
クニさん「知らん 昔なんかあったんじゃろ」
天使アナベル「そんなんアタシらに関係ねーだろ」
クニさん「特定のドライバーが嫌いで 身勝手な八つ当たりをする客だっておる」
天使アナベル「あの荷物どうすんだよ」
クニさん「月に１回くらい 親らしき差出人から食品が届く」
クニさん「あと会社からのお中元とか そういう”モメそうな荷物”は受け取る」
クニさん「貼り紙で『置いとけ』ってな」
天使アナベル「そこで初めて全部置いてくワケかよ」
クニさん「それまでは”タダ働き”じゃな」
天使アナベル「タダ働き!?なんでだよ!?」
クニさん「だってワシ、歩合制じゃもん・・・ 配達出来なきゃお金はもらえん」
天使アナベル「歩合制・・・」

〇豪華な王宮
　　完全歩合制になります
　　やればやった分だけ払うわ
　　たとえ何百万でもね

〇高級一戸建て
天使アナベル「やれば・・・ やった分だけ稼げるって・・・」
クニさん「あのなぁ・・・」
クニさん「都合のいい考え方しちゃいかん」
クニさん「”出来なかったら０円”なんじゃから」

〇雷

〇高級一戸建て
天使アナベル「そういう事かよチクショーーーッ!!!!」
　　うるっっせぇーーーーッ!!!!
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「何回押してんだお前らァ!!!!」
クニさん（ま、まずい・・・!!）

〇トラックのシート
　　い、いかん・・・
　　出て来よった・・・
　　ワシも仲間だと思われたら
　　仕事クビになるかも知れん・・・
　　す、すまん ──
天使アナベル「んだとォッ!! この○○○ーーッ!!!!」

〇高級一戸建て
天使アナベル「44回だァッ!!!! ○○○がァッ!!!!」
天使アナベル「ブチ○すぞ○○○がァ!!!!」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「え、えぇ～～・・・」

〇トラックのシート
クニさん「・・・・・・」
　　なん・・・だと・・・
　　はるかに上回るテンションで
　　逆ギレされて黙りおった・・・

〇高級一戸建て
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「な、なんなのよコイツ・・・」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「け、警察・・・！」
天使アナベル「ポリスに甘えんなァッ!!!!」

〇トラックのシート
　　もはや聞いたことない
　　キレ方しとる・・・

〇高級一戸建て
天使アナベル「アタシは『運命の女神フォルトゥナ』」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「すごいウソ吐いてくる・・・」
天使アナベル「ウソではありません」
天使アナベル「お前もこうなる」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「ひ、ひいぃぃぃッ!!!!」
天使アナベル「哀れな魂を救済するのが アタシの仕事──」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「い、今のは貴女が“哀れ”にしたんじゃ」
天使アナベル「結果的に”哀れ”なら プロセスなど、どうでもいい」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「た、助けて・・・誰か・・・!!」
天使アナベル「お前は『罪』を重ね過ぎた 哀れすぎる極悪人だ」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「わ、私は何も──」
天使アナベル「なぜ自ら頼んだ宅配便を受け取らない」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「わ、私は悪くない！」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「それにそんなの 『運命の女神』に何の関係があるのよ!?」
天使アナベル「えっ・・・」
天使アナベル「それは・・・」
天使アナベル「アレよ・・・ ”運ぶ”感じのは・・・」
天使アナベル「だいたいアタシが司っている」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「そんなフワッと担当決まるとか」
天使アナベル「黙れババア 零細企業は基本そうだろうが」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「ひ、ひぃ・・・！」
天使アナベル「罪を告白して許しを乞え、このカス」

〇トラックのシート
　　よく分からんが・・・
　　共犯にだけはされたくない・・・
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「悪いのはアイツらじゃないのよ!!」

〇高級一戸建て
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「私だって忙しいのよ!!」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「毎回！毎回！ 一番遅い時間に指定してるのにッ!!」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「なのに、いっつも！ 時間ピッタリとか５分後とか!!」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「早すぎるのよ!! 自分が早く帰りたいからって!! 客の都合なんか何にも考えてない!!」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「いい加減、腹立ったから 反省するまで再配達させてんのよ!!」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「何が悪いワケ!? 最初に嫌がらせされたのは私なのよ!?」
天使アナベル「・・・・・・」
天使アナベル「今日は、」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「えっ？」
天使アナベル「お前が”一番最後”だけど」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「だから何よ!? そういう問題じゃないのよッ!!」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「責任者を呼んで きちんと謝罪するまで許さない!!」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「いい加減な配達をして 大変申し訳ありませんでした──」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「今後はお客様の都合を 第一に考えて配達します──ってね!!」
天使アナベル「いい加減な配達・・・？」

〇タワーマンションの裏口
クニさん「はぁ、はぁ・・・オェ、」

〇中規模マンション
クニさん「す、すいませんでした！ ありがとうございましたーッ！」

〇マンションの非常階段
クニさん「ちゃんとチカラいれんかい！」

〇マンションの共用廊下
クニさん「仕方ないじゃろ・・・ なんか予定でも変わったのかも知れんし」

〇トラックのシート
クニさん「”誰かがやらなきゃいけない事”で」
クニさん「頑張って喜んでもらえるなら──」
クニさん「ワシは生きてて楽しいよ」

〇高級一戸建て
天使アナベル「・・・・・・」
天使アナベル「お前さ」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「なによ」
天使アナベル「宅配便の助手席、」
天使アナベル「乗ったことあるか？」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「あるワケないでしょ!?」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「あんな汚い車!!」
天使アナベル「あっそ・・・」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「なによ!! なにが言いたいのよ!?」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「どうせ私が悪いって言いたいんでしょ!?」
天使アナベル「・・・・・・」
　　だってワシ、歩合制じゃもん ──
天使アナベル「どうでもいい」
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「はぁ？」
天使アナベル「”どっちが悪い”とか、」
天使アナベル「どうでもいい」
天使アナベル「お前の言い分も、 お前の都合も、どうでもいい」
天使アナベル「理解しろとも、 反省しろとも、お前には──」
天使アナベル「”言いたくない”」

〇トラックのシート
天使アナベル「面倒くせぇから勝手にしろよ」
配達員「・・・・・・」
天使アナベル「一つだけ、」
天使アナベル「”神のお告げ”を授けてやろう」

〇高級一戸建て
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「お、お告げ・・・!?」
天使アナベル「よ～く、その胸に刻むがいい」
　　テメェ、誰に向かって
　　ケンカ売ってんの？
　　こっちはテメェの
　　住所、氏名、連絡先 ──
　　家族構成に、
　　車のナンバー、
　　大体の在宅時間帯から、
　　絶対に留守の時間帯 ──
　　そのうえテメェに関しては
　　親の名前に、
　　実家の住所と連絡先、
　　あと勤め先まで把握してっからな？
　　身の程わきまえて、もの喋れよカス
　　テメェの日常ぶっ壊そうと思えば
　　いくらでも方法あんだからな？
　　手始めに全部SNSにでも
　　晒してやろうか？
　　なぁ？
　　『悪質なモンスター客です』ってよぉ？
有名クレーマー『苦嶽ケイコ』「あわわわ・・・」
天使アナベル「荷物持って、」
天使アナベル「失せろ」

〇トラックのシート
天使アナベル「帰ろうぜ」
クニさん「完全にアウトじゃからな・・・」
天使アナベル「人間界のルールなんか知らん」
クニさん「ワシは無関係だと主張するからな・・・!!」
クニさん「まぁ・・・なんだ、」
クニさん「ありがとな」
天使アナベル「・・・別に、」

〇屋根の上
　　ムカついた・・・だけだっての
　　そうかい
　　なぁ、クニさん
　　なんじゃい
　　働かないで稼げる方法ねぇかな
　　３つ知っとる
　　マジで!?
　　が、ぜんぶ捕まる
　　オー・マイ・ゴッド
クニさん「だから言ったじゃろッ!! あほんだらァー!!」

〇工房の倉庫
クニさん「じゃあ、気をつけて帰れよ」
クニさん「もう２度と会いたくないけどな」
天使アナベル「クニさん」
クニさん「あん？」
天使アナベル「長生きしろよ」
クニさん「はは、ありがとよ」
天使アナベル「あ～あ・・・」
天使アナベル「結局なーんも成果なしだな」
天使アナベル「どーすっか・・・」
天使アナベル「車・・・宅配便・・・」
天使アナベル「考えてみれば・・・別に」
天使アナベル「”死にそうな人間”の必要ねぇな」
天使アナベル「”結果的”に・・・魂だったらさ」
天使アナベル「くくくっ・・・」
クニさん「なんてこった・・・！ 再配達が漏れとった・・・!!」
天使アナベル「お～し！ こんだけ前後に”転送陣”を描いとけば、」
クニさん「うわバカッ──」

〇黒

〇工房の倉庫
クニさん「消えおった・・・？」
クニさん「ワシの車は・・・？」

〇後宮の庭
　　────── 　　天界　 　──────

〇豪華な王宮
愛の女神カミラ「丸一日かけて ようやく一つ目・・・」
愛の女神カミラ「まったく・・・ 本当に仕事しないわね、アイツは──」

〇後宮の庭

〇木の上
　　うっ・・・
　　あれ・・・？
　　アタシは ──

〇大樹の下
　　あぁそうか・・・
　　アタシが転送陣に入ったところで
　　フツーに天界へ来ちゃうだけか
　　なぁんだ・・・
アナベル「ビックリしたわ～・・・」
アナベル「は？」

〇ファンタジー世界
　　──── 異世界『エルイース』 ────
アナベル「あんじゃコリャァァアアアーーッ!!!!」
「・・・・・・」
アナベル「イヤお前もかーーーーいッ!!!!」
　　TO BE CONTINUED ──